このところ、世間は新型コロナウイルスの話題一色という感じでしたが、
3月18日発売の週刊文春が放った、森友問題で自殺した近畿財務局職員の遺書全文公開というスクープが波紋を広げています。
私もすぐに文春を買いに走り、帰宅後、貪るように読みました。
元NHK記者の相澤冬樹氏(現・大阪日日新聞編集局長)による記事と遺書の解説は、さすがこの問題を何年も追及してこられただけあって、一気に読ませるといいますか、ともすれば事実関係の整理だけでも難解になりがちなこの手の記事してにはめずらしく、生身の皮膚感覚が随所に立ち現れてくるような迫力がありました。
まっ先にに感じたのは、
この記事は、かつて1974年に月刊文藝春秋が時の総理を辞任にまで追い込んだ「田中金脈追及」の流れを汲んでいるのではないかということ。
そして、この相澤氏の記事は、そのときにメインの記事である立花隆氏の記事と二本立てだった児玉隆也氏の『淋しき越山会の女王』に匹敵する位置づけではないのかということでした。
田中金脈追及は、調査報道の王道ともいうべき膨大な資料と関係者の証言からカネの流れを徹底的に追ったものでしたが、
それに対して児玉隆也氏の『淋しき越山会の女王』は、当時、“今太閤”と持てはやされた田中角栄首相の影の存在として、絶大なる影響力を持っていたある女性を追いかけたストーリー。
昭和の激動を生き抜いてきたひとりの女性の悲哀が随所にちりばめられていたその記事が、田中金脈追及に大きな破壊力を与えたとも伝えられています。
相澤さんの記事は、醜聞慣れした市民の関心を呼び起こしたという点で、それと似ているところがあり、自殺した職員の妻の感情の揺れ動きが読むものに、
この問題が単なる政治スキャンダルではなく、誰しも身の上にも起こりうる身近な問題としてとらえられるリアリティーと不条理な出来事に対する感情を揺さぶるものでした。
この件で、安倍総理がその日うちに、記者のぶらさがりでこうコメントしています。
「(公文書の)改ざんは二度とあってはならず、今後もしっかりと適正に対応していく」
これに対して、ネット上では、すぐさま
「誰のせいで、こんなことが起きたのか、まるで他人事のようなコメントだ」
との指摘が相次ぎました。
文春の記事を読んだ後で感じる「憤怒」の性質は、これまでとは違っているような気がしました。
さて、ツタヤ図書館とは、話がずいぶんそれてしまいましたが、
森友問題での財務省の公文書改ざんに象徴されるように、「結論ありき」でものごとが進んでいくと、
必ず、その辻褄を合わせるために、あとからおかしなことが次々起きてしまうのは、国政も地方自治もまったく同じだと思います。
私は、かねてより公言しているのですが、2013年に佐賀県武雄市で始まったツタヤ図書館の問題は、
すべてが特定事業者に便宜をはかった「結論ありき」で進められており、正規の手続きが省かれていたり、恣意的に巨額の税金の使途が決められていくことで
行政の信頼を根底から揺るがせたという点では、その後、国政で起きたモリカケなど、一連の事件を先取りしたものだと思っています。
公文書の改ざんこそ明確になっていないものの、情報非開示の問題から始まって、あからさまな官民癒着、プロジェクトの不透明さ、取り巻きたちの暗躍、事業者選定プロセスのおかしさ、強引な議会運営、不祥事隠し、ルールを逸脱した事業者優遇など、似たようなことが起きています。
国政でなにか新しい政治スキャンダルが判明するたびに、「これはあれと似ている」とすぐに思いつくほど酷似した構図がみてとれるのです。
「○○したい」という、トップの鶴の一声に呼応して、役人たちが行政の手続き次々と歪めていく構図は、「官民連携」のトップランナーともいえるツタヤ図書館誘致自治体でさんざん繰り広げられたお馴染みの光景ともいえるのです。
行政に対する信頼が音を立てて崩れていくときには、外見からは盤石にみえる政治基盤も、水面下では急速に衰えていくものです。
昨年11月に国会で桜をみる会の問題が、共産党の田村議員によって初めて追及されたときから、私の頭の中では、平家物語の冒頭部分がエンドレスにリフレインしています。
治世者としての栄誉をほしいままにした権力者といえども、その終焉は突如として訪れるものなのでしょうか。
しかしツタヤ誘致の自治体の不幸は、たとえ首長が突然失脚したとしても、その残滓である商業施設としての“図書館もどき”は、その後も長く残っていくことだと思うのですが。
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