こんにちは、日向です。
先日、香川県坂出市長選挙(5/9告示、5/16投票)について、こんな地元情報をキャッチしました。
5月1日、坂出青年会議所の主催で開催された討論会に、4選をめざす現職の綾宏氏と、対抗馬として立候補を予定している前県議の有福哲二氏が出席して、お互いの政策について議論を戦わせた。
その席で、有福氏がこのような訴えをしたそうです。
坂出駅前に図書館が入る複合施設、緩衝緑地にカフェを整備するなどしてし、「民間企業と一緒に土地の評価を上げて税収を増やしていく
5/2四国新聞より |
早くも「有福さんは、坂出市にツタヤ図書館誘致するつもりなのでは?」という見方がsnsなどで広まりましたので、調べてみましたところ、支援者とおぼしきブログには、その計画が詳しく書かれていました。
意外にも、そこでお手本として紹介されていたのは、ツタヤ図書館ではなく、なぜか宮崎県都城市の複合施設に設置された図書館でした。そりゃあ、そうですよね。もしCCCサイドから働きかけがあったとしても、それは決して表には出せませんので。
そのなかで有福さんは、こう述べられています。
坂出市の厳しい財政事情下ではその財源を全て行政に期待することはできません。そこで公民連携による民間投資を活用することで駅前の再整備を行い、民間投資の呼び水にしたいと思います。
有福哲二を支える会 坂出市の魅力的な街づくりのビジョンhttps://ahahalife.com/arihuku/ より |
これ読んで、あれっ? と思った人も多いはず。数年前までよくみられた、「公民連携」とかPFI、PPPなどの手法によって、より少ない公費で、飛躍的に効率的な行政運営が実現したみたいな話が、いまさらのように書かれているんです。
2013年に新装オープンした元祖ツタヤ図書館の武雄市でも、
開館時間は1.5倍で入館者も100万人近く記録したのに、運営費用は直営時代よりも1000万円削減に成功した
ということをさかんにアピールしていました。しかし、少しして、それは直営時代の歴史資料館を除いた運営費で比較しているので事実ではない、むしろ費用はCCC指定管理になって大幅に増えていると批判を浴びましたが、ウソでも百万回言い続ければ、それが事実のように思う人が激増。最近ではワクチン大臣として有名な、あの河野太郎氏が、いまだにその言説を対談で語っていたのをみて、びっくり仰天しました。
一度信じてしまったことは、あとからどんなにウソだ言われようとも、信じてしまうのがフェイクニュースの怖いところなんですね。
なので、私なんかは、「公民連携で行政を効率化」なんていう話が出たとたんに、眉に唾つけて聞いてしまう傾向がありますが、世間はそうではなく、とにかく言ったもん勝ちになってしまっています。
そこで、早速、有福さんがお手本として挙げている宮崎県都城市の複合施設について調べてみました。
わかったのは、だいたいこんなことでした。
・2018年に複合施設「Mallmall 」(まるまる)のなかに新しい都城市立図書館が新装開館した
・もとは百貨店のあった建物を、図書館を核とした施設に改装、また、同じエリアに子育て支援施設や保健センターなど4施設が入る建物を新築
・運営は、ヴィアックスなど複数民間事業者で構成されたMALコンソーシアムが担当
・年間200万人が訪れる施設として市内外の評価も高い
写真みますと、いまどきの複合施設らしく、創意工夫をこらした建物に広場もあり、使いやすそうな素晴らしい快適空間のようなんですが、やはり気になったのは、運営費と建設費です。
https://miyakonojo.tv/summary/mallmall より |
「Mallmall 」の総事業費は約65億円。その三分の二は、国などの補助金を活用して、市の負担は三分の一におさえているということらしいんですが、施設全体の指定管理料金が年間4億7000万円と聞いて、そこから見方がガラリと変わってしまいました。
そのうちヴィアックスが担当する図書館の運営費は、2億1900万円なので、それについてだけいえば、高くはないのかもしれませんけれど、複合施設全体で4億7000万円というのは、いくらなんでもベラボウですよ。
しかもですよ。まずその百貨店跡地を取得したのが地元の商工会議所で、そこを母体に設立された「まちづくり会社」が運営主体となったとされていました。
これ、昨年秋にあやうくCCCの提案でツタヤ図書館もどきを作ろうとしていた山口県宇部市のスキームとソックリなんです。
宇部市では、地元商工会議所の重鎮が、井筒屋跡ビル取得に負担が重すぎると反対。その後、地元企業の寄付を元手に市が取得して複合施設の基本計画をCCCが立案しましたが、その計画が古い建物の改修なのに費用がかかりすぎることから、議会で否決されました。
もしあのままいっていたら、改修費だけで29億円、年間3億円近い運営費をかけた「ツタヤ図書館もどき」ができていました。そのあとから次々と噴出した前市長周辺のスキャンダルなんかを考えますと、議会でCCCによる基本計画を否決しておいて本当によかったなぁと思えるようなことが続きました。
もちろん、都城市のケースには、宇部市のような不透明なことはないクリーンな市政で進められたんだとは思いますけれど、それにしても、複合施設の運営費に毎年4億7000万円も民間企業に払うというのは、いったいなんのために「公民連携」の事業にしたのか首をひねるようなことなんです。
「Mallmall 」各施設の運営を担う指定管理者をマネジメントするのは、都城市ではなく、市と民間が共同出資してできた、いわゆる第三セクターの「都城まちづくり株式会社」です。第三セクターと言えば、かつてバブルの頃から自治体の新規事業の担い手として雨後の筍のごとく作られたものの、採算が合わないまま赤字が膨れていき、債務超過で破綻するところがが続出したことがよく知られています。
その手法を、いま頃使っていることに、とにかく驚かされます。
いやいや、市直営なんかにしたら年間10億円はかかるよと言われるかもしれませんけれど、この手の施設の運営費の大半が人件費です。もし市がスタッフ全員を正規職員で雇用して運営するのでしたら、地元にそれだけ回るお金も増大して、それなりに経済効果はあるはずですが、施設を全面民間委託にしたら、地元雇用はほとんどが非正規の最低賃金であとは都会から来た企業に吸い上げられるだけで、ますます地元は貧しくなるのではないでしょうか。
前にも書いたと思うのですが、自治体が行う民間活力を入れた「PFI」とか「PPP」というスキームは、市民の負担をできるだけ小さくして、一方で市民サービスを最大にするためのものなのに、いつのまにか、自治体が巨額の費用をかけて公務を民間に丸投げするだけのために用いられる手法になっていると感じるのは、果たして私だけでしょうか?
PPP/PFIと呼ばれる手法は、民間企業のノウハウや資金を有効に活用して、行政が行う事業をより効率的に進めるものだと思ってました。
巨額の税金を投入しなくても、より安い費用でより質の高いサービスを提供できるのが指定管理者制度などを活用した官民連携の手法なんだと理解しておりました。
例をあげるとすれば、自治体所有の土地を自治体自らが開発すると、役人は商売が下手なので金がかかるだけのハコモノになってしまいます。
そこで、その開発が得意な民間に貸し出す。建設費も一部民間に出させて公共施設の入るビルを建ててもらい、一部を商業施設にすれば人が集まり、自治体は高額な家賃や地代収入を民間から継続的に得ることができ、少ない費用で、公共施設を運営できるわけです。
その意味で、都城「Mallmall 」をお手本にしている、冒頭に紹介した坂出市の有福さんの主張は、たとえCCCによるツタヤ図書館ではなくても、かなり危ういと思うのです。
ただし、よく注意して読んでみますと、有福さんは、決して「事業費が安くなる」とは書いてないんですね。もう一度引用してみましょう。
坂出市の厳しい財政事情下ではその財源を全て行政に期待することはできません。そこで公民連携による民間投資を活用することで駅前の再整備を行い、民間投資の呼び水にしたいと思います。
この後にこうつづきます。
「にぎわい」が創出できれば、エリア全体の評価が上がり、さらなる民間投資も進みます。市の税収増も期待できます。公民連携が成功の鍵となります。
私なりに翻訳すると、こういう意味に解釈できます。
「にぎわい」が創出できれば、不動産価格もあがります。タワーマンションも建築できます。仕事も増えます。人口も増えます。不動産価値があがれば、固定資産税も評価額もあがります。それによって、市の税収増も期待できます。
こういう考え方というのは、実は、和歌山市で2014年以降に開催されていた、官民連携のまちづくりの協議体の会議で、さかんに民間事業者が言っていたことです。現状では、民間は市駅前にマンションも建てられませんよ。もっと自治体が投資して魅力的にしてくださいと。この議論をリードしていたのは、国交省の元大物次官でした。彼らにしてみれば、政治家や行政を自分たちの思うままに動かすための仕掛けは、常に行っているんですね。そのために国土交通省は、巨額の補助金を出しているんです。
でも、みなさんもう、何年もアベノミクスを続けてその成果があまり出なかったことに気づいているはず。不動産価格は、一部で多少上がりましたけれど、地方経済は、依然として停滞したまま。人口は減る一方で、産業の競争力も高まっていません。
そういう文脈で、有福さんという市長候補がめざしているビジョンというのは、非常にスタンダードといいますか、昔からの保守政治家による古典的なアプローチなんだなぁと思いました。
で、もう一点、都城市の人に「ツタヤ図書館なんかと一緒にするな!」と怒られそうな図書館機能についてですが、確かに、
世間には「ツタヤ図書館」批判と「ツタヤ図書館的なもの」批判があり、図書館機能に関していえば、カルチュア・コンビニエンス・クラブでさえなけれ、あそこまで酷いことにはならないのは、間違いのない事実だと思います。
図書館機能はCCC運営のようなことはなくても、都城市のように、国の補助金フル活用して、複合施設の運営そのものを民間に投げていることについて行政運営上の「ツタヤ図書館的なもの」批判というのも、当然、成立すると思います。今回はそこを中心に述べました。
では、そもそも「ツタヤ図書館」とそれ以外の図書館はどこが違うのでしょうか。その言葉の定義については次回に詳しく述べたいと思います。
- ツタヤ図書館3つの罠へつづく
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