こんにちは、日向です。
先日、和歌山市民図書館が入っている商業施設・キーノ和歌山についての一考察として、
南海電鉄がオープンしたこの駅ビルの地元店舗は、ほとんど飲食店しかない点を指摘しました。
誰が“駅前”を殺したのか?~キーノ和歌山の意外な真実~
百貨店が閉店した後に建て替えた駅ビルなのに、ファッション関連がただの一店舗もありません。
洋服はもちろん、アクセサリーやバッグ、シューズ、コスメ等の店もないため、ファッションの要素が決定的に欠けていることが、商業施設として、いまひとつ物足りなさを感じるひとつの原因になっているのではないのか。
そう指摘しました。これ、なぜそうなっているのか、不可解としかいいようがなく、駅ビルオーナーの南海電鉄が意図して、そのような開発を行なったかというと、そうとも思えません。
かといって、RIAやCCCが店舗誘致に深く関与していたことも考えにくい。結果的になんとなくそうなってしまったと、とらえるしかありません。
募集賃料が想定よりも高かったため、ある程度売上が見込める飲食店しか出店してこなかった
ということくらいは、言えると思いますが(ただし、一般的に言って、賃料相場は飲食店より販売業のほうが高い)
だとすれば、人気のアパレルや雑貨、コスメの企業が、どうして出てこなかったのかは、依然としてなぞのままです。
もしかしたら、どこも、新しくできる市駅前のビルには採算が合わないとソロバンを弾いたのかもしれません。(CCCのように、スタバと蔦屋書店が月19万円で借りれるなら、出店したい企業は続出したはずですが)
さて、私がこの件にいまだに拘っているのは、すでに和歌山市内市には、スターバックスもTSUTAYAも何店舗も進出していて、人口36万人を擁する県庁所在地のまちであるにもかかわらず、「関西初出店のツタヤ図書館」を売りにして、集客しようとしていたからです。
TSUTAYA・スタバとコラボしてできたオシャレな図書館を一目見たい、独特のオシャレスポットで過ごしたい。そう思う観光客を、関西圏全域から呼び寄せて、賑わい創出につなげたいというのでしょうか。
そんなことを考えているうちに、ふと思いだしたのが、かつて私鉄各社が自社の鉄道網を整備拡大していく途上で、手掛けた開発行為のパターンです。
都心部からドーナッツ状に郊外へと伸びていく先には、何があるのかと聞かれたら、あなたはどう答えますか?
そう、ターミナル駅の遠く先にあるのは、遊園地や動物園などのレジャーランドです。
そのことを思い出させてくれたのが、猪瀬直樹『ミカドの肖像』(小学館)にある、こんな記述です。少し長いのですが、引用します。
私鉄の発達は、ライフスタイルの転換をもたらした。従来の盛り場は浅草や水天宮や深川や湯島や 神楽坂や......、と挙げていくとわかるように、神社・仏閣、あるいは遊興の地という“江戸”の延長線にある都市空間であった。しかし、郊外住宅と私鉄の発達は、都市のターミナル駅、新宿、渋谷、 池袋などの新しい盛り場を用意した。ターミナル駅には通勤客だけではなく、その家族を吸引する装置としてのデパートがあった。デパートの屋上には、必ず小さな遊園地がある。そして、都心とは反対の端、終点にはスケールの大きい遊園地がつくられる、というのがひとつのパターンであった。都心への人の流れは、通勤という日常性に収斂され、逆に、郊外への小旅行はレジャーランドにおける 祝祭空間への移動を意味した。西武の豊島園、東急の多摩川園、玉電の二子玉川園......というように 郊外の庭付一戸建ての小さな文化住宅を挟んでひとつの端にはデパートが、もういっぽうの端にレジャーランドが配置されたのである。すでにして私鉄は、その発生とともに、切符を売るだけでなく、ライフスタイルをも売り出していたことになる。(猪瀬直樹『ミカドの肖像』169pより)
末尾のくだり“私鉄は、その発生とともに、切符を売るだけでなく、ライフスタイルをも売り出していた”との記述に、私は、思わず、和歌山市のケースを重ねてしまいました。
すなわち、大阪の中心地である・なんばを起点とした南海本線の一方の終着駅である、和歌山市駅は、ターミナル駅ではなく、大阪の都会から来た人が休日に非日常を感じるために訪れる「祝祭空間」をめざしているのではないのか。そのライフスタイルとして存在しているのがツタヤ図書館になった和歌山市民図書館なんだろうか。
そう思ってしまったんですね。しかし、当時の鉄道会社でほんとうに、そのライフスタイルを提示できたのは、実は一社しかなかったことがあきらかになります。
つづきを引用してみましょう。
こうした私鉄経営の基礎イメージをつくったのは、宝塚歌劇の創始者小林一三の阪急である。阪急の前身箕面有馬電気軌道(現在の宝塚線)が開通したのは、明治四十三年であった。小泉信三は、『小林一三翁の追想』で、明治三十三、四年ころ、少年時代に訪れた宝塚の想い出をつぎのように綴っている。
「川に臨んでまばらに建つ旅館の一つに上って昼飯を食うと、女中が裾をからげて跳足で頑へ降り、或る場所からビンに水を汲んで来た。口に栓をして、これが炭酸泉だという。しばらくしてポンと音がして、ビンの栓が飛んだ。これが鉱泉の鉱泉たるところだ、という訳で、吾々はそれを珍重して飲んだ。河原の彼方から鶏の声がきこえて来る」
宝塚は、「当時は見る影もない寂しい一寒村にすぎなかった」(小林一三著『宝塚漫筆)のである。 しかも食塩アルカリ性の鉱泉と炭酸泉で、ボイラーで沸かすほかなかった。その宝塚に大理石造りの新温泉が建設され、面目を一新することになる。千人風呂と呼ばれた大浴場には、「泳ぐべからず」 の札があったにもかかわらず、大人も子供も嬉々として泳ぎ、中央のライオン口からはいつも熱湯が 噴き出ていたという。 「そんな雰囲気をしのばせる例として、『わが小林一三清く正しく美しく』(阪田寛夫著)に、新温泉建設七年後に当時の若手女流歌人が宝塚少女歌劇の機関誌に寄稿した歌が紹介されている。
大理石の温泉の中に浪子は、ギリシヤの女に似したちすがた 高安やす子
湯あがりのかるき身をなげたぐひなきここちにぞよる土耳古椅子かな 矢沢 孝子
鄙びた温泉の朽木のイメージが、すべすべした大理石のエキゾティックで明るいイメージに転換したさまは、感動的ですらあった。すでに、読者は気づいていると思うが、堤康次郎が軽井沢の土地を入手してまず手掛けたのは、大理石風呂であった。明らかに、宝塚を意識していた。
小林一三の「最大の卓見は、ここに『女子供』即ち家族連れを集めてみようとする考えだった」 (『わが小林一三)が、そのためのイベントとして宝塚少女歌劇の発想が浮かんだ。私立宝塚歌劇学校 が文部省の認可を受けたのは、大正七年のことであった。堤康次郎や、五島慶太をはじめ、立志伝中 の私鉄経営者が、その規模において阪急を上回ることができたとしても、ついに追随できなかったのが、この宝塚少女歌劇ということになるだろう。それはともかく、こうして小林一三を先駆者とする 私鉄経営のノウハウは、療原の火のごとくという形容がけっしてオーヴァーでないほどにまたたく間に全国に普遍化していく。いたるところに、江戸的情緒とは別の、新しい祝祭空間としてのレジャーランドが誕生することになる。(猪瀬直樹『ミカドの肖像』169-171pより)
のちに「タカラジェンヌ」と呼ばれるスターを次々と輩出した宝塚歌劇団をつくったのは、阪急電鉄の創始者である小林一三であることは有名です。
小林のまねをして、西武の創始者・堤康次郎(あだ名は「ピスルト堤」)や、東急の創始者・五島慶太(あだ名は強盗慶太)が鉄道路線郊外にレジャーランドをつくって成功をおさめましたが、最後まで、2人がマネすることができなかったのが宝塚少女歌劇というコンテンツでした。
宝塚というコンテンツは、手っ取り早くつくられた「商品」ではなく、幾世代の風雪をへて育まれてきた「文化」でした。
「寂しい一寒村」だった地域に、私費を投じて学校を建設して、そこで育てあげられた若き才能が花開いたものです。
ビジネスというよりも、小林翁の趣味というか、道楽の延長戦上にあったものなのでしょう。こうした芸能文化は、手っ取り早い金儲けにはならないかもしれませんが、いつまでも生き残り、結果的に多くの人をひきつけたと言えるでしょう。
やがて電車に乗って、その芸能文化を楽しむために出かけるライフスタイルに、価値が見出される時代が到来したんだと思います。
さて、話を和歌山市に戻します。小林翁とは、志向が異なりますが、TSUTAYAの創業者である増田宗昭社長も、これまた「文化」というものこそが商売のコアになることを知り尽くした天才的詐欺師、じゃなかった経営者です。
彼が発案したツタヤ図書館事業(樋渡前市長の発案とされているが、事業展開はCCCによるもの)というのは、極論を言えば、地元の市民のためにあるものではありません。
遠くから、わざわざ“映える写真”を求めてやってくるトラベラーのためにあるような施設
最近、つくづくそう感じるようになりました。
snsで、各地のツタヤ図書館を絶賛している投稿の多くが、外から来た旅行者(意識高い系経営者も)だからです。
高層書架に配架されているのは、空箱ダミーだろうか、接着剤で固定されたニセモノ洋書だろうが、彼らにとっては、どうでもいいことです。
この施設に公金がいくらかかって、店舗の賃料が激安なんてことは、さらにどうでもいいことです。
CCCがどうやって選定されたのか、そのプロセスで起きた談合疑惑なんてのも、もっとどうでもいいことです。
大切なのは、その非日常空間に身を置いて、自分が楽しむことだからです。
もちろん、それは小林翁の宝塚のようなコンテンツではありません。西武の康次郎から流通部門の跡を継いだ堤清二氏が80年代末期までセゾングループでみせてきた
おいしい生活
と同じく、まるで中身のないものです。
誤解のないように申し上げておきますと、そのこと自体は、なんら批判されるべきものではありません。
ツタヤ図書館で問題になるのは、一民間企業の事業を、自治体が言われるがままに巨額の公金を使って行なわれることです。
本に囲まれた非日常空間を楽しむために、
大阪方面から南海本線に乗ってトラベラーが大勢押し寄せる
地元の人たちも、コーヒーのみながらタダで本や雑誌を、座り読みできるところとして利用されることになります。
では、和歌山には、魅力的な文化はないのでしょうか?
いや、それは、とんでもない愚問です。
和歌山市民図書館には、全国でもめずからしい移民資料室や地元出身の作家・有吉佐和子文庫が設置されていますが、そもそもが歴史コンテンツの宝庫といってもいいような土地柄です。
地形と土地の歴史を教えてくれるNHKのブラタモリでは、何度も和歌山を取り上げています。
高野山と空海、熊野古道、南紀白浜
どの回をとっても、和歌山の歴史文化の奥深さを知らしめてくれるものです。
和歌山出身の文人となりますと、博物学の巨星と呼ばれる南方熊楠を筆頭に、中上健次、有吉佐和子、津本陽…。
和歌山市民図書館には、南方熊楠に関するものだけで、400冊を超える本が所蔵されていますので、そのほんの一部を特集棚に展示するだけでも、かなりインパクトのあるものになりそうです。
にもかかわらず、地域の豊かなコンテンツには見向きもせず、ひたすら都会的なニセモノ空間で集客しようとするのがツタヤ図書館です。
元祖の武雄市で、蘭学館を潰してレンタルコーナーにした(のちにそれも廃止して学習スペースに)のは、まさにツタヤ図書館事業というもの本質がよく現れていると思いました。
さて、ここまで書いて、ふと気づいたのは、阪急の宝塚にしても、西武の軽井沢にしても、大衆が求めているのは、古い歴史遺産などではなく、手っ取り早くオシャレな雰囲気が楽しめる空間演出とストーリーではないのかということ。
だとしたら、なおのこと公共図書館にその任を負わせるのはお門違いであり、「流行のスポット」として、ただの「インスタ映えスポット」として消費されて、やがては廃れていくだけの存在に成り下がるのではないのかと、改めて思いました。
コロナ禍があければ、いよいよ本格的に、
蔦屋とコラボしてできた和歌山の図書館は素晴らしい!
という大合唱が起きるかと思うと、ウンザリさせられます。
できるだけみないことにするしかありません。
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2020年8月29日土曜日
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