~八百長を見事に演じきってくれたライバル企業~
こんにちは、日向です。
- アカデミズムの「箔」をつけるTSUTAYA(2) のつづきです。
『公立図書館と都市経営の現在』(日本評論社)という書籍に名前を連ねている事例編の共著者11人のうち、3人がカルチュア・コンビニエンス・クラブが運営するツタヤ図書館に関係した人物でした。
和歌山市でCCCを選定した当時の図書館長で、その後、市教委の教育学習部長に出世された坂下雅朗氏のパートから、新市民図書館ができるまでの経緯について、今回は実務的な部分をみていきたいと思います。
坂下氏は、まず2015年に策定した市民図書館基本構想で示した新しい市民図書館の基本目標を以下のように明示しています。
1.すべての市民が、利用しやすい図書館をめざします。
2.情報拠点として、資料の充実をめざします。
3.市民の学びと、課題解決の支援をめざします。
4.郷土の歴史と文化の継承をめざします。
5.人と人とのつながりを育む図書館づくりをめざします。
6.まちの拠点となる図書館をめざします。
これらの基本目標を集約する基本理念として「図書館がつなぐ一本 と人」「人と人」「人とまち」を掲げ、市民図書館の移転計画として 「和歌山市民図書館基本計画」を2016 年(平成 28年)3月に策定した――ということなんですけれど、いきなりここで私のツッコミを入れざるをえません。
基本構想はともかく、これをもとにした基本計画こそが、指定管理にして民間企業へ運営を任せるツタヤ図書館化への第一歩だったのですが、実は、この基本計画の中身を書いたのは、和歌山市ではありません。
和歌山市から委託されてこの事業を実施したのは、全国で500を超える図書館運営業務を受託している図書館界のガリバーであるTRC図書館流通センター(正確には、同社傘下のシンクタンクである図書館総合研究所)でした。
このへんの経緯については、当ブログでは何度も取り上げてますし、記事にも書きました。
広く市民にアンケート調査を実施して、市民の図書館に対する要望を聞いたり、著名人を呼んでセミナーを開いたり、市民参加のワークショップを開催したり、そこから派生した有志のグループが新しい図書館について考える市民団体をたちあげたりといった、一見すると市民主導の動きが次々と出てきて、そこから出てきた市民の意見や要望を「基本計画」にまとめあげたのが、TRCだったのです。
そして、これまでさんざん書いてきたことなんですけれど、市民が参加するワークショップには、TRCの社員がサクラとして潜入していて、市民の意見集約をはかっていたこともわかっています(同社のスタッフがファシリテーターとして参画したことをTRC広報部も認めている)。
ただし、この手の話を書く際の、いつものお約束なのですが、誤解を招かないように先に書いておきます。
和歌山市当局が新図書館の運営者の選定において、一度でも、TRCに傾いたという形跡はありません。
少なくとも、市長部局と南海電鉄に関しては、このプロジェクトスタート時点から、徹頭徹尾、CCCに運営を任せて、賑わい創出してくれるツタヤ図書館にするという意思は、かなり強固なものがあり、一度もその意思が揺らいだことはないように思えます。
では、なぜTRCが基本計画の策定を担ったのか。
もちろん水面下では、CCCが素案を作成する方向で動いていたと思います。しかし、たまたま多賀城市でCCCが関与したとみられる基本計画が専門書からの盗用が疑われるような事件があったことも、もしかしたら、影響しているのかもしれませんが、民営化するにはCCCの実力だけではうまくいかない、やはりプロの手助けが必要だと和歌山市サイドが判断してTRCに依頼したとしか思えません。
この後、「和歌山市が激怒することが起きてTRCを出入り禁止にした」という未確認情報が飛び交ってまして、この話は、なかなか一筋縄ではいかないんですけれど、
最終的に和歌山市が開催したプレゼンにもTRCはCCCの競合として参加して、出来レースの八百長を見事に演じきってくれているところからしますと、海老名市と同様に、ときにはCCCと競合しているとみせかけながらも、裏でもちゃんと手を握って、その見返りとしての「実」をとったのではないかと、囁かれているのも、なんとなく、うなづかされます。
さて、すっかり話が横道にそれてしまいましたけれど、坂下さんは、そんな裏話はすべてすっとばして、和歌山市が基本計画を立てて、市民参加型のワークショップやイベントを多数行い、新しい市民図書館のイメージを形づくっていましたという話の流れになっているんですね。
しかし、私の記事の信ぴょう性はともかく、和歌山市民の誰に聞いても、新しい図書館についてそのようなイベントに参加したという人は、ひとりもみあたりませんでした。
指定管理者制度導入ですら、直前までは一切情報が流れてこず、突然6月議会に提出されて、市民が反対の声をあげる間隙を与えずに、一気呵成に成立させています。
その後10月から指定管理者公募をはじめて11月末にCCCが選定されたわけですから、
市民の意見を聞いたとか、ふざけたこと言うんじゃあないよって、怒り心頭に発した人たちが次々と出てくる
――ような話を坂下さんは、ここで涼しい顔をしているかどうかまではわかりませんけれど、淡々と書いているんですね。
で、その肝心の指定管理者制度導入については、最後のほうで、とってつけたように触れているだけで、それを導入するにあたっても、納得のいく直営との比較データなどは一切示されておらず、もちろん、そこに至るまでの図書館協議会や教育委員会などでの議論も記載なし、当然のことながら議会での活発な質疑もありませんでした。
市民とすれば、ああなんかやってるな、へんなことならないかな、アブナイな。
そう思っていたら、ある日突然、市駅前の図書館はツタヤ図書館になりますって言うんですから、まぁ、とんでもない騙し討ちでしたよね。
なにより、坂下さん自身が、選定委員会議で極端にCCCに高得点をつけた委員ではないかと疑われていました。
そして、CCC選定後には、教育学習部長にも出世して、こうした専門書に共著者として名前を出せるくらいに出世。この3月には、給与半減してヒラになるような再任用なしに定年退職されたということは、近いうちにどこか関連団体に天下りしているか、もしくしCCCの息のかかったところで活躍されているのかもしれません。
今回の件では、そう疑われるほどの立役者なんですから、ツタヤ図書館反対の市民からしたらしたら坂下さんは、図書館を民間企業に売り飛ばした「A級戦犯」のひとりであることは間違いないでしょう。
最後に「持続的な運営のポイント」として、坂下さんは、以下のようなことを挙げています。
・地域の過大に対応したまちづくりの核となること→100万人来館めざす
・読書率・全国最下位の状況を改善いるため、市民の読書振興をしていくこと
・そのためには市民図書館と連携した学校図書館の活性化も必要
どれも、当ブログで批判していることが関係しています。駅前を通過するだけの人や、ものめずらしさにのぞく人をカウントしたら100万人どころか200万人の来館者も容易に達成できるが、ほとんどは視察にきただけで読書推進につながるような施策はなにも用意されていません。
つい最近まで市内小中学校71校に1人しか学校司書を配置していなかったドケチ自治体なのに、今度は学校図書館までCCCに丸投げして、違法な偽装請負に陥りかねない民間委託を進めようとしていました。
学校図書館を活性化するためには、市教委の責任において直接雇用の学校司書を配置して、ひたすら地道な活動を続けていくしか方法はありません。
ちなみに、坂下氏がこのパートの前半部分で、旧市民図書館の良さをこう書いていました。
市民図書館では、図書館に親しんでもらうために、「子供のおはなし会」を中心に行事を開催し、2018年度(平成 30年度)は延べ231回 約5000人の市民参加を数え、さらに地域の課題に対応した講座等を開 催しきた。また、市民図書館独自の活動として、日本人の海外移住関係の資料を集めた移民資料室を設置し、資料の収集保存に努めてきた。
しかし、旧市民図書館で、評判が良かった子どもの読み聞かせを積極的に推進していた職員および、全国でもめずらしい移民資料館の運営に尽力した職員は、2人ともすでに退職されています。(移民資料館の運営に尽力された方は、定年退職後の再任用を経て退職)
結果、何十年もかけて育ててきた貴重な市民図書館の人材がツタヤ図書館になったことで失われしまい、スタッフの司書資格者は半分以下になりました。
坂下さんは、成功例どころか、市民図書館をTSUTAYAに売り渡すことで、自分だけは出世した人物として、和歌山市の歴史に永遠に名前を刻むことになったと思う人がいても、なんら不思議はありません。
和歌山市の坂下さんは、森友学園に国有地を不当廉価で払下げた問題で、公文書の廃棄や隠蔽を指示しながらも、国税庁長官までのぼりつけた財務省・理財局長の佐川宣寿さんのような存在だと思うのは、果たして私だけでしょうか。
ところで、坂下さんの記事には、自らが選定したカルチュア・コンビニエンス・クラブの社名がついに最後まで出てきませんでした。
「関西初のツタヤ図書館」として話題を集めていたのですから、なにゆえ、同社が2013年の武雄市以来つちかってきた図書館運営ノウハウを和歌山市でもフルに活用してもらうと書けなかったのでしょうか。そう書くと、なにかマズイことでも出てくるのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
基本データには、直営時代との正確な運営費用比較はない。 |
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