こんにちは、日向です。
先日取り上げました福岡市の「公民館ミニ図書館事業」(福岡市のTSUTAYA古本、公民館提供の顛末)について、市の担当部署にいくつか基本的なことをお聞きしましたので、その点をメモ代りに書いておきます。
・「公民館ミニ図書館事業」は終了したわけではなく、事業自体は(スタイルを変えて)現在もつづいている
・今年度からは、総合図書館の団体貸出を、希望する公民館には活用してもらって図書の充実をはかることにした
・TSUTAYAとの事業は、令和元年度(2019年度)までつづいていた。
・それは、公民館に市民が持参した古本の価値に見合ったポイントをTSUTAYAがつけて、そのポイントと同程度の価格の新しい本を公民館に提供してもらうもの
――TSUTAYAによる古本の提供は?
それは2018年度にすでに終了している。理由は、公民館としては、もう少し気軽に立ち寄ってもらえるような本の配架にしたい、より市民の要望に答えるため。TSUTAYA提供の古本は、比較的、小説が多かったたとえば、本屋大賞を受賞した本など。
――TSUTAYAの古本が多くの市民のニーズとあっていない?
そういうわけではないが、もっと幅広い層をとりこみたい、より市民のニーズに対応したということ。
――2014年に20館程度から始まった?
そう。新規に始めた公民館には、TSUTAYAが一館あたり300冊の古本を提供。翌年度以降は、そのうち100冊ずつ入れ替えていく方式だった(100冊新規に提供し、100冊回収していく)
――2017年度には60館程度まで広がったと聞いているが?
TSUTAYAの古本提供が終了した平成30年、2018年度は86館まで広がっている。
――予算は、当初130万円くらと聞いているが?
古い数字が手元にはないが2015年度は、111万円です。次第に減っている。最終的に2018年に終了した年は、96万円だった。輸送費、委託費等の内訳はわからない。
――何を配架するのもツタヤに任せている?
そうです。
――市民が持参する古本をTSUTAYAが買い取るポイトン制は、どのようなもの?
単行本200冊で3000ポイント程度になる。1ポイントいくらとは明確に決まっていない。ツタヤの方式。そのポイントで新刊10冊前後が提供される。小説とか雑多。回収した本をTSUTAYAがどうするかは、こちらでは、わからない。
やめたのは、よりニーズにあうものを展開。今年度からは総合図書館の団体貸出でよりニーズにあったものを展開していきたいということになった。
私の聞き方がよくなかったのか、終始つかみどころのない話でした。
福岡市・簀子公民館 |
ところで、この福岡市が2014年度から始めた「公民館ミニ図書館事業」は、不可解なことが多いんです。
地元市民の方によれば、もうスタート直後から、この事業のおかしな点が指摘されていたことがわかりました。まず、当初の発表は以下のようなものでした。
=2014/02/08付 西日本新聞朝刊=
売れ残り本6千冊を公民館へ寄付 古書業者が福岡市と連携 [福岡県] 公民館に寄付してもらうことにした。
初年度は中央区など20カ所の図書館に各300冊を配置。その後も順次、拡大し全公民館に完備したい考えで、初年度は事業者が公民館に本を配送する運賃として、数百万円を予算計上する予定。
キーワードは「寄付」です。「寄付」といいながら予算が数百万円かかるとはおかしいという市民の声がすぐに出てきたそうです。地元の方のメールを以下に引用しておきます。
本年度の正確な予算は、公民館20カ所に対し、本棚等を購入するための印刷消耗品費が70万円、本の配送等で必要な委託料が60万円です。
寄付と言いながら“委託料60万円”が発生しています。
福岡市内全館約150館に広がれば、正に数百万円の予算が必要です。
印刷消耗品費の70万円にはTSUTAYAのための古本ボックス設置予算も含まれます。
古本ボックスに入れた本はTSUTAYAが回収し、等価の本を提供するということです。
また、本を配架する(本棚に並べる)のはTSUTAYA側が行うので公民館側に負担はかからない予定だそうです。
ところで市長は会見で「ちょうどTSUTAYAさんが(中略)集める拠点が実は福岡市にあるんですね。全国の回収の拠点が。」と言っています。
つまり、この事業は福岡市のみならず近郊の市町村にも広がる可能性があると推測できるのです。
また、この動きが広まれば「図書館の資料は古本でも十分」という認識が生まれ、只でさえ人件費や資料費を削られ続けている図書館に「資料は古本で買って経費をおさえろ」と言い出す役人が出てくる事まで想像出来てしまいます。
そしてベストセラー本なら、ひと月程度の遅れで古本で購入する事ができるのも現実です。
もちろん、そんな事をすれば、著作権法と図書館法の整合性が取れなくなり、図書館に向かって出版界から今以上に強い風当たりがくるでしょう。
図書館に古本が寄付される事はありますしそれはそれで有り難い事ですが、「古本でOK。問題ない!」という訳では、全くないのです。
2014年当時は、まだ武雄市でCCCが大量の古本を入れていたことが発覚(2015年8月)する前でした。それでも、福岡の地元の方は、この古本事業のあやうさに気づいていたわけです。
では、TSUTAYAが提供した古本はどんなものだったのか。2014年当時、視察した方の報告によれば、
ツタヤのミニ図書館の棚に並んでいる本は、ハリーポッターやホームレス中学生、ルーガルーなど、古いベストセラー本や文庫シリーズの実用書などと、公民館長の希望でテルマエロマエなどのコミックが少し入っていました。
絵本はありませんでしたし、棚の形から絵本を置くのは難しそうでした。
ツタヤ側と同じ本が数冊入っていてさらに料理本などが入っている既存の一般書架の方が内容は上だと感じました。
「小説が多かった」というのは、なるほど、こういう感じなんですね。
ちなみに、視察された方の報告によれば、もともとその公民館には、独自に揃えた児童用の書架があったそうです。
こちらは子どもが遊んだりおはなし会が出来るように設えてある広い部屋に、図書館にあるような背の低い書架が置いてあり、「少し前に古いのを捨てたりしてかなり整理していとのことで、しっかり選書されていることが分かる絵本や児童書がたくさん並んでいたそうです。
1年に20館ずつ増やすペースで年100万円くらいの予算があるのならば、なにもTSUTAYAから古本を寄付してもらわなくても、数百冊ずつ新刊で揃えていけるはず。なにゆえ全国のTSUTAYAから福岡に集まってきた廃棄本を、公民館に配るなんていうヘンテコリンな事業の企画が通ったのか、ほんと不思議で仕方ないです。
TSUTAYAサイドからしてみれば、廃棄するために裁断費用がかからなくなるうえ、自治体に「寄付」という形で恩を売れるみたいなねらいがあるのでしょう。増田宗昭社長のモットーとして「三方良し」(買い手、売り手、世間ともに満足)なんて、よく言われますけれど、この事業の実態からすれば、TSUTAYAと市長は満足でしょうが、市民にとっては、なんのトクがあるのか、さっぱりわからないです。
地元市民の方の情報によれば、
時期的に見て、ツタヤが分館の指定管理を受注するため仕掛けてきた施策に市長が乗かったのではないか
ところが、ツタヤは福岡市分館の指定管理では魅力(うま味)がないことが判ったので,ミニ図書館事業から即撤退したのではないか
――というのがなかなか説得力のある分析だと思いました。
情報誌Conte vol.34 2014 Spring P07より |
ところで、私がもうひとつこのミニ図書館事業で、興味深かったのは、担当部署の方が、TSUTAYA提供の古本が
小説が多かった
と話していた点です。
ツタヤ図書館をみてきている者としては、CCCというのは、みなさんもご存じのように、図書館では、料理、健康、旅行といった、それこそ雑誌感覚で気軽にパラパラと読める実用書を中古でも揃えるのが得意な会社というイメージなので、そういう本が少なかったというのが、すごく意外なんです。
下をみてください。福岡の公民館ででミニ図書館事業が始まったの翌年に、宮城県多賀城市でCCCが古本で揃えた選書リスト1万3000冊のジャンル別のデータです。
多賀城市の開館は、2016年3月でしたが、中古本の選書は、その前年の2015年に行われています。
料理、美容・健康、旅行といった「気軽に手に取ってもらえるような本」を中古で大量に調達しているんですね。児童書も、歴史・郷土も、文学・文芸も、なぜか極端に少ないのがわかります。
まぁ、多賀城市では、中古でも一冊あたり1000円で購入したことになっていますので、ガッツリ儲かる事業でした。
それと比して、「寄付」ということで提供している福岡市の場合は、裁断・廃棄するはずだった本を寄付するわけですから、こういう市民のニーズにあったものは提供しないのは当然といえば当然なんでしょうけれど。
もっとも、比較的市民が手にとりやすいジャンルを多く取りそろえた多賀城の場合は、刊行年の古い本が大量に含まれていたため、こちらも、市民がほしがる新鮮な実用書とはほど遠いのですが。
もうひとつ、私が疑問に思ったのが、当時からTSUTAYAは、自社サイトでも新刊を販売していますが、2017年くらいまでは、新刊のページには、amazonと同じく古本も購入できる(一時期は、提携のネットオフと連動)ようになっていました。
2016年当時、TSUTAYAの新刊販売サイトでは、ネットオフ(すでにCCC傘下からはずれていた)で中古本販売のページと連動していた。 |
ところがが、いつのまにか、古本の販売は終了しているんです。
数年前から、ブックオフの苦境が伝えられるなか、古本ビジネスは、あまり儲からなくなっていて、TSUTAYA本体としては、いちはやく撤退していたんです。
そういうなかで福岡市の公民館の事業では、2018年に古本提供は終了していたというのは、なるほど自社のビジネスと連動して、自治体への寄付も辞めていたということになります。
儲かりそうな企画はとりあえずくらいついて、ビジネスチャンスをうかがう。儲からないと判断したら猛スピードで撤退するという、民間企業では、当たり前といいますか、それこそ優れた経営と言えるのでしょうけれど、そういうビヘイビアがここまであからさまに出ていると、やっぱり公共の世界では、なかなか信頼を得るのは難しいのではないのか。
福岡市の事業は、そう思えるような事案でした。
それにしても、スタートしたときには派手にアドバルーンを掲げるけれども、うまくいかなかったときには、市民には失敗に気づかれないように、コッソリとフェイドアウトしていくのは、行政の事業としては、いかがなものかと思いますね。
あのTSUTAYAが、古本を公民館に寄付して市民が活用!
と宣伝したはいいけど、市民にはあまりメリットがなかったのは、どうしてなのか?
そこに税金が投入されて市の職員も動いたわけですから、キチンと検証しておかないと、いつまでも同じ失敗を繰り返すのではないでしょうか。
これからは、公民館では古本はやめて、団体貸出中心に充実させていく
としているのは、まったくおかしな話です。
図書館からの団体貸出は、もともと公民館で行っていたことなのに、いまさら何を言うか
というのが、地元の図書館関係者の方たちの反応です。
360度グルリと回ってまたもとに戻ったということではないでしょうか。
そんなことを考えさせられた事案でした。
※2022年8/19追記
- マルタス黒塗り収支内訳書を読む(番外編) で2018年に開館した宮崎県延岡市の市民センター・エンクロスでも、開業時に古本を入れたのではないのかという疑惑が浮上してきました。
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