2019年8月19日月曜日

『偽装請負』を読む(1)~違法まみれの“御手洗キヤノン”~

こんにちは、日向です。


本日も、偽装請負の続きです。

『偽装請負―格差社会の労働現場』では、キヤノンと松下電器産業という、日本の製造業を代表する二大超優良企業で起きた偽装請負の実態が克明に描かれています。先日につづいて、本日も、そのハイライトのひとつをご紹介しましょう。


偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43) 新書   2007/5/11 朝日新聞特別報道チーム (著)



1990年代後半から2000年代前半にかけて、グローバルな競争が日に日に激しくなる一方の製造業。景気動向に左右されやすい半導体製造装置の分野で、急激な需要に対応するため、キヤノンは、先端分野にも、“ハケン社員”を配置するようになっていました。


超細微な線幅で描かれた回路図をシリコンウェハに縮小して焼き付けるレンズは、「カメラのレンズに比べて数千倍の精度が要求される『人類史上最も精密な機械』』」と呼ばれる装置の心臓部分。

2006年10月18日、この先端業務に携わっていた、請負会社の社員である4人の若者たちが、加盟した労働組合の一員として、キヤノン本社(東京・大田区)表門前に立ちました。


労組幹部の挨拶に続いて、マイクを取ったのは、2000年に25歳のとき請負会社に入社して以来、キヤノン宇都宮光学機器事業所で働いていた大野秀之さん。



「自分たちは、ステッパー(半導体露光装置)という機械の核になっているレンズの研磨加工、測定をやっています。 

自分たちには、世界一の精度があるレンズをつくる喜び、誇りがあります。そのノウハウはすべて自分たち外部の社員のなかにあります。 

生産ラインに流して、期間内に仕上げて、納品するのは自分たちしかできません。 

もちろん、これからも世界一のレンズ をつくっていきたいのですが、派遣、請負、また派遣と勤務形態をころころ変えられては、仕事に集中できません。 

正社員になれるかなれないか分からない状態で働き続けています。 

ぜひ キヤノンは自分たちの気持ちを汲み取り、正社員にしてほしい。正社員にしてくれた暁には最高のものをつくっていきたいと思ってます」

ここに至るまでに、2006年7月31日から始まった朝日新聞の偽装請負追及キャンペーン報道によって、次々と明らかになっていったキヤノンの悪辣な不正行為。すでに一部事業所では、労働局によって偽装請負と認定されて是正指導も出されていたことも判明しました。

まだ製造業派遣が解禁される何年も前から、実質的に労働者の「ハケン」をフル活用。働いている誰もが「自分は派遣社員だ」と思いこんでいたのですが、労組の幹部が契約書を詳しくみてみたら、ほとんどの期間が、請負会社の社員として働かされていたことがわかったのです。

街宣活動後、4人は、正社員としての直接雇用を求める要求書を人事担当者に提出。前日、彼らは、栃木労働局に偽装請負の違法実態を申告しており、この内部告発によって、契約打ち切りの報復を受けるリスクも覚悟のうえでの行動でした。



会社からの回答は、3か月後の翌年1月7日に、4人が所属する労働組合事務所にファクスで届きました。内容は、完全なゼロ回答。


「貴組合は、貴組合員の正社員化を要求されておりますが、当社には貴組合員に対する直接雇用申込の義務はありませんので、要求にはお応えいたしかねます」 


「当社職場では請負業務が適正に遂行されており、当社は、貴組合が主張されるような偽装請負は行っておりません」


キヤノンは、別の文書でも、団体交渉の申し入れも拒否。

大野らの雇用主が請負会社であることを根拠に

「当社には労働組合法上の使用者性は認められず、貴組合との団体交渉の応諾義務はありません」と断ってきた。 この文面を読んで、大野は、自分たちの存在を全否定されたように感じた。

もちろん、この出来事は、彼らの長い闘いの始まりにすぎませんでした。




10月8日、キヤノンの御手洗富士夫会長は、朝日新聞の偽装請負追及キャンペーン報道に対して、こう不満をぶちまけました。


「法律を遵守するのは当然だが、これでは請負法制に無理があり過ぎる。これはぜひ見直してほしい」

「今の派遣法のように3年たったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは 硬直的になってしまう。それは空洞化に結びつく。

したがって、ここはもう少し市場に任せてほしいということと、派遣法を見直してもらいたいということ。この二つを申し上げたい」

労働者派遣法違反の当事者であるにもかかわらず、キヤノンの会長が本音丸出しで派遣法改定を主張。11月8日午後に開かれた日本経団連会長としての記者会見で、御手洗会長はさらに持論を展開しました。


「派遣会社とか請負会社を強化し、育成していく必要がある。ものづくりを日本に残し、雇用を増大させていくためには多様な労働形態があっていいと思う」

労働者派遣法で、製造派遣は最長3年に制限されている。それを超えて労働者を使用する場合、メーカーは労働者に直接雇用を申し込む義務があるのだが、御手洗はこの義務の撤廃を主張した。

「派遣期間なんかないほうがいい。労働市場は景気に左右されて、正社員だってリストラされるわけですから、自然な需要と供給に任せたほうがいい」

ちなみに、派遣法改正を求める発言の舞台となったのは、総理大臣官邸。奇しくも、第一次安倍政権の下で、経済財政諮問会議の新しいメンバーに選ばれた御手洗会長が出席した初会合の席でした。


『偽装請負』を読む(2)~国会での集中砲火~ へつづく



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