CCCが和歌山市で学校図書館の運営を受託することに関連して、「偽装請負」についてのテキストを紹介しております。
今回は、
『偽装請負』を読む~違法まみれの“御手洗キヤノン”~
の続きです。
キヤノン本社 wikipedia より |
2006年7月31日から始まった朝日新聞の偽装請負追及キヤンペーン報道は、
半年後の2007年2月7日、ついに国政の場に飛び火しました。
舞台は、衆院予算委員会。民主党衆院議員の枝野幸男が朝日新聞記事のコピーを手に「キヤノンという精密機器メー カーがあります」と切り出したのです。対峙するのは、第一次安倍内閣。
『偽装請負―格差社会の労働現場』 (朝日新書)から、該当部分を引用してみましょう。
「なぜキヤノンという社名を出すかといいますと、ここの会長は公務員だからです。つまり、 経済財政諮問会議の議員として、皆さんの政府のつくる経済政策、雇用政策について一定の権限を持っておられます。ですから、単なる一民間企業であるとは私は思いません。したがって、 お答えをいただきたい。厚生労働省として、キヤノンあるいはキヤノン関連会社における偽装請負あるいは派遣法の違反をどの程度把握し、どういう指導を行ってきているのか。お答えください」
厚生労働大臣の柳澤伯夫が、個別の企業については答えられない、というと、枝野は次に内閣総理大臣の安倍晋三に向かって言った。
「キヤノンのトップは、政府の一員です。経済財政諮問会議の一員として、雇用や経済政策について影響力を持っておられるんです。キヤノンは繰り返し偽装請負や派遣法違反が新聞で報道されています。こうした報道が事実で、キヤノンにおいて違法な行為があるとすれば、御手洗という人は、経済財政諮問会議でとんでもないことをおっしゃっておられます。『法律を遵守するのは当然だが、これでは請負法制に無理があり過ぎる』。いいですか。自分の足元で違法な行為をやっておいて、そこのトップが、うちでやっている違法な行為が合法になるように何とかしてください、と堂々とおっしゃっている。私は、これは無茶苦茶だと思うのですが、 総理、そう思いませんか」
安倍が答弁に立った。
「御手洗氏は、法律を遵守するのは当たり前のことであるということも諮問会議において発言をしておられるわけでありまして、我々としては、個人としての識見をぜひ発揮してもらいたいということで諮問会議の議員に任命をしているわけであります」
枝野が追及した。
「だったら、自分がトップを務めている会社で違法な行為がないようにするのが責任じゃないですか。その上で、いや、うちの会社はちゃんと守らせているけれども、これではとても実態は回りません、だから何とかしましょう、こう提言するなら百歩譲って一つの見識だと思いま す。しかし、自分のところで違法をやっておいて、それを放置しておいて、今の法制度はおかしいと、そういうのは筋が通らないと思いませんか。総理は日本の伝統文化がお好きのようですが、まさに恥の文化に反する行為じゃないかと私は思うんですが、総理、違いますか」
安倍は御手洗をかばい続けた。
「当然、政府としては、偽装請負など法令違反に対しては徹底して監督指導を行っていく、これは当たり前のことでありますし、繰り返しになりますが、諮問会議の御手洗議員も、当然法令を遵守していく、これは当たり前のことである、このように発言をしておられるわけでございます」
枝野は、「本人の釈明を聞きたい」として、御手洗を予算委員会に参考人として招くよう委員長に求めた。
集中砲火
2007年2月の国会は、違法な雇用の象徴としてのキヤノン糾弾の場となりました。野党議員が、前年10月8日の経済財政諮問会議で御手洗が「今の労働者 派遣法のように3年たったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは硬直的 になってしまう」と発言した問題を追及。
柳澤厚生労働大臣も逃げきれず
「派遣が固定化してしまうのは決していいことではない。 御手洗さんの発言は、今お聞きする限りでは、期間制限をしたところの趣旨に反していることになると思います」と明言するしかありませんでした。
しかし、クライマックスは、2月8日の衆院予算委員会の公聴会でした。
キヤノン宇都宮光学機器事業所で働く民主党の推薦で公述人として招かれた大野秀之さんが
「請負や派遣、パートの労働者を代表する思い」を込めて、20分間にわたり意見を述べました。
「私は、半導体露光装置という機械の核となる部分に搭載される特殊なレンズの研磨、測定工程を担当しています。簡単にできあがる製品ではなく、請負で製造するには最も不向きな製品です。そのため、職場内には正社員が常駐し、その正社員からの直接指揮命令を受ける、いわゆる偽装請負の状態で働いていました」
「正社員になってもっといいモノづくりをしたいという自分たちの気持ちをキヤノンは酌んでくれると思い、昨年10月、勇気を振り絞り、団体交渉の申し入れをしました。しかし、残念ながら、キヤノンは、話し合いも拒否してきました。ものすごくショックでした」
「一方、私たちは栃木労働局に偽装請負の申告書も提出しています。申告翌日から、正社員が職場から机ごと移動するなどして、さも請負契約が成立していたかのように職場を変更し始めました。申告してから早くも4カ月が経過しましたが、いまだに労働局から指導が出ていませ ん。なぜここまで時間がかかっているのか、不安な気持ちで日々過ごしています」
「私たち請負、派遣の労働者は生身の人間です。正社員と同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金をもらいたい。安心して子どもを産みたい。子どもに十分な教育を授けたい。育ててくれた親の面倒を見たい。そして、自分自身も社会に貢献しながら幸せな老後をおくりたい。そんな生活をしたいです」
「私たちのように一度、非正社員の道に入り込んでしまうと、正社員の道を歩むのがとても困難であるということを、どうか知ってください」
質疑の時間、民主党議員の枝野から「もし言い足りないことがあればどうぞ」と促されると、 大野は立ち上がって、「経団連会長でキヤノンの会長でもある御手洗さんに聞いてもらいたい」と前置きして話を始めた。
「自分たちは今まで非正社員、正社員と関係なく協力して、日々努力して、すごくいい職場を10年かかってつくりあげてきました。できれば正社員となって、職場をこれからも守っていき、 キヤノンに貢献できれば、という強い思いで働いています。もちろんキヤノンが好きですし、 いいモノをこれからも誇り高くつくっていきたいと思っています」
キヤノンの偽装請負に関する一連の報道によって、あぶりだされた雇用破壊システムの実態は、
それまで世間に根強く蔓延っていた若者に対する自己責任論を、きれいさっぱりと拭い去ってもなお、おつりがくるくらい強烈なインパクトがあったのは間違いないでしょう。
『偽装請負』を読む(3)~「人間尊重主義」という欺瞞~
へつづく
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