2018年12月20日木曜日

●図書館で起きた時給180円事件(2)

図書館で起きた時給180円事件(1)」からのつづき

●図書館で起きた時給180円事件・(2)

 公共図書館で起きた「時給180円事件」。それを告発した司書は、実質解雇され、権利回復はほぼ絶望的だった。
そこに急転直下、救いの神が現れた――。


事件を報じるAERAの記事



5.突破口は、労働基準監督署の是正勧告

 意外にも、最初の突破口は、労基署でした。労基署が突然、是正勧告を出したんですね。
 これは私も不思議だったのですが、申告から4 か月後の2012 年6 月11 日に経過を電話で問い合わせたところ、係官から


 「ちょうど今日、㈱TK(仮名)に調査に入りました」

と言われたんですね。

 労基署には、2 月に本人が申告した後も、組合幹部の方も同行して頂いて着手するよう要請に行ったり、係官とは、定期的に連絡をとって、根気良く、労基法違反行為を摘発するよう催促したりしていましたので、それが功を奏したのかもしれません。

 係官が会社に調査に入った結果、最低賃金法違反行為に対して是正勧告が正式に出されました。違法行為が初めて認定されました。

 このことは、事件全体にとって非常に大きい意味を持ちました。これがなければ、その後の展開はうやむやになっていたでしょう。“不適切な行為はあったが、違法行為はなかった。すぐに改善したので問題はなかった”と、波風立てずに、この業者に続けさせたい区は、そう言うに決まっています。

 ところが、労基法違反・最低賃金法違反となりましたので、われわれは堂々と“違法行為を犯した業者”とアナウンスできるようになりました。


6.第二の突破口は、マスコミ報道

 その成果が出たのが、まずメディアの報道です。これは朝日新聞『AERA』2013 年2 月25日号に掲載された記事です。「公務員の代替時給180 円」という非常にショッキングな見出しで、妻の事件が報じられました。朝日新聞の記者は、当事者たちに大変丁寧に取材して、時間をかけて事実を固めて記事にしていました。

7.公益監察員が区長に報告書を提出

 ここまで詳細な報道が出ると、区としても、もはや知らん顔はできなくなったようです。アエラの記事が出た翌々月の4月、さんざん待たされた公益監察員の報告がついに出ました。

 退職直前の前年2月に公益通報した妻は、当初、1カ月位で報告が出て、それを受けた区の改善指導によって4月以降も継続して勤務できるんじゃないかと淡い希望を抱いてましたが、区からは、何の音沙汰もない。いくら待っても、区は何もしてくれないのだなと憤慨していたところ、1年後、アエラの報道を受けて、やっと報告書を出してきたのです。

 報告書のなかで、公益監察員は、妻の不当解雇について


“㈱TKは契約更新拒否の理由として挙げている指摘は虚偽である”

と断定しています。

 通報から1年かかりましたが、結果として、その内容は、非常に厳しいものとなりました。そして、


“㈱TKは事実に反する主張を再三行っている”

と、こちらの主張を全面的に事実認定し、さらに


“㈱TKからの報告では、足立労働基準監督署からの是正勧告を受け・・・この事態を回避すべき責任を負っていながら回避しなかったと評価でき、基本協定に違反する”

と結論づけていました。

 また、報告書では、終始一貫して㈱TKの行為を強く非難していました。

 たとえば


“区長に対して行った報告に事実に反する点があるなど、不誠実な対応が散在する”

――これは何かというと、彼らは“資料を出せ。説明しろ”という公益監察員の要求を、ことごとく拒否していました。

 そのやりとりの詳細文書を情報開示で請求したところ、本当に区を馬鹿にしたようなノラリクラリした態度で公益監察員の弁護士さんも翻弄され、怒り心頭に達していた様子がわかりました。

 そのあたり経緯が報告書の文章表現に込められていたのです。地方自治法第244 条の2 第10 項6という法的根拠を明確にした区長権限での“書類を出しなさい。正直に言いなさい”との公益監察員からの要求を、会社はことごとく撥ねつけていたのですから。

8.㈱TKを東京地裁に提訴

 ところが、公益通報に対する調査報告書は出たものの、今度は、待てど暮らせど、区はこの会社を処分しようとしません。そこでしびれをきらしたわれわれが次にとった最終手段が訴訟です。


 最初に法律事務所の弁護士の先生に相談したときには、


「裁判で勝算は五分五分ですかね?」


と訊いたら難しい顔をされました。五分五分も無いような勝算の裁判を起こすことはほとんど考えていなかったのですが、“ここで記者会見すれば世間にわっと広がるんじゃないか”――団交は決裂していますし、区も処分をしないので、事態を打開するには訴訟に踏み切るしかないのではと思い至りました。

2013 年8 月21 日、解雇撤回を求めて㈱TKを提訴。東京地裁の記者クラブで弁護団、労組幹部同席のうえ会見したところ、案の定、NHKのニュース、翌日の日経、読売、毎日等に取り上げられました。

9.区の処分が決定

 それを受けて、翌月9 月18 日、ようやく区は重い腰を上げて処分を決定するのです。

 何をしたかというと、㈱TKが受託している三つの公共施設-図書館併設の地域学習センター2 館と運動場というスポーツ施設-のうちスポーツ施設だけを、来期で満了になるから外すこと(違法行為を犯した事業者の応募を受け付けない)で収拾を図ろうとしました。

 委託費は3 施設全体で2 億円程度ですが、この運動場はせいぜい2、3 千万円位の仕事です。㈱TKとしては“こんなものを飛ばされても仕方ないか”というところでした。

 問題はここからです。その翌年2015 年3 月にも、残る2 施設も期間満了になるのですが、その応募資格にこんな記載がありました。


「団体又はその代表者が、指定管理者として行う業務に関連する法規に違反するとして関係機関に認定された日から2 年を経過しない者でないこと」

 要するに、“法律違反をしたら2 年間は指定管理者に応募できませんよ”ということなのです。うちの妻が労基署に告発して、その是正勧告が出されたのが2012 年6 月でしたから、その2年あとの2014 年6 月には指定管理者に応募できるようになります。

 翌7 月には指定管理者公募開始ですから、これは、かろうじてセーフなのです。

(「図書館で起きた時給180円事件(3)」につづく)



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