まず下の写真をみてください。
左側が2017年10月にCCCが和歌山市の指定管理者に選定された直後に発表されたCCC提案の市民図書館パースで、右側がその半年前に、市民図書館の設計業務を担当したアール・アイ・エーがその半年前の2017年5月に発表した基本設計のパースです。
奥のエスカレーターの位置が少し違うことと、柱の位置が違うことを除けば、ほぼ同じ構図ですね。
先に、RIAの基本設計が発表されていますので、あとから指定管理者に決まったCCCは、RIAの基本的な構図を踏襲したんだろうという見方も当然あります。現実に、そう捉えた方も多いでしょう。
しかし、これまでのツタヤ図書館についての知識が多少なりともある人ならば、逆の見方をするはずです。
すなわち、
なんでRIAの基本設計がTSUTAYA図書館名物の高層書架になってんの? もしかして、もう指定管理者は、TSUTAYA本社のCCCになることが内定してるの?
人の背の高さよりもはるかに高い書架というのは、CCCの専売特許みたいなものです。他の図書館では、ほとんどみかけません。これにTカード(機能付図書貸出カード)、自社独自のライフスタイル分類の3つが、いわゆるツタヤ図書館の三大セールスポイントです。
ちなみに、ご参考のためにつけ加えておきますと、この3つともに、図書館機能の充実には一切貢献しません。
いずれも、CCCが都合よく儲けるためにあるものです。1階の一等地に書店とスタバを持ってきて図書館スペースが大幅に削られた結果、残りを広くみせるために、高い書架を設置して空間演出したり、
利用者のデータを取得するために、図書貸出カードにTカード機能を付与して、Tポイントと連携するシステムを導入していたり、
分類にいたっては、わかりにくくて誰も探しやすくなんてならないのに、簡単に他社に乗り換えられないようなキツイ縛りを設けるためにあるのではないか――としか思えないような仕掛けです。
話が脱線してしまいましたが、とにかくまだ指定管理者の公募すら始まっていない段階で、設計事務所によって、ツタヤ図書館風パースが基本設計に描かれていたことから、
和歌山市は、ツタヤ図書館になることがもう決まっているのではないかと、図書館関係者の間ではウワサされるようになったんです。
しかも設計を担当したアール・アイ・エー(RIA)という会社は、CCCのフラッグシップである代官山蔦屋書店を手掛けた会社。
その後も、CCCが指定管理者となる海老名市立中央図書館のリニューアルや、宮城県多賀城市立図書館の新築も手掛けた、CCCとは、とても仲のいい会社なんですから、これは、やっぱりなにかあるのではと疑いますよね。
いやいや、そんなことはないですよ、これから公募して、公平に審査していきますよ、なんていくら市当局が言っても、「ほんまかいなぁ?」と誰もが思ったはずです。
これまでしつこく書いてきましたように、RIAは、図書館が入る再開発ゾーンで南海のコンサルをつとめていて、そのうえ和歌山市のコンサル業務も担当。図書館の設計もすべてRIAでした。
もうここまでくると、笑い話では済まないですよ。ズブズブどころではなく、「利益相反」を疑われるほど、和歌山市駅の再開発事業すべてに深く関与している会社とCCCが懇意なんですから、そのパースの構図がソックリとなったら、両方とも、本当は同じ会社が作成したんでないの?と疑ってしまうレベルだと言っても決して過言ではないでしょう。
なお、1階高層書架が他のツタヤ図書館のように吹き抜け空間ではないのは、この高層書架の裏側の中二階に800台収容の駐輪場を設置しているためです。駐輪場と市民図書館のふたつ施設を合わせてキーノ和歌山の「公共施設棟」と呼んでいるわけです。
南海市駅の再開発事業には、公共施設棟をもってきたおかげで、国の巨額の補助金がおりることになりました。補助金は、プライベート部分は対象外ですが、エレベーターや階段部分など共有部分は対象になります。
また、それとは別枠で、図書館本体の建設費用30億円の半額が国からの補助金がおりることになりました。
さて、また話が脱線しそうになりましたが、今度は、下の写真をみてください。
キーノ和歌山hpより |
これは今月5日にグランドオープンした市民図書館の1階です。CCCが指管理者に選定された直後に発表されたパースとほぼ同じですね。
そして下の図は、2017年7月の実施設計会議に提出されていた図面です。微妙に違ってますね。
さらにこの下が、2017年5月に発表されたRIAによる基本設計図面です。これまた微妙に違っているんです。
どこが違っているのかを、わかりやすくするために、基本設計→実施設計→開業後の3パターンの図面を1枚にまとめたのがこれです。
めだつところでは、エレベーターの位置が基本設計では、一階フロア中央に一基あったのが、実施設計では、左下入り口付近に二基設置されるようになり、さらに開業後は、エレベーターの向きも変わっています。
あとは、エスカレーターの位置も、基本設計、実施設計、開業後のそれぞれで微妙にズレていること、
そして、開業後に公表された図面には、それまで非公表だった中二階の図面が出ていて、そちらを拡大してみると、ちょうど高層書架の裏側からアクセス可能なキャットウォークが設置されていることがわかります。
工期遅延の原因はなんだったのか?と考えたとき、その答えを知るヒントがこの実施設計から開業後に変遷した図面に隠されているはずなのは、言うまでもありません。
正直、私もこの点については、記事にもコメントを紹介させていただいた専門家の
「本格的な高層書架を設置するためには、それだけ床の積載荷重も増え、梁や柱など基礎にもかかわってくるので、構造設計を根本的にやり直さないといけない」とのご意見のみで納得しており、なんとなく、高層書架設置に構造変更が必要になったんだろうという漠然とした認識しかありませんでした。
この難問に説得力のある答えを出してくれたのが、ツイッターでツタヤ図書館問題をよくツイートされている焼きプリン(特殊市民)@baked_puddingさんでした。
この方の6/4付の以下からつづく ツイート をいくつか引用させていただきます。(引用図面は省略)
指定管理者制度導入前、2017年5月公開の基本設計報告書ではエレベータの位置がフロア中央にありました。この文書には中2階の図面はありません
この時点で明かされていた1階のパース図では、吹き抜けの中2階の壁となる部分にはキャットウォークがなく、CCCがやりたがる純然たる飾り以外の何物でもない本棚が描かれていました。
2017年10月、指定管理者募集時に公開された参考資料 施設平面図(案)ではエレベータは中央から図面左の入り口側に移され、図面で縦に2基設置されています。ここでも中2階の図面はありません。時期的に実施設計はこうだったのかも。
CCCが指定管理者になると中2階壁の本棚にはキャットウォークが描かれるようになりましたがどうやって出入りするのかは謎のままでした。
CCCによるウェブサイトができると中2階も含めて図面が公開されました。そこではエレベータが図面で横に2基並べられており、キャットウォークへはエレベータホール脇から出入りするらしいことが明かされました。
基本設計時点では蔦屋書店でやっており徳山駅前でも目論んでいた純然たる飾り物でしかない棚だったのを、多賀城や高梁でしているような閉架書庫な壁面書架に変更し、そのアクセス手段を設けたために構造変更が必要になったということはないでしょうか。
というわけで、高層書架を、当初の簡易的なつくりの「飾り棚」から、壁面に配置する本格的な閉架書庫のつくりにして、
そこに人が入れるキャットウォークを設置するために、エレベーターの位置や向きを変えたのではないかというわけです。この方のツイートは、「なるほど」と思わずヒザをたたきたくなるほど、鋭い分析でした。
これが、「構造変更が必要なプラン」の正体だろうと思います。【※1】
だとしたら、余計に不可解なのは、なんでそんな大事なことを、ギリギリになってCCCは言い出したのかということです。
一万歩譲って、CCCの受託が出来レースではなかったとしても、CCCとRIAは、これまで何度も大きなプロジェクトを手掛けている間柄ですから、それとなく伝えることもできたでしょうし、RIAサイドからCCCの希望を忖度することもできたでしょう。
なのに、この一連の流れをみていくと、もしかして、補助金等の関係かあるいは、開業時期が後ろにずれたほうが都合がいいと考えたのか、CCCがわざとあとからプランを出してきているようにみえて仕方がありません。
竣工が予定よりも二カ月遅れただけでしたが、結局、グランドオープンは、市駅ビル「キーノ和歌山」と同じく、2020年4月オープン(※)と、当初の予定よりも半年遅れとなりましたが、
12月開館延期については、施設本体の工期遅延は一切関係なく、「工事の遅れ」としか言われていませんでした。
それが和歌山市サイドの内装部分の施工かあるいは、CCCによる開業準備の遅れによるもなのかは、はっきりしておりません。
(※のちに新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言によって、さらに6月5日まで延期)
南海電鉄が、先日の記事についてのコメントで「19年10月7日竣工」と、あえて自らの責任範囲を明確にしているのは、それ以降は、うちは一切関与してませんよということが言いたいためでしょう。
おかしなことに、オープンが半年も遅れたにもかかわらず、CCCによる指定管理スタートは、19年12月19日でした。
このときから、二階にしょぼい臨時窓口を設け「一部開館」としただけで、これ以降、毎月3000万円以上の指定管理料をCCCは受け取ることができるようになりました。(詳しくは、和歌山市民図書館の指定管理は12/19から を参照)
それでいて、本来ならオープン前には完了させておくべき、開業準備業務は、指定管理スタート後の20年3月までというおかしな契約で、一億円を超えるその委託費もCCCは、和歌山市からしっかりともらえます。
なので、開館延期による被害は、ほとんどなく、むしろ延期によって、自社が担当していた旧館蔵書45万冊のラベル貼り替えや5万冊の追加蔵書登録、自社がテナントとして営業する蔦屋書店やスターバックス店舗の開業準備にじっくり時間をかけることができて一安心だったと言えるのではないでしょうか。
結果、ギリギリまでねばって、自分たちの好きなように設計変更を実現。その費用も全額和歌山市等の公費で負担させ、開業の遅れは、工期遅延した南海電鉄に責任をおっかぶせ、自分たちは、ソンすることは一切ないという素晴らしい状況にもっていきました。
もちろん、市当局は、オープン延期によって公金支出が大きく増えたとしても、その責任を追及されることを恐れて、なにがあったのかを公表しません。
こうして、和歌山市では、潜水艦のように深く潜行していたにもかかわらずCCCは、いつものように、完璧に公共を食い物にするツタヤ図書館の完成にこぎつけ、改めてその力の凄さを、まざまざとみせつけられたような感じがしました。
ところで、工期が遅延することは、ごくありふれたことなので、これがとりたてて行政上の不正があるとかという話ではありませんけれど、
私がこの件がどうしても気になったのは、和歌山市当局が、これに関連したある事実についての情報をまったく出していないからです。
その件については、少しややこしいので、また、後日詳しくレポート(3800万円の“安全対策” に書きました)したいと思います。
よろしくお願いいたします。
【※1】
【2020/6/21追記】 ツイッターでいつもツタヤ図書館情報を発信されている awakoyot @awakoyot さんが
「権利変換計画の変更は平成30年にも行われていて、中2階部分などの大きな変更はこのとき行われているのではないでしょうか」
として、和歌山市議会の平成30年2月のの議事録のリンクを引用されています。
和歌山市 平成30年 2月 経済文教委員会 02月27日-03号
それをみますと、CCCが指定管理者に選定された2017年12月の2カ月後の経済文教委員会において、
すでに実施設計で変更された部分については、権利変換計画及び負担金契約の変更がほぼ完全になされており、その内容が詳しく報告されていました。
このとき、エレベーターの位置の変更や、1階の北側半分の床フラット化と、それに伴う駐輪場と重なる部分の天井高の修正、4階と5階の北側(基本設計の3階・4階)に、出入りできるテラス設置など、かなり大掛かりな変更が行われていることが判明しました。
これらの変更によって、建物の面積が388.46平方メートル、建物の価格が1億5,220万4,000円増加したと報告されています。
したがって、実施設計がほぼ完成した後から、CCCが要望したと思われる
「構造変更の必要なプラン」は、先述した
「キャットウォークを設置するために、エレベータの位置や向きを変えた」では少なくともないと思われます。
高層書架を、当初の簡易的なつくりの「飾り棚」から、壁面に配置する本格的な閉架書庫のつくりにした
としたにしても、別の工事が必要だったと考えなければいけなくなりました。
というわけで、「構造変更の必要なプラン」は、いまだに謎だらけです。
3800万円の“安全対策” へつづく
南海電鉄の内部で作成されたと思われる工期遅延のプロセスについて説明された文書。CCCが選定された直後の12月に「プラン受領」とあるが、補助金申請に間に合わないことから、その後は、「設計変更前の図面」による手続きが行われ、3月になってようやく「プラン再受領」となり、翌月4月にそれが確定するプロセスが記録されている。赤い四角で囲んだ部分が白いマスキングで消されていた。 |
【関連記事】
3800万円の“安全対策”
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