こんにちは、日向です。
岐阜県可児市に、11月23日オープンしました無印良品店内のカニミライブ図書館について、開館日に掲載されたBJ記事の説明をちゃんとしておりませんでしたので、本日は改めて、いくつか捕捉しておきます。
「無印良品」図書館、可児市の選定過程に不可解な点…ツタヤ図書館の二の舞か
この記事を書くにあたって、基礎資料としたのが可児市から二度目に開示された決定までのプロセスがわかる公文書です。そのうち、良品計画さんが市に提出した提案書24枚については、全面黒塗りの「のり弁」でしたので、これみてもなにもわからなかったのですが、一方で、市が作成した文書については、黒塗りの合間に白地の資料も結構ありましたので、そちらを詳しくみることからスタートしました。
真っ先に驚いたのが、出来レースなんて改めていうまでもなく、最初から「11月に無印良品店舗に図書館を開館する」という結論があって、その結論を、いかに、誰にも文句をいわざずに最短で進めるかという苦労の一端が、ここかしこに隠れていたことです。下をみてください。
可児市に良品計画から、突然、図書館設置に関する提案があったのは、今年1月6日のこと。可児市が、地域の社会課題解決のために、民間企業からの提案を受け付ける「公民連携」ワンストップ窓口」を設置したのが1月4日でしたので、それを待っていたかのようなジャストタイミングでの提案でした。
まあ、それは、ほんとにたまたまそうなったのかもしれませんけれど、この後、土日と祝日を挟んだだけの1月10日には、早くも、可児市の市長部局と良品計画の担当者の間で、初会合が開催されていることに至っては、到底、たまたまたとは思えません。
正月明けの6日に提案窓口(市のサイト?)に提案が投げ込まれたんだとしたら、その日のうちに、どちらかが連絡を取って、
じゃあ一度会って話しましょう
ということになったんだとしても、提案した6日は、もう金曜日です。土日を挟んで、9日月曜日は成人の日ですから、初会合となる翌営業日の10日に市長なのか担当職員なのかとアポイントが取れて、すぐに良品計画さんのスタッフが可児市を訪問するなんていう話は、普通の社会人には信じがたいことです。(市と良品計画とのメールでのやりとりも開示されていますが、そこには初会合の日程調整の件は一切出てこない)
もともと前年の暮れに、初会合の予定が決まっていて、それだと、さすがにマズイので、形式的に先に窓口に簡単な提案書が送られていたことにしたのでしょうか。
もっと言えば、可児市の冨田市長が無投票で4選が決まった前年11月くらい(おそらくこの時期にヨシヅヤ出店が決まったのでしょう)には、水面下で折衝が行われ、トップ同士ではほぼ合意に達していたと考えるのが自然です。企業としたら、ワンマン市長さえ取り込めれば、それでもうすべてが決まったようなものと思うはず。行政の手続がいかに大切かなんてことは露ほども考えないでしょう。もしそうだとすれば、まさに、ワンマン市長とワンマン社長とのコラボです。
その後、市長部局が良品計画と設置する分館の詳細について協議して、事務レベルで同社の提案に同意したのが、ゴールデンウィーク中の5月3日です。
もちろん祝日ですよ。役所の職員が、祝日に民間企業と会議するなんていうのは、なかなかないと思います。
記事にも書きました通り、可児市のヨシヅヤ一階に無印良品の店舗が11月にオープンに合わせて開館するというお尻が決まってましたから、なにがなんでも6月議会で承認を得ておかないと開館できない、そのためには連休明けに庁内で意思決定は最低条件だったのでしょう。
あとからわかったことですが、無印図書館を開館するミッションを背負った館長と市長部局の実務スタッフは、この4月に新たに配置されたばかり。市長部局のスタッフの方は、3月までも、同姓の人がいらしたので、同じ人かと思ってましたが、4月からは別の人だったことが最近わかって、吃驚仰天しました。お話を聞く限りにおいては、館長さんも市長部局の方も、畑違いの部署からこれらていて、図書館についてはズブの素人のようでした。
カウンターパートとなる良品計画さんも、もちろん会社そのものが図書館運営経験ゼロですので、これまたズブの素人かも(転職組なら、もしかして経験者かもしれませんが)。そのズブの素人たちが、半年余りで、国内初の無印店舗内の公共図書館をつくろうというんですから、それはさぞタイヘンだったのではと、察します。
頼みの綱といえば、外部のキュレーターとして紹介されている元蔦屋の三条さんだけ。三条さんも、代官山、六本木で本のディスプレイを担当したとインタビュ―記事のプロフィルで紹介されてはいるものの、武雄市や海老名市での勤務経験は書かれていないところをみると、これまた図書館についてはズブの素人かも。唯一、大阪市「こども本の森 中之島」の実績がおありだとのこと(可児市の関係者の話)ですが、この施設は、本の貸出はしない図書館もどき(入場制)ですから、図書館のプロとは言い難いですね。むしろ、素人だからこそ、図書館の既成概念を打ち破ことができるとかなんとか言うんでしょうけれど、基本を知らない人たちが勝手に宣言する常識打破って、要するにツタヤ図書館そのものというか、見世物図書館っていうことですよね。だから、図書館本来の機能のことはほとんどアピールせずに、開館時間が長いとか、便利な場所にあるとか、内装がオシャレとか、他と比較できない独自分類とか、イベントをやたらと開催するとか、周辺のことばかりをアピールするんです。
6月議会では、記事中に書きました関係者のコメントを読んでいただければわかるように、みんなが諸手をあげて賛成したわけではありませんでした。図書館スペースをビルオーナーではなく、なぜか良品計画さんが又貸しする形で、15年契約というのもかなり異論は出てきますし、本館をどうするかというグランドデザインが必要という意見もあったみたいですから、議会の人たちはわりとまともで、市長と事業者が拙速主義で暴走したのかってところが読み取れます。
そんなわけで、5/10に開催された審査会で、良品計画の提案を受け入れて実施することが決定します(正式決定は5/15の庁議)。審査委員は、もちろん全員が市の幹部職員。市民代表はもちろん、外部の有識者はひとりももいません。
唯一、市民の意見を聞いたことにしているのが、審査会の前日に開催された図書館協議会でした。これも記事にも書いたように、会議の時間は、たったの30分。図書館の専門家は、学校司書代表だけで、公共図書館部門からはゼロ。ここでこそ、図書館の専門的な内容について、侃々諤々で話し合われないといけないはずなのに、それも一切なし。「とってつけたように」というのは、まさに、こういうときに使う言葉なんだと思いましたね。
さて、今回の記事のハイライトは、やはり“偽装委託”です。無印店舗内のカニミライブ図書館の運営は、当然、良品計画が雇用したスタッフが担当するのかと思ったら、そうではなくて、本館と同じく、市が雇用したスタッフ(会計年度任用と派遣スタッフ)ということで直営を維持することになりました。
しかし、店舗内の図書館を開館できるまで、内装工事から配架、デザインまでを、すべてひっくるめて行うのは、市から委託された良品計画さんなんです。とするとその業務の部分は、当然、法的には「委託契約」ということになりますよね。
ところが、これ「委託」ではなく、あくまでも「整備負担金」という名目で、市から良品計画に1億7600万円を支払うようになっているんです。そうしますと、形式上は、委託ではなくるので、これらの支出だけ盛り込んだ補正予算のみ議会の承認さえ得られれば、新図書館の設置については、教育委員会はもちろん、議会の承認も必要なくなるわけです。
でも、この見積書をみますと、内装工事からはじまって、無印仕様の専用什器や家具の設置、選書や企画までもが整備に含まれていて、開館準備業務をまるごと良品計画さんに、可児市は委託しているようにしかおもえません。
もし、まともにこれを委託にしていたら、委託契約の内容についても議会承認が必要となるため、とても6月議会では間に合わなくなります。なので間にあわすためのウルトラCとして、こういう「委託ではない」脱法的な手法を編み出したんだろうと思いますね。そうした手法をアドバイスしたコンサルタントがいるのかもしれません。
さて、私がいちばん心配しているのは、可児市は、図書館のど素人に、とんでもない実績を与えてしまったということです。
下をみてください。総額1億7600万円の新図書館の整備事業を、可児市は、複数の事業者に価格や提案内容を競わせる競争入札を行うことなく、一社のみの提案をただ丸飲みした随意契約によって、進めてしまいました。これは、通常ならアウトの行為です。
あなたの住んでいる街で、これだけの巨額の事業が市長の一存で決められるでしょうか? そんなことは法的にはできません。もししていたらタイヘンです。
可児市は、幹部職員だけが採点する審査会によって、公平公正な審査のもとに、良品計画が選定されたという茶番劇を演じてますが、その評価対象は一者だけでした。競合はいないんですから、提案内容も独自ノウハウも、比較のしようありません。市長がいいと言っているんなら仕方ないとされただけです。
無印良品を展開する良品計画が、新図書館の整備について、他社にはマネのできない特別なノウハウを持っていたのなら話は別ですが、少なくとも、内覧会のニュースや事業計画をみる限りにおいては、店舗内にちょっと変わった風の書架をおいているだけの図書館であり、セルフ貸出機にしても、AI技術ででラベルを読み取るとされていますが、そんなことしなくても、バーコードを読み取ることで、特別なシステムを必要せずに可能になるはずの程度のものでした。
この程度の図書館機能であれば、ひとりの有能な図書館の専門家をトップに据えることで、あとの設置ノウハウについては、各事業者を競わせることで、かかる費用は、もしかしたら現行の半額以下になったかもしれません。ショッピングセンター内に分館を設置するのであれば、もっとほかにも候補地はあったはずで、15年契約などという非常識な条件を飲まなくても、もっと賃料が安く、市民にとっても利便性の高いテナントもあったかもしません。なのに、今回なにゆえ、ヨシヅヤの無印良品店舗に決め打ちしなければならなかったのか不思議でなりません。
競争のない随意契約といえば、11年前に発表された、佐賀県武雄市がツタヤ図書館第1号の発表がその典型例です。それまでまったく図書館運営経験のなかったカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が選定されてオシャレな内装の図書館ができたと旅行者やメディアが大絶賛したことで、CCCには図書館運営の特別なノウハウがあるという誤った印象を世間に流布することに成功。それをみた他の自治体が次々と、うちにも来てほしいとCCCに誘致合戦を繰り広げたほどです。
ところが、CCCは、そもそも図書館運営の経験も実績もゼロ。まったくのド素人だったため、2年後に、郷土資料が大量に廃棄されていたり、大量の古本を選書していたことや、神奈川県海老名市では、独自分類がとんでもなく使いにくいことなどが発覚。それをきっかけに「ど素人のCCCに図書館を任せていいのか!」と、進出が内定していた愛知県小牧市、宮城県多賀城市、岡山県高梁市、山口県周南市などで、市民の反対運動が勃発しました。
良品計画による無印図書館も、基本的な構造は、それとまったく同じです。可児市のケースを、もし黙って見過ごしていたら、人が来て賑わえばそれでよいのか、公共図書館の使命など一切考えない世間は、こう思うことでしょう。
無印図書館は大成功だったね
あきらかに事実ではない印象を世間にバラまくことで、ツタヤ図書館と同じく、良品計画の図書館づくりの実績として、可児市のカニミライブ図書館は印象づけられて、空きテナントに苦しむ全国の商業施設(特に赤字を抱えている第三セクターが飛びつきそう)が次々と、うちにも無印図書館をつくってほしいと依頼がきかねません。
かくして、図書館のど素人だった良品計画が、可児市での実績をひっさげて全国の自治体にセールスに回ることに。そして、可児市と同じような図書館分館を設置する自治体が次々と登場したら、どうするのでしょうか。
ツタヤ図書館誘致の自治体がその後にたどったのと同じく、図書館機能は劣化するわ、特定企業への利益供与は酷くなる一方で、街はますます廃れてシャッター通りに拍車がかかるという事態が待ち受けているのです。いまだにツタヤ図書館は大成功だったと言っている、過去の事例に学ばない人たちは、「歴史修正主義者」とのそしりを免れないでしょう。
ちにみに、ツタヤ図書館1号となった佐賀県武雄市では、こんな出来事がありました。
昨年11月、「議会の承認を得ずに、市内1万5000戸に防災情報システムを導入したのは違法だ」とした市民の訴えを認めた佐賀地裁は、武雄市の現市長に4億円を請求するよう命じました。
その議会無視の前例となったのが、前市長がツタヤ図書館を誘致するにあたって、議会承認の前にTSUTAYAの運営会社CCCと指定管理契約を締結したことだったと報じられました。
今年8月の高裁判決では、問題になったあとから議会が追認したことから、市長への4億円請求は棄却されましたが、あやういところで、議会軽視が市長の政治生命を絶ちかねないところまでいっていたのです。
無印図書館の可児市も、そんなに危うい橋をわたってまで、超特急で図書館の分館を整備する必要は、いったいどこにあったのか。もしかして、市長と事業者の間で、なにか密約があったのではないか。市長と良品計画は、癒着しているのではないのか。それとも、空きテナントに苦しんでいたヨシヅヤさんが、市長に泣きついたのか。
そんな疑問は誰しもが抱くでしょう。
企業サイドから、政治家に対して、事前なのか事後なのかはわかりませんが、なにかお世話になった御礼はされていないのかって視点が重要です。記事の最後にも書きましたように、ツタヤ図書館第一号の武雄市では、樋渡市長が退任後にCCCの関連子会社に天下りされたことあとで判明して、一大スキャンダルになりました。良品計画さんも、当然、御礼くらいはちゃんとするでしょうから、それがどんな形で冨田市長にされたのかってことを掘っていきたいところですね。
よろしくお願いいたします。
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