6/5にグランドオープンして、全館フルアクセスが可能になった和歌山市民図書館ですが、
最近視察に行かれた関西在住の図書館の専門家の方のご感想をお聞きすることができましたので、以下、その内容をご紹介しておきたいと思います。
《第一印象》
平日も賑わっていた。若い方がたくさん来館。 空間デザインは、おしゃれで都会的で洗練されいる。
《改善されていた点》
・吹き抜け空間がないので、本の壁がなく、ダミー本がない
・2階は、ライフスタイル分類で7万冊配架されているが、3階の専門書的な図書はNDC分類になっている
・また、本やグッズ販売は1F、図書館部分は2・3・4Fと階が分かれているので、本屋と図書館の境界がはっきり区分されている
これまでのツタヤ図書館といえば、吹き抜け空間に、高くそびえる「本の壁」を設置していたのが特徴だったのに、
それがなく、ツタヤの独自分類も2階だけで、図書館と店舗部分の境界がはっきりしている
そういうと、ずいぶん改善されたのでは。一瞬そう思ったのですが、実態は違いました。
あとから詳しくご説明いただいたところ、ぜんぜん改善とはいえないようです。以下、専門家の方のコメントつづきです。
「本の壁というのは無くなりましたが、やっぱり、手の届かない天井近くに本棚があるのです。自習コーナーとか、普通の家で言えば鴨居の上の部分に書架があって本を並べてあるのです。そこに配架している本の基準がわかりません。
手が届きにくい場所にある書架は書庫がわりみたいにしているような気がします。普通の本です。落下防止装置は施されています。利用者には手がとどきません。
書名も見にくいです。梯子も踏み台もありません。どうして取るのですか、と質問したら、職員が梯子を持ってきて取ってくれるのだそうです」
ツタヤ図書館6館めにして、ついに中身カラのダミー本がなくなったというのは、間違いなく朗報だと思いました。
2018年にオープンした周南市では、装飾用のダミー本の費用に152万円もかかることが問題にされ「本物の本を買え!」とさんざん批判されました。そんな声がついにCCCの増田宗昭ワンマン社長にもに届いたということでしょうか。
ところで、2015年に開館した海老名市では、高層書架のダミー本について、当時、地元神奈川新聞にこう書かれていました。
”中央図書館館長に就任した高橋聡CCC図書館カンパニー長は佐賀県武雄市図書館で指定管理者として運営した経験を踏まえ「高い位置に本を置くと、CCCの図書館運営の”反対派”に本を取るように何度も頼まれるから」と説明する”
高橋さん、そんなこと言ってた“反対派”って本当にいたんですか? これウソじゃあないかって、さんざん言われてるんですが…。
しかし、本物の本なら高層書架に配架していいのかというと、それも違いますね。
神奈川新聞は、こうも書いています。
”ダミー本の上には「本物の本」も並ぶ。「神奈川県史」「大磯町史」などの郷土資料だ。出納は職員に頼まなければならず、……だがそもそも、どんな本が並んでいるのかは、双眼鏡でものぞかない限り、下からは見えない”
最新の和歌山でも、同じだってことですね。
ツタヤ図書館の話題が沸騰していた頃、ツイッターに、ヘルメットをかぶった作業員が双眼鏡で本を探しているパロディ画像があったと思い出して、昔のデータを探したら出てきました。こんなのが。(作者不明。ご存じの方は教えてください【※1】)
【※1】さきほど、作者は、こちらにツイートされている方ではないかと教えていただきました。↓武雄市で開館する2013年4月よりも3か月前のツイートでした。 https://twitter.com/SeijiMatsuda1/status/295867002424287233
高いところから本が落ちてくると危険
遠すぎて書名すら読めないので双眼鏡が必要
という、なかなかエスプリのきいたイラストなんですが、
2013年に武雄市で“1号店”がオープンするときから言われていたことなんですね。
それが7年たったいまも解決されていないんでしょうか。安全性の面では、追加費用で対策を講じたのかもしれませんが。
これに先立って、専門家の方に、問題点についても、簡単に挙げていただいておりました。
《問題点》
・配架と検索
「配架の基準というか体系というか、どう並べられているかが良くわかりません。非常に本が探しにくいです。棚番号で並べているようですが、棚番号が見づらい。
検索機も使いづらい。特に児童書を並べている4Fの検索機が、入力部分の文字が非常に小さいのです。
子どもは小さい字だと読めないらしいと聞いたことがありますが、どこでも子ども向けに表示するときは大きな文字を使います。高齢者も自分が入力した文字が読めないと思います。
ライフスタイル分類はやっぱりわからない。そして、専門書と言ってもよいような本でも、書名の中に地名が入っているだけで旅行のところに入っています。ロンドンの植物園の本など」
・4階児童書コーナー
「NDCではなくツタヤ分類なので、小学生の調べ学習では、とても使いづらいです。【※2】
売りの一つにしているえほんの山ですが、車いすや障害のある子どもたちにとって使いづらいのは勿論ですが、その山のてっぺん、4畳半くらいの広さがあるのですが、そこでお話し会をすると聞いて驚きました。
柵や手すりがないのです。非常に危険です。職員に危険じゃないですかと聞いたら、カウンターの私たちも見てますから大丈夫と答えてましたが、
子どもって何をしでかすかわからないし、プレイスペースもカウンターから、遠く離れていて、事故がおきても気が付きません」
何気に、スルーしてしまいましたが、4階も「ツタヤ分類」なんですね。ツタヤ分類=CCC独自のLS(ライフスタイル)分類は、当初から坂下館長が「2階5万冊のみ」と市民に約束していたはずなのに、
ふたをあけてみたら「2階7万冊」+「4階児童書コーナー」も、ツタヤ分類を導入していたなんて、完全に市民との約束を破ってるではないですか。これは酷い。 また、例によって“CCCの騙し討ち”ですかね。
【※2】2020/7/10/17時45分追記
4階の児童書コーナーは、CCCによるライフスタイル分類ではなく、同社と和歌山市が協議して児童書用に設定したまったく新しい独自分類だそうです。現在、詳細な情報の開示を求めています。
そして、何より「えほんの山」の危険性です。
この点は、私の意見も書いておきます。
下半身の自由がきかないと、階段なんかとてつもなく不自由と思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは限らないんです。
階段のほうが、腕の力だけで移動しやすいので、むしろ階段が大好きな身障者もいますので、きっと「えほんの山」は大人気でしょう。
でも、その横を健常者の子が縦横無尽に駆け回ったりしますと、とてつもなく危険です。
不慮の事故を誘発しやすいのは、おそらく身障者団体の人なんかがみると一目瞭然だと思います。なので、この点は、ツタヤ図書館であることは一切関係なく、ぜひ市民から申入れをして、安全対策を講じていただきたいと思います。
専門家の話のつづきです。
「図書館とショップが区分されていると言いましたが、1Fのショップ部分の奥の壁というか棚に文学全集がおいてありますが、全くインテリア化していて、多分、ほとんどの人が手には取らないと思います。鴨居の上の本も、ショップの隅の全集も、全くインテリアとしてとらえているようです」
これ、昭和の新築住宅の応接室に、百科事典を飾っていたのと同じような風景ですかね。本がインテリアというのは、商業施設とかモデルルームだとしたら、もちろんおおいに結構なんですが、公共図書館でそれやったら批判されても仕方ないですよね。何のための施設なのか、いま一度考えていただきたいものです。
専門家の方は、こう結論づけます。
本とは、時には人を感動させ、時には深く考えさせ、時には人生を変えさせる力があり、人の可能性を引き出すものとはツタヤは捉えていないのでしょう。
空間を演出する、知的でハイセンスなアイテムの一つとして捉えているのではないでしょうか。
図書館の居場所としての機能も大事ですが、居場所として考えたら、高齢者に対する配慮はないと思いました。形だけは車椅子を置いてはいますが、障害者に対する配慮もありません。
図書館とは何か、自治体が図書館を設置する目的として、賑わい創出が第1の目的というのはおかしいじゃないですか。賑わい創出を目指すなら、税金を使ってやることではないですね。
というわけで、一般の方がSNSで、“映える”館内の写真を紹介しながら、オシャレスポットとして紹介するのとは、まったく違った視点での評価となりました。
残念ながら、これまでツタヤ図書館に対して指摘された問題点が、和歌山でもあまり改善されていないのではないかと感じました。
これから細かい点がたくさん出てくると思いますが、本日は、ひとまず全体像をつかむために、取り急ぎ、専門家のコメントをご紹介させていただきました。
よろしくお願いいたします。
奇天烈な和歌山分類 へつづく
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