~坂下元館長は、誰の利益を最優先していたのか~
こんにちは、日向です。
アカデミズムの「箔」をつけるTSUTAYA(1) のつづきです。
今回、テキストとして取り上げる『公立図書館と都市経営の現在』(日本評論社)という書籍の共著者に名前を連ねている事例編の共著者11人のうち、3人がカルチュア・コンビニエンス・クラブが運営するツタヤ図書館に関係した人物でした。
なかでも、真っ先に注目してしまうのが、やはり、和歌山市の新しい市民図書館の運営者にCCCを選定した当時の図書館長で、その後、市教委の教育学習部長に出世された坂下雅朗氏のパートです。
今日は、坂下氏の執筆パート部分『第6章 地域活性化を目指した 指定管理者による図書館運営 一和歌山市民図書館の取り組み 』について、感想をのべておきたいと思います。
まずは、坂下氏は、市民図書館の来歴について、こう書き記しています。
従前の市民図書館は、1981年(昭和56年)に設置された。場所は、南海和歌山市駅から西へ500m、徒歩で10分程度のところにある。
開設当時、まだ閉架式で運営されている図書館もある中で、新しい市民図書館は開架式を採用し、ずらっと十数万冊の本が並ぶ光景は感動的で、市民の好評を博したものである。
当時、市民がたくさんの本が並ぶ書架を目にして喜んだときの雰囲気がよく伝わってきますね。
そして、こうつづきます。
市民図書館では、図書館に親しんでもらうために、「子供のおはなし会」を中心に行事を開催し、2018年度(平成 30年度)は延べ231回 約5000人の市民参加を数え、さらに地域の課題に対応した講座等を開催してきた。また、市民図書館独自の活動として、日本人の海外移住関係の資料を集めた移民資料室を設置し、資料の収集保存に努めてきた。
それが、いったいどういうわけで、新図書館建設計画になったのかは、まさにこの本のタイトル通り「都市経営」サイドからのアプローチでした。
ツタヤ図書館に限らず、新図書館建設計画のお約束なのが、従来型図書館に課せられた課題です。本書で坂下氏は、以下の点を上げています。
従前の市民図書館の課題としては、高齢層を中心とした常連利用者が多く、貸出中心の非滞在型利用が多数を占める現状であり、後に述べる アンケート調査では図書館サービスの認知度、満足度ともに低いということが挙げられていた。
市民図書館を取り巻く和歌山市の課題は、全国の都市が抱える問題と同じく、人口の減少、中心市街地の衰退である。
また、従前の市民図書館にはハード面で耐震性能が基準に満たないという課題があり、今後の維持管理および運営の方針策定が急務であっ た。
図書館は、市民のほんの一部にすぎない本好きのヘビーユーザーが貸出を中心に日常利用しているにすぎず、滞在空間としても図書館に対する一般市民による満足度も低い――という論理は、CCCが自社の図書館を紹介するときの決まり文句になっていますから、もうこのへんから、読んでいて、ややゲンナリてしまいます。
読書離れは、和歌山市に限ったことではなく全国的な傾向です。なぜそういうことが起きているのか、和歌山市ではその傾向はどうなのかという詳細な調査と分析を紹介することもなしに、いきなり、古い図書館に一般市民はソッポ向いているみたいな、雑な論が展開されているのは、読むほうとしては、しっくりいきませんね。
また図書館サイドの問題として、蔵書の分野別の取り揃えがどうなっているのかとか、探しやすさだとかといった本来の図書館機能についても、とりわけ深く考察された形跡もありません。
さらに言えば、耐震性が確保されていない図書館は全国で腐るほどあり、その多くは、耐震補強工事が実施されています。和歌山市の場合は、なにゆえ耐震補強ではなく建替・移転を選択したのか。そのへんの疑問に答える内容も書かれていません。
そして、この後に、いきなり出てくるのが、駅前の再開発計画です。
一方で、南海和歌山市駅前ビルの再開発計画が持ち上がり、市民図書 館の課題と再開発ビルの賑わいの核となる施設が必要との観点から、市民図書館の移転計画が 2015 年(平成 27 年)7月の「市民図書館基本構想」で決定された。
現行の南海和歌山市駅前ビルは、1973年(昭和 48年)に開業した。 開業当時は、ビルのテナントに百貨店が入り、1日の乗降客は南海電鉄 で約4万2000人、乗り入れているJRが 6000人、合わせて約5万人の乗降客があったが、現在は南海電鉄で約1万7000 人、相互乗り入れし ているJR 西日本で約4000 人、合わせて約2万1000人と、最盛期の半分以下の乗降客数となっている。2014年(平成 26年)にテナントの百貨店が閉店して以降は、駅周辺は停滞状態となっている。
このへんが「犯行の動機」と言うと語弊があるかもしれませんが、新しい市民図書館を南海市駅前に建てることにした最大の理由だということがよくわかります。
少し乱暴な言い方をしますと、
あんな古臭い図書館は取り壊してマンションにでもして、新しい図書館を駅前に建てるべき
ということのようです。
ちょっとまどろっこしいんですけれど、そのへんのことも詳しく引用しておきましょう。
そこで、南海市駅周辺活性化のために、南海電鉄が実施する駅ビル再開発とともに、市駅周辺の賑わいを復活させるべく和歌山市では、「和歌山市駅周辺活性化計画」を2015年(平成27年)5月に作成し実施している。
計画の概要としては、市駅周辺の徒歩圏内に3つの大学を開学させ、認定こども園や小中一貫の義務教育学校を設置し、駅ビルに市民図書館 を配置することとし、教育施設を中心としたまちづくりを目指している。 【※1】
市民図書館が和歌山市駅前地区再開発区域内に移転することの意義については、「市民図書館基本構想」で次のように整理されている。
①施設の安全と快適さを確保すると同時に、蔵書の充実、児童サービ スの拡充、中学生・高校生向けサービスの実施、子育て世代の支援や交流の促進、くつろぎを味わえる空間の提供など、現在実施できていないサービスや今後の市民のニーズに対応した図書館サービス を実現することができる。
②和歌山市駅は公共交通機関である鉄道と市内各地へ伸びるバス路線 の結節点であり、移転により図書館へのアクセスが向上する。駅直結の利点をいかし、通勤・通学途上に利用する人の増加を見込め、 空港も近いことから、県外・国外から和歌山市を訪れた人に地域観光情報を提供していくこともできる。
③図書館は集客能力の高い施設であるため、駅周辺に設置されることで商業施設や公共施設相互に回遊する人の流れがうまれ、人の賑わいが創出されると期待される。このことは、まちなかにおける新たな人の動きとなり、中心市街地活性化に寄与する。
④特に和歌山市駅周辺には、南方熊楠生誕の地や雑賀孫市ゆかりの地、勝海舟の寓居地や市堀川の水辺空間もあり、まち歩きを楽しむ要素が沢山あるため、和歌山市駅に図書館を移転することで、図書館利用者がまちを歩くことによる賑わいの創出が期待できる
⑤駅に直結した図書館は、市民のニーズを把握することや図書館の情報を提供しやすくなり、市民とともに育つ図書館を作りあげることが可能となる。
どれも、ツタヤ図書館でなければ「ああそうか、そういう経緯だったんだなぁ」と思えるのですけれど、詳しくその計画が立ち上がるまでの経緯を調べてきたものからすれば、どれも、とってつけたような理屈にしか思えません。
・南海電鉄が和歌山市駅を廃止しようとしているという真偽不明のウワサが駆け巡り、賑わいの象徴だった高島屋が撤退して、もともと寂れていた市駅前がますます寂れてきてた。このままでは和歌山市は人口も減って没落する一方だ
・これはなんとかしないといけないという話が持ち上がって、議会で議員が高島屋の跡地のことを取り上げたり、ちょうど市長が変わったタイミングで再開発計画が浮上
・そこに現れたのが国土交通省から、市長が元いた県庁ポストに天下ってきた官僚とコンサルタントのアール・アイ・エー
・両者と和歌山市の思惑がピタリと合って、総事業費123億円の市駅前再開発計画がスタート
・RIAが水面下で提案していたのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブを指定管理者にしたツタヤ図書館にすること
・その話に南海電鉄と和歌山市が「そんなに集客してくれるなら願ってもない」ととのっかった
・補助金総額94億円という図書館を集客の目玉にし前代未聞の駅前再開発計画が決定し、水面下でCCCを指定管理者に選定する出来レースが進んでいく
というのが、当ブログでこれまで書いてきた事実です。当然のことながら、そういう本音の話は、坂下さんの原稿には一行も書かれていません。
おそらく建前の話しか書かれていないので、退屈なのでしょう。
この計画の目的は、賑わい創出です。市民の読書推進とか、地域の文化がどうのこうのなんてのは、あとからとってつけたような話にしか聞こえません。
さて、ここからは、いかにして新図書館の計画を進めていったのかという実務の話になりますが、長くなりましたので、その点は、また次回詳しく取り上げたいと思います。
【※1】2015年に基本計画が発表された当初は、「市駅周辺の徒歩圏内に3つの大学を開学させ、認定こども園や小中一貫の義務教育学校を設置」については、一切明記されていない。無理やり「教育施設を中心としたまちづくりを目指している」ことを強調したいためにむ、あとから追加したものと思われる。
当時のニュース→南海電鉄「和歌山市駅活性化計画」に着手 - 駅ビルは2017年度以降に撤去へ
https://news.mynavi.jp/article/20150519-a647/
南海和歌山市駅活性化構想について
http://www.city.wakayama.wakayama.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/440/houdou/2015/05/day/18/001.pdf
また、市教委は、現在の市民図書館を継続して使用する場合の課題も記載。建設後30年以上が経過し、耐震改修を行うと9カ月以上の休館が必要となる▽収蔵能力が限界を超え蔵書の増加が望めない▽児童室や閲覧席、自習室などの規模が小さい▽駐車場が少ない――などとし、移転改築の必要性を強調している。https://www.wakayamashimpo.co.jp/2015/07/20150706_52011.html
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