昨日書きました “7.31ショック” の追記です。
製造業における偽装請負を取り上げた書籍を紹介するなかで、ひとつ気づいたことがあります。
偽装請負を行っている事業者も、いわゆる「間接雇用」と呼ばれる形態のひとつなんですが、それと対比されるのが「直接雇用」です。
公務では
「直営VS外部委託」
の文脈で語られるとき、
「人件費が勤続年数と正比例する自治体直営だと、給食センターのおばさんが年収700万円にもなるが、外部委託なら、その三分の一以下の人件費で済む」
みたいな言い方をよくされますね。
高給取りの公務員は、税金の無駄遣いなので、どんどん削って民間にしたほうがいい
みたいな論調が一時期、さかんに言われた時期もありました。
そういえば、和歌山市の戸田正人市議を以前、直撃したときに、TSUTAYA図書館になっても、費用は高くはならないとして、こんな論を展開されていました。
「定年退職前の年俸1000近くある職員が30人配置されて、それが人件費として配置されるのと比べたら、はるかに安いと思う」(「CCCの営業マン」 と呼ばれた話題の市議を直撃!【後編】より【1】)
でも、この論には致命的な間違いがありまして、
「直営VS外部委託」
とした場合であっても、とっくの昔に自治体は「直営部分」の非正規化をものすごい勢いで進めていて、いわゆる「非常勤公務員」がほとんど現場に配属されています。
その賃金レベルは、相当に低くなっています。スリム化なんてとっくの昔に達しているのは、改めて言うまでもありません。
図書館を例にとりますと、都市部では、もう10年以上も前から非常勤職員が現場で運営の中枢を担っていました。非正規化が進んでいる自治体では、館長を除く職員のほとんどがフルタイムの非常勤だったりすることも珍しくありません。
にもかかわらず、
公務を外部委託するのって、なんのため?
という疑問が沸いてこないほうがおかしいですよね。
「専門事業者に任せる」という言い訳はいまでこそ通用しますけれど、もともと民間企業で、図書館を運営していた企業なんてありませんでしたので、当初は、ただ国の方針に従って民間に任せていただけでした。
「運営費が安くなる」というのも、おかしな理屈で、図書館などは、大半の経費が人件費ですので、多少業務を効率化したところで、運営費が安くなるわけがなく、やることといえば、人件費を下げるだけです。
で、何がいいたいかといますと、昨日、製造業の偽装請負について書いていたときに、これとおなじような構図があることに気づきました。
それは
「期間工VS請負社員」
です。
「期間工」とは、自動車メーカーの生産ラインなどで、半年や1年の期間をあらかじめ決めて働く有期雇用労働者のこと。
非正規ではありますが、それでも一応は「直接雇用」ですので、給与水準はそこそこで期間満了まで勤め上げると慰労金が支給されたりして待遇そのものは悪くありません。とりあえず定められた期間は勤務できますし、社員寮や社保等の福利厚生も完備されています。
それに対して、偽装請負で問題になる請負社員は、請負会社の有期雇用でありながら、賃金は期間工よりも低く、クライアントの都合次第でいつでもクビを切れるという都合のいい労働力です。社保なしなんてのも当たり前。借り上げの寮費がバカ高かったりして二重に搾取されていたりします。
これを公務、とりわけ図書館にあてはめますと、製造業の「期間工」に該当するのが直接雇用の「非常勤」、外部の指定管理者または委託事業者のスタッフが「請負社員」。後者は、パートなら社保なし勤務で、会社都合でいつでも切れる存在です。
つまり、
「直営VS外部委託」
なんていう命題を考えること自体が無意味だと思うんですよ。
すでに非常勤スタッフの採用で、経費削減効果は達成しているわけですから、むしろ外部委託や指定管理なんかすると、企業の利益も載せないといけないので、余計に費用は高くならざるをえません。
外部委託して費用は4倍に
今年の3月、福岡県春日市が市内小中学校にある学校図書館の運営を民間委託するというニュースが出ていました。
現在、市が直接雇用している非常勤の司書6人の人件費は、約450万円なのに
民間企業に1000万円で委託する方針だという内容の記事でした。
「その代わり、中学校の図書館業務全体を統括するポストを設け、授業への活用も積極的に提案してもらいたいとしている。
(2019/03/19付 西日本新聞朝刊)
現在の司書6人に対する本年度の人件費は、計約450万円。業務委託になると年間約1千万円に膨らむ方向だが、現在は市教委が行っている研修会や講座など、学校図書館に対する支援業務の一部も委託内容に含めるとしている」
これ続報もありまして、民間委託する事業者を7/25から市が募集を開始したんですね。
それでも、和歌山市のように、市民には内緒でこっそり学校図書館までCCCに丸投げしてしまうよりも、マシともいえるのですが、注目すべきなのが、この募集要項に記載されていた委託上限額です。
19,878,000円(消費税および地方消費税を含む)
http://www.city.kasuga.fukuoka.jp/jigyousha/nyuusatu/proposal/library/youryou.html
https://archive.fo/8qiRk
となっていて、当初市が説明していた「1000万円」の2倍に設定しているんですね。(小学校も含めるため)
まぁ、それでも民間事業者が競争すれば、上限額の半額で落札なんてことも、理論上はあるのかもしれませんが、
提案内容を重視するプロポーザル方式では、往々にして、上限額ギリで決まりがちです。
果たして小学校何校に司書が配置されるのかわかりませんので、単純比較は難しいですが(追記 小学校への司書配置はなく、市内12校ある各小学校に年間6回以上訪問が義務付けられているのみ)【2】
いずれにしろ、非常勤の直接雇用よりもはるかに高い費用をかけて、民間に図書館を差し出すことになるでしょう。
いくらなんでも無茶苦茶な話ですよね。
それでいて、委託になれば、常に偽装請負に陥るリスクを気にしないといけないのですから、
担当教師とロクに打ち合わせもできない酷い現場になってしまいます。
とにかく「民間委託ありき」という世界では、合理的な説明がほとんどなされませんので、市民は理不尽さを感じることばかりです。
和歌山市でも、CCCがバカ高い指定管理料もらいながら、TSUTAYA流儀で、好き放題に市民図書館は改造されるでしょうし、オマケに市内の学校図書館までも、隠密に委託しようとしているのですから、図書館運営からみえてくる、行政の劣化は、目に余るものがあります。
製造業派遣に話を戻しますと、そもそも直接雇用でも「期間工」を大量に雇用していること自体がおかしいわけで、
できるだけそれらを正規雇用に変えていくべきところを、偽装請負事件が起きた当時、それとは真逆の方向にシフトしました。いわば“逆噴射”です。
外部の請負業者を使って、偽装請負させた国内メーカーは、結局、より付加価値の高い製品開発の方向にはシフトできず、コストダウン競争に明け暮れました。その結果ブランド価値を高めることに注力し、製造面はグローバルに水平分業する多国籍企業に、無残にも敗れていきました。
公務では、かつて製造業が犯した偽装請負の教訓から何も学ばずに、10年遅れてそれと似たような“インパール作戦”を遂行しようとしているのですから、もうため息しか出ません。
森を燃やしてしまう焼き畑農業は、短期的にはとても効率のいい方法です。しかし、森が消失することで発生する環境へのダメージは、容易に回復困難で、とてもワリのあうものではありません。
公務の民間委託も、それと似ています。
10年後か20年後の将来、その失敗に気づいて、さんざん民間に食い物にされた図書館など、地域の貴重な知的資源を元通りに戻すのだけでも、膨大な費用とエネルギーが必要になるでしょう。
いまは、その愚かさをひたすら記録しておくしか手立てはありません。
【1】「CCCの営業マン」 と呼ばれた話題の市議を直撃!【後編】 での発言。この後「すでにほとんど(給与の安い)非常勤になっているのでは?」との質問には答えず、話をそらしている。
【2】春日市 学校図書館支援業務仕様書 では、
「春日市立中学校全6校の学校図書館に学校図書館支援員を配置し、主に「6業務の内容(1)中学校図書館司書業務」を行う」とあり、中学校は、1校につき司書1人配置と明記されているが、小学校については「(3)小中学校図書館の総合的支援業務(統括責任者の業務)」のなかで「エ 各小学校図書館の訪問(各小学校に年間6回以上)」としか明記されていない。
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