2018年12月22日土曜日

「時給180円事件」裁判の結末

こんにちは、日向です。

先日アップしました

「図書館で起きた時給180円事件」(1)

「図書館で起きた時給180円事件」(2)

「図書館で起きた時給180円事件」(3)

--の記事に思いのほか、たくさんの方にアクセスしていただいたことに驚き、かつたいへん有難く思います。

 これら3本の記事によって、この事件の経緯は、だいたいおわかりいただけたと思うのですが、みなさんが気になったのは、その後の訴訟がどうなったかだと思います。

 こちらは一重に、弁護団の先生方(北千住法律事務所・主任弁護士は柿沼真利先生)による成果であり、素人が解説できるようなことはなにもないのですが、わかりずらい訴訟の構造を、素人なりに、噛み砕いて説明するくらいことはできますので、あえて蛇足を付け加えさせていただきました。




 雇止め止めされたAさんは、区立図書館の運営を受託していた㈱TK(仮名)を相手取って、2013年8月に地位確認を求める訴えを東京地裁に起しました。

その後、一年半に及ぶ会社側との答弁のやりとりを経て、2015年3月に「雇止めは無効」との地裁判決を勝ち取りました。すぐさま被告会社が控訴しましたが、同8月に東京高裁で控訴は棄却され、労働者側の全面勝利が確定しました。

 最大の争点は、有期雇用の契約更新時に生じる雇止め(会社側が更新を拒絶すること)の有効性です。

 毎年更新の有期雇用で働く労働者は、契約期間満了時に、雇用主が更新を拒絶した場合、実質的には解雇であっても「期間満了で更新しなかっただけ」と会社に言い訳されがちです。もともと1年契約なのですから、1年が終れば雇用主の会社に「お疲れさん。今日まででいいよ」といわれても、ある意味理屈としては、間違っていないからです。

 しかし、期間限定の季節労働や繁忙期のサポート要員ならいざしらず、本来、正社員として雇用すべき恒常的な業務の基幹スタッフとして働く人まで有期雇用にしてしまえば、経営者は、いつでもスタッフを1年で切ることができることになってしまいます。それはおかしいですよね。

 そこで、これまでの裁判例では、1年以内の短い契約であっても、もう何回も契約を更新していて、実質的には、正社員となんら変わらないような状態で働いている人については、正社員と同じく、会社側に解雇権の乱用がなかったかどうかが厳しく問えるようになっていました。

 たとえば、もう10回も契約が更新されていて、当然、次回も契約は更新されるはずと期待するのが当たり前のような状況だったと認められれば、正社員と同じく、本当に解雇する必要性はあったのか、労働者側に非はなかったのかなどが問われて、そのような事実はなかった場合には、雇止めは無効とされているわけです。

 ただし、これまで「雇止めは無効」との判決が出るのは、契約更新を何度も繰り返しているケースがほとんどでした。本件のように「勤務年数は2年で契約更新は一度だけ」というケースで、そのような判断が示されたのは、異例のことでした。

しかも、図書館の運営を受託している期間について、そこのスタッフは、よほどのことがない限り、契約は、更新されるべきとの判断が示されたことは、非正規労働者側にとっては、非常に大きな収穫だったと思います。

 そこいらへんの法的理論については、地裁判決後に被告会社が控訴した際の「理由書」に対して、私なりの反論を書いていました。この反論は、結局、どこにも提出することはなく、単に私の法的理論の勉強のために書いたものなので、ここで初めて発表しておきます。ただし、かなり長いです。

 弁護団の先生方は、当然、私の反論文など足元にも及ばないような鉄壁の理論を展開されていて、被告側の主張を一瞬にして打ち砕いたのは、改めて言うまでもありません。

 なお、この雇止めの法理については、これまで判例として確立されていた理論が、労働契約法19条によって明文化されましたが、本件労働者が実質解雇されてから5ヵ月後の2012年8月施行のため、直接的にこの条文が適用されることはありませんでした。






控訴理由書に対する反論

2015/5/20 

 原審判決(労働者勝訴の地裁判決のこと)を「判例法理に違反するもの」と主張している控訴人(図書館運営会社)は、その根拠として、雇止めに関する裁判例4類型のうち、本件が属するタイプの裁判例の判決と本件が大きな違いがある点等を挙げている。しかしながら、いずれも我田引水な解釈に終始しており、控訴審において改めて審理する必要性は、到底見い出せないものである。
 また、1年半の期間を費やして、お互い可能な限り証拠を提出・論証を尽くしたはずの原審では事実認定されなかった事柄を改めて持ち出してきて、被控訴人(実質解雇された労働者)が「図書館職員として不適格であった」との主張を繰り返していることは、不誠実の極みである。
 原審において、明快な判定がなされているにもかかわらず、訴訟の長期化で疲弊しがちな一個人の非正規労働者に対して、故意に訴訟を長引かせている(最初の団体交渉から、すでに3年以上経過している)控訴人の行為は、自らの不当な主張が退けられたことや、ひいては、被控訴人から数々の不法行為を関係機関へ通報・告発されたために、それまで受託していた公共施設管理の仕事をすべて失ってしまったことを逆恨みして、その腹いせを行っているとしか思えない。
 よって、それらについて詳しく議論するまでもなく、控訴人の申立を即刻棄却するべきである。以下に、控訴人の誤りを指摘しておく。


 まず控訴人は、雇止め法理を表す代表的な裁判例として、東芝柳町工場事件(最判昭和49722日)と、日立メディコ事件(最判昭和61124日)の2例を挙げたうえで、その他の裁判例から、判例法理は、①純粋有期契約タイプ、②実質無期契約タイプ、③期待保護(反復更新) タイプ④期待保護(継続特約) タイプの4つに類型化されていると述べている。
 ここまでは、労働法の一般的な考察としてなら是認できないこともないが、その後、控訴人は、なぜか唐突に、本件がこの4類型のどれに該当するかを論じ始めた。そして、詳しい論証を行わないまま「本件が、①の純粋有期契約タイプに該当することは明らかであるにもかかわらず、②乃至④のタイプと認めたことに過去の裁判例と比し、誤りがあるといわざるを得ない」と、論理に大きな飛躍のある結論を導きだしている。


 控訴理由書には、その根拠として、以下のような理由が挙げられている。
 控訴人が、すべての職員と1年ごとの有期雇用契約を締結したのは、平成22年度に本件図書館の指定管理者として指定されてから業務を始めるまでに時間的余裕がなかったため、職員の採用後に職務遂行能力をみながら「不適応者を排除していく」意味あいがあったと言う。
 このような性質の有期雇用契約は、当然、雇止めがありうることを前提としているから、ほかに雇止めがされていない裁判例や、過去に雇用契約が反復更新されたことがある裁判例、さらには、契約更新手続きが形式的なものにすぎなかなかった裁判例などを持ち出してきて、雇止めが認められなかった、いずれのタイプにも本件は属さないと主張。よって雇止めを違法とした本件は、判例違反であるというものである。
 改めて指摘までもないことだが、控訴人は、前段において、本件を「期間満了によって当然契約が終了する」タイプに該当すると主張しておきながら、「採用後に職務遂行能力をみながら「不適応者を排除していく」意味合い」があったなどと、支離滅裂な主張を展開している。
 「不適応者を排除していく」ために、有期雇用契約を締結しているのであれば、業務に適応している有期雇用社員は、更新に合理的な期待を抱くわけで、その場合、「期間満了によって当然契約が終了する」わけがない。


 控訴人がここで持ち出している雇止めに関する裁判例の4類型は、厚生労働省によって設置された「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」がまとめた『有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告』(平成129月)に発表された内容である。(弘文堂「労働法第十版」菅野和夫232頁下段注釈欄・22)
 同研究会が、類型化するにあたって収集したのは、有期労働契約の雇止めが争点となった報告書作成当時(2000年以前)10数年の裁判例に、この分野のリーディングケースを加えた計38件の裁判例である。
 非正規労働者の不安定な雇用問題が喫緊の課題であることが社会通念となっていき、それについての国民的関心の高まりが契機となって、後の労働契約法改正につながっていく2000年代中盤以降に出された新しい裁判例は、この類型化には、まったく反映されておらず、リーディングケースを加えているとはいえ、限られた38件の裁判例だけですべてを論じるのは、あまりにも乱暴である。

 本報告書でも、類型化のもとになった裁判例について「--個々の事案ごとに有期労働契約を取り巻く状況、当該契約の内容等が異なるため、当該契約の雇止めに対する評価は、まさに多種多様な判断要素を総合的に勘案して判断されている」としたうえで、「したがって、ここで試みた類型化は確立したものではないことはもとより、個別具体的な有期労働契約一つ一つについて、6項目(裁判所の判断要素)それぞれに関する状況を整理しても、当該契約が4タイプのいずれかに該当するかをか必ずしも直ちに明確に判断できるものではない」(同報告書15ページ)との但し書きが加えられているのである。

 よって、これらの類型化が裁判例のおおまかな傾向をつかむためには、ある程度有効な手段だとしても、その逆のアプローチ、すなわち本件を4類型にあてはめたうえで、それぞれの類型における裁判例と比較してその適否を論じるのは、甚だ不適切である。
 特に、「5回も更新された事案」(理由書4頁14行 更新回数は5回であっても、契約期間は2カ月なので勤続10カ月にすぎない)などと、状況が大きく異なる他の裁判例における更新回数などを、ご都合主義的に一部のみ抜き出して、本件と単純に比較しているのは、まったく当を得ないものである。

 本件は、公共施設のなかでもかなり特殊な公立図書館という職場で、なおかつその管理運営を役所から施設単位で丸ごと民間事業者に委託される指定管理者という新しい制度のもとで締結されている労働契約であるという特殊性があり、そこのところの基本的な条件が大きく異なる民間事業における一般的な労働契約と単純比較して「判例法理に適合しているかどうか」は判断できないはずである。
 なお、雇止め法理の裁判例は、平成24年8月施行の改正労働契約法19条によって明確に条文として整備されているが、そこには控訴人が主張するような4類型をもとにした判断基準などは、なんら示されていない。


 雇止め法理に則って、被控訴人の契約期間満了時に同契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか、それがあるとすれば、本件更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるか--の2段階で、原審は、本件における被控訴人に対する雇止めの適否を判断している。
 まず第一に、被控訴人には、更新に対する合理的な理由があるのかどうかについては、以下の4つが原審によって疑いのない事実として認定されている。

1)控訴人が指定管理者としての本件図書館運営業務は、5年間の契約であった。被控訴人も含めた本件図書館全スタッフとは、1年ごとの期間の定めのある契約を締結しており、期間満了時の更新に関して事前に何らかの合意があったとは認められない。

2)控訴人は、本件図書館を受託した5年間、司書資格者4名を配置する必要に迫られていた

3)従業員を継続して雇用する方針を控訴人自ら積極的に採用していた

4)現実に、被控訴人を除いては、更新を希望した従業員の全員更新されている

 このことから原審は、被控訴人を含めた図書館全スタッフと期間の定めのある労働契約を結んだのは、施設管理の受託期間満了後の雇用維持をスタッフに保証できないことを主たる理由としたものであるとして、それには合理的理由を認めることができるとした。
 しかし、その一方で、受託期間の中途である平成24331日の雇用期間満了時に、司書資格を有して本件図書館運営業務に従事していた被控訴人が、本件労働契約が更新されるものと期待することには、2)司書配置の必要性、3)控訴人の雇用継続方針、4)希望者全員更新の実態--という3つの事実によって、当然のことながら、合理的な理由があったというべき、との明快な判断を下しているのである。

 そのうえで、本件更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるかについては、控訴人が主張する、被控訴人についての評価が妥当なものであるかかを原審は、慎重に検討した。
 具体的には、以下のような内容である。
「ルール遵守の意識や協調性が致命的に欠如し、自己中心的であり、職員としての立場を自覚した行動がとれていないのであって、業務遂行能力が低く、勤務態度も十分でない」
 その結果、「原告について、雇用関係の継続に支障を来すような業務遂行能力の不足や勤務態度の不良があるということはできない」と、原審では最終的に結論づけた。

 控訴人が被控訴人に対する評価の根拠とした、平成23年度における契約書の不提出及びそれに関連した社会保険労務士との面談時における態度、上司に対して行った自らの評価への執拗な抗議等については、いずれも、伝聞のみで客観的証拠がなく事実とは認められなかったり、あるいはたとえ事実だと認められたとしても、そのことをもってして業務に支障が生じるほどの出来事とは認められないと判定されて、控訴人の主張はことごとく退けられたのである。



 本件労働契約は、期間満了によって当然に雇用関係は終了する純粋有機契約タイプである、つまり、自己都合で退職する者以外は、自動的に雇用を継続されていた裁判例などとは根本的に異なると、控訴人は主張していて、その証拠に、本件図書館スタッフの雇用契約にあたっては、必ず全員と面接のうえ更新の有無を決定することとしていたと理由書5ページで述べている。

 確かに、本件図書館では、個別の面接や契約書を交わす実態は存在していたのは事実だが、それらはかなり形式的なものであったと思われる。
 被控訴人も含めて、本件図書館に勤務している職員の大半は、控訴人が本件図書館を受託した平成22年以前に、区内にある他の図書館(または同じ図書館)で勤務経験があり、ほかの指定管理者に雇用されていた場合でも、本人が希望さえすれば契約が更新された経験を持っていたため、個別の面接試験によって更新可否が決定されるとの認識を持っていたスタッフはいなかったものと思われる。

 にもかかわらず、本件では、「一年目は、東日本大震災が起きたため、十分な手続きを踏むことが困難であったという事情は存在する」(控訴理由書5頁8行)と、控訴人は釈明しているが、東日本大震災が起きたのは3月11日であったことをどう説明するのだろうか。
 更新しないスタッフに対しては、満了の1カ月前までに通知しなければならないことを考えれば、もし、面接のうえ更新の有無を決定していたのであれば、2月中には、それらの手続きはすべて終えていないといけない。したがって、3月11日の震災発生時には、それらの手続きは一通り終わっているはずだから、震災を理由に「十分な手続きを踏むことが困難であった」というのは、辻褄が合わない。
 控訴人が被控訴人に対して、雇止めを通告したのは、翌年平成24年1月19日であったことからすれば、更新の有無と、その手続きの様態には直接の相関関係はまったくないと考えるのが妥当である。
 原審では、その点について認定はなかったものの、本件図書館に勤務する全スタッフに対して、控訴人が契約更新手続きを厳密に行っていた形跡はみられないのである。



 控訴人がもうひとつ本件控訴の重要な理由として力説しているのが、解雇権が類推適用されたこととなった場合における「客観的で合理的な理由」の要件についてである。
 すなわち、この「客観的で合理的な理由」は、正社員と同様の基準ではないと最高裁も認めるところ」として、本件において、控訴人が雇用する正社員と、契約社員である被控訴人とでは、保護の必要性は大きく異なるべきであるとしている。
 つまり、正社員における場合よりも緩和された簡易な要件にて有期雇用社員を解雇できるはずであるから、原審が「雇用関係の継続に支障を来すような業務遂行能力の不足や勤務態度の不良があるということはできない」としたのは、正社員を解雇するときと同じレベルでの「合理的理由」の要件によって判断しているからで、その結果として更新拒絶を違法無効としたのは、「判例違反、経験則違反、審理不尽の違法がある」というわけである。
 しかしながら、ここでの控訴人の主張には、その前提条件からして、根本的な勘違いがある。
 それは、被控訴人が勤務していた〇〇図書館のスタッフは、館長をはじめとした全員が有期雇用のスタッフであって、正社員はひとりもいないということである。

 控訴人が挙げているNK所長は、施設管理部門の人事を統括する本社の責任者であって、たまたま図書館の隣に併設されている〇〇地域学習センターの所長として勤務していたことから、あたかも彼女が図書館業務も統括していたかのように誤解しがちだが、被控訴人が勤務していた図書館の業務について、NK氏には指示命令を出す権限はない。そのような権限を保持しているのは、図書館長だけである。

 さらにいえば、図書館と地域学習センターは、同じ建物に設置されてはいるものの、両方のスタッフ間に人事交流はなく、もちろん日常的にも、センターのスタッフが図書館の業務をサポートしたり、その逆に、図書館のスタッフがセンターの業務をサポートすることも一切なく、まったく別の施設として運営されていたのである。
 したがって、同じ事業所において、正社員と非正規社員の二種類の取り扱いルールがあってしかるべきとの控訴人の主張は、前提条件からして間違っている。そうすると、控訴人の主張は、根底から崩れることになるのである。


 控訴人が裁判例として挙げている「日立メディコ事件」を例にとると、工場の業績悪化により人員整理の必要性が生じたときに、「正規従業員に先立って臨時社員の削減をはかるのは社会的にみて合理的であり、臨時員の雇止めに先立って正規従業員より希望退職を募集することは要求されない」と判断された。
 臨時工は、簡易な手続きで締結された短期の有期雇用である以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、終身雇用の期待のもとに期間の定めのない労働契約を締結している場合とはおのずから合理的な差異があるべきとされたわけである。(菅野前掲書233ページ)
 しかしながら、本件においては、経営状態の悪化によって人員整理の必要性が生じたような事情は一切みあたらない。

 被控訴人が入社した年からスタートしている足立区より本件図書館運営を受託した5年間は、足立区役所から支払われる運営費によって安定した収入が保証されていたのであるから、前記の裁判例とは、その前提となる状況がまったく異なるのは、改めて説明するまでもないことである。
 当初の予想以上に従業員の人件費がかさんで、収益の確保が困難になっていた事実もなく、原審判決でも、「期間の途中で従業員の数を減らすことが予定されていたとか、従業員の数を減らす必要が生じたなどの事情は認められず」と明確に否定されているのである。
 また、簡易な手続きによって採用されているのだから、解雇時に求められる「合理的理由」は正社員のそれよりもハードルの低い基準を元にしてもよいのではないか、との控訴人主張については、同じ事業所に勤務している正社員がいてはじめて成立する論である。

 先述した通り、本件図書館には、正社員は、ひとりもいない。控訴人が受託している隣の地域学習センターに勤務する正社員であるNK所長は、法的な規定(図書館法など)も異なる別の事業所の従業員であるため、この両者において許容される解雇理由の基準を比較することに、なんら妥当性を見いだせない。
 よしんば、世間的な広い意味での「正社員」との比較が許されるのだとしても、その場合でも、控訴人が主張するほど、簡易な理由で有期雇用労働者の解雇が認められているわけではない。
 過去の裁判例では、「正規従業員に比べ遜色のない業務に従事し、基幹労働力化している有期契約労働者については、人員整理の必要性をはじめとする要件が厳しく吟味される。(たとえば、薬剤師に関するヘルスケアセンター事件-横浜地判平11930労判77961頁)」(菅野前掲書233頁10行め参照)とされている。

 館長をはじめとしたスタッフ全員が有期雇用であった本件図書館においては、パート従業員を除く職員の全員が、「正規従業員に比べ遜色のない業務に従事し、基幹労働力化している有期契約労働者」にあたると言え、副館長であった被控訴人の雇止めにあたっては、当然のことながら「要件が厳しく吟味される」べきである。
 いずれにしろ、原審判決は、妥当なものであり、控訴人の「判例違反、経験則違反、審理不尽の違法がある」ところは、どこにもみあたらないのである。


 控訴人は、被控訴人を雇止めした理由を「職員として不適格であったため」としているが、原審において、結局、そのことが事実であるとの証明はまったくなされなかった。
 「審理不尽」と言うが、もともと原審が始まって半年以上経過した時点(平成26年5月29)でも、控訴人は客観的な証拠となる書類を1枚(乙1号ハローワークの求人票)しか提出しておらず、そのときの裁判官から「乙号証が出てませんが、よろしいですか?」と指摘され、その後(平成26年8月21日)になって、ようやく何点か出してきたものの、そのほとんどが自ら作成した書類(証拠説明書に作成年月日の記載すらなく、後に訂正版を提出)であって、利害関係のない第三者によって主張事実を客観的に証明するものを提出しなかった。

 被控訴人の「職員として不適格」に関して、唯一客観性のあるものとして認められたのは、本件図書館長で、被控訴人の上司であったTG氏の手による被控訴人についての評価メモ(乙26号証)だけであった。
 それも控訴人からの命令で作成したとの記述内容があり、また、被控訴人がその文書を発見して本人に問いただしたところ「副社長から執拗に求められて無理やり絞り出したもの」と同氏は釈明していることが認められることから、原審では、それが被控訴人の「職員として不適格」さを表すものとは認めなかったのである。
 本件において、解雇権乱用法理の類推適用がさなれた場合、当然のこながら、控訴人の側が本件解雇に合理的理由があったと立証する責任を負っていたのであるが、結局1年半にわたる答弁のなかで、控訴人が、そのことを証明することができなかったのは、そのような事実は、そもそも最初から存在しなかったからにほかならない。


 控訴理由書に書かれている通り、控訴人が原審において主張したのは、以下の通りである。
「控訴人が何度も奨約書の提出を促したにもかかわらず、評価に不満があるという契約書不提出の理由とはなり得ない理由をもって、頑なにその提出を拒み、多忙な館長、所長の休憩時間を奪うような執拗な苦情を行うことによって、評価のやり直しをせざるを得ない状況に上司を追いやり、社外の人間である社労士とわざわざ内容を確認せざる得ない状況に控訴人を追いやった被控訴人の勤務態度を問題としているのである。」
 このうち、原審で事実と認定されたのは、被控訴人が契約書を提出しなかったことと、社外の社会保険労務士との面談によって契約成立が確認されたこと--の2点にすぎない。「控訴人が何度も奨約書の提出を促した」事実もなければ、被控訴人が「評価に不満があるという理由をもって、頑なにその提出を拒んだ」わけでもなく、さらには「館長、所長の休憩時間を奪うような執拗な苦情を行った」のも、まったくの事実無根である。
 よって、控訴理由書6頁以降で控訴人が主張している内容は、すべて自らの主張通りに事実認定されなかったことに対する恨み事の域を出ない。
 「原審は、ことさら、被控訴人の不満が評価なのか昇給なのか、社労士との面談の際に文句を言ったかどうか、という問題提起をすることによって , ことさら問題を短禁小化」して」いると、控訴人は不満を述べているが、これは、原審の裁判官が、明らかに事実と認定できるわずかな糸口から本件の争点にアプローチしようとしているために、控訴人主張とはほど遠いものになったにすぎない。


 通常、職場において控訴人が繰り返し主張するほどの異端な事実があるのならば、同僚や関係者の証言があったり、あるいは人事考課制度による客観的な指標に基づいた採点が提出されるものだが、控訴人の場合は、そのような客観的な証拠は一切提示することなく、まるで壊れたテープレコーダーのように、ただひたすら同じ発言を繰り返して、被控訴人を誹謗中傷することに終始している。
 控訴人のこのような「一方的に相手を誹謗中傷はするが、その論拠となる証拠は一切出さない」というスタンスは、本件が被控訴人との争いとなった当初から一貫している。

 図書館内で行われた不法行為の中止を進言したがために雇止めされたと、被控訴人が平成24年2月、足立区コンプライアンス課に公益通報したときも、公益通報された内容の調査を担当した第三者機関である足立区公益監察員及び同事務局から、被控訴人の勤務不良に関する証拠資料の提出や事情説明の要請を何度も受けたにもかかわらず、控訴人は、頑なにそれを拒否し続けていて(甲27号証、甲28号証の16)「期間満了(の更新拒絶)に、正当な理由は必要ない」と、同じことを繰り返し述べているのである。
 被控訴人との訴訟になっても、控訴人における、このスタンスはまったく変わらず、客観的な証拠は出さないまま、一方的に相手を誹謗中傷することに終始している。
 よって、もし、控訴人が控訴審において改めて客観的な証拠を提出できないのであれば、審理するだけ時間の無駄であるため、すぐに結審して、控訴人の申し立てを棄却すべきてある。


 では、本件の真相はどのようなものであったのだろうか。最後にその点をまとめて、控訴人の控訴理由書に対する反論を締めくくりたいと思う。

 本件の基本的な構造は、いみじくも控訴人が理由書で述べている言葉に集約される。


「--パート職員以外の社員は、1年の有期雇用を締結したものである。これは、職務遂行能力を実際に雇用をして勤務態度を見る中で不適格者を排除していくという意味合いを有するものである」(理由書4頁7行め)

 東京・足立区で長年にわたって金属加工業を営んでいた控訴人は、図書館運営業務のノウハウを持っていたわけではなかったため、とりあえずその道の経験者及び司書の資格者を採用して現場業務にあたらせ、特に問題がなければ翌年以降も雇用を継続する方針(被告経営者本人尋問調書2014行、第一審判決1811行)で臨んでいたのだが、逆にもし何か問題があれば更新はしないという密かな意志をもって運営していた。

 しかし、控訴人のこの「問題があれば」という基準は、勤務態度が不良だったり、職務に適しない従業員を排除するというものではなく、自らの利益をより多く得たいという不当な目的をもって行われるものであった。

 すなわち、本件においては、被控訴人が賃金アップの交渉をしてきたこと、その交渉のプロセスにおいて経営者の命令(他館館長就任、契約書の提出、社会保険労務士との面談設定日時等)に素直に従わなかったこと、さらに決定的だったのは、図書館内で控訴人副社長自らが指揮して行った違法な超低賃金の内職作業について上司に異議を述べ「違法行為なので中止するよう」強く要求してきたことが、控訴人にとっては、決定的に「問題のある従業員なので排除すべき」と感じられるに至った。

 そのときの控訴人の主観的な認識こそが、「ルール遵守の意識や協調性が致命的に欠如し、自己中心的であり、職員としての立場を自覚した行動がとれていないのであって、業務遂行能力が低く、勤務態度も十分でない」(第一審判決11頁)であったのだろう。
 控訴人は、どこから聞いてきたのかわからないが、


「有期雇用の従業員であれば、更新拒絶に合理的理由は必要ない」

との生半可な知識から、平成24年1月に、被控訴人に対して更新拒絶を通告した。
 しかしながら、被控訴人には、控訴人が指摘したような勤務不良の事実はまったくなく、むしろ本件図書館のなかでも、最もその運営に誠実に取り組んでいて、同僚たちや委託元の足立区担当者から厚い信頼を得ていたほどであった。


 自らが雇止めされたのは、図書館内で行われた不法行為中止の進言をしたことが大きな原因ではないかと被控訴人は考えざるをえなかった。
 前年夏、図書館の蔵書2万冊に盗難防止シールを貼付する作業をパート従業員が行うことになったのだが、なぜか「残業」ではなく、就業時間終了後に「内職」として作業することになっていて、報酬も完全出来高性の1枚7円という条件だった。

 実際に始まってみると、1時間に3050枚程度しか貼れなかったため、作業時間の2時間で割ると、時給は当初100円台という明らかに最低賃金を下回る額だった。
 パート従業員のそんな劣悪な状況をみてみぬふりすることができなかった被控訴人は、何度もTG館長及び本社の人事担当者であったNK氏に「そのような違法行為は即刻中止すべき」と進言したのだが、その意見は黙殺されたばかりか、その声が控訴人の耳にも届き、また、春から続けていた自身も賃上げ交渉ともあいまって、控訴人から経営者の方針従わない反逆社員として排除の対象になったのは明白だった。

 そこで、期間満了直前の同年2月に、不法な雇止めの撤回を求めるとともに、足立区コンプライアンス課に、公益通報を行い、自らの不当な雇止めの真相究明調査を依頼したのである。

 被控訴人の公益通報はすぐに受理され、第三者機関である足立区公益監察員を勤める弁護士が本件図書館に勤務する同僚や上司など多数(16名以上)の関係者に長時間(合計9時間)聴取して調査を行ったところ、控訴人が主張する被控訴人についての勤務不良の事実はどこからも出てこなかった。
 それどころか同僚たちからは「尊敬や申し訳なさ、いかに職場にとって貴重な存在であったかといった声が多く聞かれた」(甲27号証)と、控訴人の主張とは正反対の事実ばかりが続々と出てくる始末であった。


 足立区公益監察員は、公益通報を受理してから4か月後の平成25年6月25日付けで、足立区長宛てに最初の報告書を提出し、そのなかで最低賃金に満たない報酬でのシール貼り作業が本当に行われたことを関係者の証言や資料によって明確に認定(甲9の1・2頁)。そのうえで、「(控訴人が)通報者の問題点として雇止め通知書に記載した事実は存在しないと推認される」(甲9号証の1・5頁21行)と報告したばかりか、「(控訴人が)通報者に対して雇止めしたのは、公益通報者保護法に違反している可能性が高い」とまで言及(甲9号証の1・6頁8行)している。

 その後、公益監察員は、控訴人に対して反論の機会を与え、自らの主張を証明する証拠の提出を求めたが、控訴人は「期間満了(の更新拒絶)に、正当な理由は必要ない」と、その要請をことごとく拒否したため調査は暗礁に乗り上げてしまった。
 一方で、被控訴人の賃上げに理解を示していたNK氏が被控訴人を高く評価した再評価表(甲6号証)を公益監察員が入手したことから、その高評価と控訴人評価の乖離についての説明を控訴人に要求せざるをえなくなった。

 その際、「不当な調査なので、回答できない」と控訴人がこれまで通りの対応を取ることが予想された。
 そこで、公益監察員にとっての「伝家の宝刀」とも呼ぶべき、地方自治法第244条2の第10号を法的根拠とした、区長権限を発動する(区長名で担当部署が回答を要求)という、前代未聞の措置を取ることで、控訴人に強く回答を迫ったのである(甲27号証、甲28号証の16)。


 ところが、控訴人は、それでも頑なに回答を拒絶し続けたために、何度か回答要請のやりとりが公益監察員事務局と控訴人との間で継続されたが、まともな回答はないまま、徒に時間ばかりが経過していくこととなった。

 最終的には、公益通報から2年後の平成25年3月に公益監察員は、区長宛の最終報告書(甲9号証2・1頁8行)を提出し、そのなかで控訴人が主張していた被控訴人の勤務不良について「(控訴人)の主張する事実は認められない」と、キッパリと断言したうえで、「(控訴人)が更新しない理由としたルールが守れないとか、業務遂行能力がないという指摘は虚偽である。(中略)このような所内評価(NK氏による高得点の再評価のこと)がありながら、事実に反する主張を再三行っている点でも指定管理者としての適性に問題があると思われる」とまで踏み込んだ報告を行っているのである。

 一方で、控訴人が犯した労基法違反等の違法行為については、指定管理者として本件図書館を受託したときに足立区と締結した「協定違反と認められる」と認定し、担当部署からの注意処分と、今後、指定管理者選考において、「関係法令に違反したことがあることを判断の要素とすべき」とされ、実際にその通りの措置(担当部署による厳重な是正指導と改善プログラムの実施、指定管理者募集における選定委員への報告等)がそのあとに取られることとなった。


 控訴人が平成23年に犯した最低賃金法違反については、被控訴人の告発を受理した足立労働基準監督署が、平成24年6月に、控訴人本社に立ち入り調査に入った結果、その違反事実が認められたために、その日に正式な是正勧告が出されている。

 また、控訴人は、原審において、この最低賃金法違反を「--この問題点にまったく気づいておらず、原告からも指摘はなかった」(第一審判決11頁)との立場を取っているが、足立区公益監察員の報告書(甲9号証1・4頁8行)の中で、雇止め通告を受ける前年にこの行為が行われたとき、館長に異議を申し立てていることが認定されているばかりか、「~書籍の運搬作業などに予想外の時間がかかる旨の報告が図書館スタッフから館長になされ」(被告準備書面1・9頁12行)と、控訴人自らが内職作業に職員から異議申し立てがあったことを認めていて、その異議を申し立てた職員こそが本件被控訴人であることが、ほぼ証明されている。

 さらにもう一点付け加えておくと、控訴人は、最低賃金違反について「まったく気づいていなかった」との主張を根底から覆す証拠を自ら提出している。
 それが最低賃金違反内職が行われる直前に、控訴人副社長に対して、TG館長が送付したメール文の乙25号証である。

 驚いたことに、このメールには、以下のような記述がある。
「テープ貼付作業とテープの磁気の撤去作業を含め、1時間で120本ペースを見込んでいます」(同本文4行)
 出来高賃金は、1枚貼るたびに7円であったから、「1時間で120本」は、時給に直すと840円である。この作業が始まる平成23年8月当時における東京都の最低賃金は、821円であった(甲101)。つまり、当初の想定だった時給840円は、すでに最低賃金ギリギリの額であった(まだ、内職作業が継続していた平成2310月からは837円とさらにギリギリとなった)。もし何か少しでも想定外のことがおきれば、たちまち最低賃金を下回る労働に陥ってしまうことは、明らかであった。

 ことのほか法令遵守を厳しく求められる公務の労務管理者である控訴人には、最低賃金未満の労働条件に陥ってしまう結果となる可能性は、容易に予見できたはず。
 にもかかわらず、本件において控訴人が、そうした労務管理者としての注意義務を怠った反省がまったくなく、あくまでも「そのような低賃金になっていたことを知らなかった」との立場を貫き通せるのは、もはや、あっぱれというほかない。
 もし、控訴人が審理不尽を言い、控訴審にて新たな証拠や証言を提示するのであれば、
こうした点も含めて、いま一度、徹底的に検証するべきである。


 原審においては、被控訴人がパート従業員が従事した違法な内職について上司に異議を申し立て、改善要求を行っていることまで事実認定されたものの、そこから以降については、これら公益監察員の報告書等の客観的な証拠を検討するまでもなく、契約の状況や勤務についての基本的な事実によって、更新期待に対する合理的な理由はあると認め、本件更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとの結論を導き出しているのであった。

 なお、控訴人は、理由書5頁後ろから13行めで、平成253月に、本件図書館に併設された〇〇地域センターの職員を雇止めした事実を挙げて、「当然に更新をするということが控訴人のスタンスではないことの証左である」と述べているが、実は、この件においても控訴人は、当該労働者を雇止めする前に、自らの不法行為を当該労働者から労基署に告発され、労基署から是正勧告を受けているばかりか、その後、当該労働者によって、足立区コンプライアンス課へ15もの法令違反を告発される、一大公益通報事件にまで発展していて、現在、控訴人は、当該労働者と雇止めについて、本件と同様に係争中である。

 このように、著しくコンプライアンス意識の低い控訴人は、受託していた3つの公共施設の運営管理業務の期間満了を昨年3月から今年3月にかけて次々と迎えたものの、本件被控訴人および前記したセンター元職員の告発によって違法行為が発覚したため、一昨年は、指定管理事業者募集に際して応募不可の扱いを受け、また昨年は、応募はしたものの書類審査で不合格となるなどしたため、平成27年4月以降は、すべての公務から実質追放処分と言っていいような措置を受けたことを付け加えておく。(了)

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