2025年10月17日金曜日

坂出市教委の弁明書にも反論しました

 

こんにちは、日向です。


昨日アップしました坂出市の弁明書への反論(坂出市の弁明書に反論しました)につづいて、本日は、坂出市教委の弁明書に対する反論書を公開したいと思います。


ちょっとややこしいんですが、情報開示請求というのは、その権限を持つ部局に対して行うしくみになっていて、今回、坂出市駅前に図書館も入る複合施設の建設プロジェクト全般については、管轄が市長部局ですから市長宛てに行います。

またそれとは別に、図書館という教育文化施設の運営に関しては、教育委員会が権限を持っていますから、教育長宛てに行うというわけです。


ただし、例外的に教育文化施設の権限を市長部局へ移管した自治体の場合、図書館に関することも市長宛てだけでいいということになっています。とりあえず、坂出市は、図書館の権限を市長部局に移管しておりませんので、同じ内容の情報開示請求を、市長宛てと教育長宛てに行い、それぞれの部局が保管している情報を別々に開示してくるというしくみになっています。


本日は、その教育委員会バージョンをご紹介するわけですが、最初の開示請求の内容がほぼ同じですから、どちらの部局の弁明書の内容もほぼ同じです。よって、私の反論もほぼ同じです。市教委バージョンで、若干、市長部局にはなかった部分がつけ加えられているのは、私の審査請求に「不存在決定を出してほしい」という内容が加えられているからです。


情報の開示を求めておきながら、「不存在を出せ」というのは、市教委の弁明にもある通り、論理的に矛盾するように思えますが、今回の坂出市の事業が既存の中央図書館(市立大橋記念図書館)を廃止して、駅前に移転するという図書館の存立にかかわる重要事項ですから、それについての議題を教育委員会に上程して、教育委員会として正式に廃止・移転を決定した文書がなければなりません。なので、それについての情報の開示を1アイテムとして求めていたにもかかららず、議決・決裁どころか、そのことを教育委員会内部で話し合った記録さえ開示されておりませんでしたので、そのことを明確にすめためには「図書館の廃止・移転に関する文書は不存在」という決定を出してもらわねばなりません。


教育委員会には一切はからずに、有福市長の鶴の一声で図書館の廃止・移転を決めたということであれば、今回の駅前移転プロジェクトはあきらかに手続きに瑕疵があったということになってしまいますので、「そこは頬被りしたい」というのが坂出市の事務方サイドの思惑だろうと思いますので、果たして、そんな都合のいいことが許されるのがどうかを、審査会の委員の先生方に詳しくご審議いただきたいというのが私の要望です。


というわけで、以下に市教委弁明書への反論をどうぞ

(市長宛てのご反論をすでにお読みになった方は、市長部局バージョンにはなかった市教委バージョンのテキストの色を赤にしていますので、そちらのみお読みいただければと思います)




反論

2025年10月10

  

                                     

   坂出市教育長殿

審査請求人 

      日向咲嗣    



               (連絡先 hina39@gmail.com





令和7813日付の弁明書に対して、次のとおり反論します。


(市教委弁明)






 処分庁が今回開示した文書は、各所に黒塗りがあるため、上記の「個人情報」が具体的にどの部分を指し示しているのか判然としないが、公文書に、ただ個人の氏名が記載されているというだけでは、そのすべてが当該条例における「個人情報」として「非公開情報」にあたるわけではない。

 審査請求人は「ボランティア意見交換会」参加者氏名の開示など求めていないが、当該事業にかかわる行政サイドの人物の肩書・氏名は当然開示されるべき(公務員等の職及び職務の遂行に関する情報は不開示情報から除外されている)で「非開示情報」にはあたらないのは、自治体の情報公開に関係している者にとっては、「イロハのイ」である。また、当該事業の公募に参加した民間企業サイドに関しても、提案書等に記載されている業務を統括する(予定)の責任者については、秘匿されるべき「個人情報」にはあたらないのも、これまでの判例であきらかになっている。ゆえに、それらは、黒塗りせずに開示されるべきである。


(市教委弁明)




 処分庁は、開示した公文書のなかから、いわゆる「企業秘密」にあたる部分を抜き出して「非開示情報」としたと解されるが、具体的にどの部分が、どのような理由で「企業秘密にあたる」かは、一言も説明しておらず、理由は依然として不明なままである。

 改めていうまでもないことだが、単に、法人の事業に関する情報が記載されているだけでは、それが無条件に「企業秘密にあたる」わけではない。判例では、「ただ漠然と競走上の利益が損なわれる恐れがある」というだけでは非開示対象になる「企業秘密」とはいえず、個別の記載事項について、詳細に検討した結果、その情報を公開することによって、あきらかに当該企業の利益が損なわれると判定される箇所のみ「非開示情報」と認められている。


 長年、総務省で公共経営にかかわった後、東京都中野区や神奈川県平塚市等で情報公開審査会の委員(平塚市では会長)を務めている神奈川大学法学部の幸田雅治教授は、「企業秘密」について以下のような見解を示している

「競争上の利益というのは、本来、その企業が持つ独自のノウハウであり、ほかの企業にはマネのできない特殊なもののはず。それと認められる部分は、もちろん黒塗りするのはやむをえない。しかし、多くの場合、そういう独自の技術・ノウハウとはいえないものを、ただ漠然と『競争上の地位に影響がある』としていたりしますで、私が出ている審査会では、本当に企業秘密と言えるものなのかどうかをひとつひとつよく検討したうえで、そうでない場合は、全面開示すべきとの答申を出すことになります」 (日向咲嗣著『黒塗り公文書の闇を暴く』朝日新聞出版93ページ)


 坂出市情報公開審査会には、坂出市の公民連携課が非開示とした部分の法人情報について「企業秘密にあたる」とした理由を聴取し、場合によっては、その情報の当事者である企業にも聴取したうえで、どれが「法人の事業活動の自由や競争上の地位の保護を目的として、ノウハウに関する 情報や法人の事業活動が損なわれると認められる情報」にあたるかを精査していただきたい。


(市教委弁明)



 上記で指摘されている、いわゆる「審議、検討等情報」が非公開となるかどうかは、以下の要素を考慮して個別具体的に判断されるものである。

(1)単に自由な意見交換が損なわれる可能性があるだけでなく、それが公共の利益と比較して看過できないほど不当であるかどうか


(2)単なる客観的な調査データなどは非開示に該当しない


(3)時間が経過して最終的な意思決定がなされた後については、「自由かつ率直な意見交換を確保するために必要」とは認められない


 坂出駅前に新しい図書館を建設する当該事業の計画はすでに決定されており、いまさら担当事業者の選定プロセスの情報が公開されたからといって、自由かつ率直な意見交換を確保しにくくなることは考えにくい。逆に、プロセス情報を秘匿することで、市民にいらぬ誤解を与えかねない。


(市教委弁明)




 「他市が行なう事務または事業に関する情報」「使用料などの契約内容」がなにゆえ「事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」というのも、意味不明である。

 坂出市の実務者たちがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)等、民間企業運営の公共施設を視察した際に説明された指定管理料等の運営費に関する情報は、メディアでも報道されているのはもちろん、各地の視察団が作成した復命書等においてCCCから説明された内容として、多数ネット上に公開されている(私的な慰安旅行ではなく、貴重な税金を費やして得た調査結果は市民に開示されるのは当然)

 それらの情報はすでに「公開情報」として扱われるべきものであり、条例に定められた例外的な非開示情報にはあたらないのは、改めて指摘するまでもないことである。

 そもそも運営費の金額やスタッフの人数等については、これから新しい図書館を整備するにあたって貴重な参考情報であることから、このような基本的な情報を非開示にしていたのでは、なんのために職員が多額の公費を使って各地を視察したのかと市民は怒りを覚えるだろう。

 それでもなお、非開示にすべきと市教委サイドが主張されるのならば、審査会は、企業秘密同様に、上記に、該当する情報が開示されることで具体的にどのような支障が生じる可能性があるのかを関係者に聴取したうえで、ご審査いただきたい。



(市教委弁明)





 企業が自治体に提出した文書は、本来、すべて開示されるべきものである。「公にしないとの条件で任意に提出された」とは、当該企業と坂出市教委の間で、事前にどのような協議・約束がなされたのだろうか。

 通常の公募型プロポーザル等のコンペにおいて「公にしない」という約束を自治体が当該企業と交わすことは、はなはだ不適切である。公務委託業者の募集要項には「応募にあたって、市に提出された文書はすべて公開する」旨が記載されていて、そのことを承知のうえで事業者は応募してくるのが一般的である。

 坂出市においては、なにゆえ、市教委がその原則を捨てているのだろうか。本当に、当該企業と坂出市教委はそのような密約をしたのか。もししたであれば、不都合な情報はなんでもかんでも「公にしないとの条件で任意に提出された」ものとして非開示にできてしまう。結果、例外規定の抜け穴を飛躍的に広げることととなり、「公にしない」との約束そのものが情報公開条例の精神を踏みにじるものになってしまうと言わざるをえない。

 よって、坂出市教委が当該企業とそのような約束をしたのかどうかを審査会は詳しく調査すべきであり、もし、そのような約束を市教委が勝手にしたのならば、その情報を公にすることによって、具体的にどのような不利益を当該企業が被る可能性があるのかを情報公開条例の趣旨にのっとって、詳細に検討していただきたい。

 なお、前出の神奈川大学法学部の幸田雅治教授は、この点について以下のような見解を示している。


「あらかじめ公開しないことを前提に任意で提出された文書なので、開示できないというケースもよくありますが、そういう論理が通用するのは、航空機や列車の事故で編成される調査委員会だけです。関係者個人の刑事責任を追及すると事故原因がわからなくなるため、原因調査を目的としておおやけにしないという前提で調査が行われます。しかし、一般的な公文書においては、そういう約束そのものが不適切であり、そのような約束をしていたとしても、開示すべきものは開示しなければなりません」 (日向咲嗣著『黒塗り公文書の闇を暴く』朝日新聞出版102ページ))


(市教委弁明)





 これまで述べてきた通り、坂出市教委は、情報公開の例外規定を拡大解釈して、むやみに公文書を黒塗りしている。「非公開情報の妥当性」は、どこにもみあたらない。



(市教委弁明)





 公募型プロポーザルの選定の概要は、確かに、坂出市のサイトに掲載されているようだが、それは、あくまでも市長部局による開示である。

 図書館という教育委員会が管掌する教育文化施設については、教育委員会独自の検討プロセスがなければならず、坂出市が図書館の管轄を市長部局に移管していない以上、教育委員会独自に、駅前への図書館移転についての是非や、移転するのであればどのような図書館にすべきか等を、市民や教育委員会傘下の図書館審議会での有識者の意見を詳細に聞いたうえで検討し、具体的な内容を決定していなければならない。

 審査請求人は、そのような情報があるはずと教育委員会に情報開示請求をしたのである。にもかかわらず、事業者の選定についての情報を市のホームページで公表していることで、審査請求人の要求に充分に答えているとする市教委のこの回答は、はなはだ不誠実だと言わざるを得ない。


(市教委弁明)





 しつこいようだが、審査請求人は、坂出市教委に求めているのは、新図書館について、教育委員会独自の検討プロセスがわかる書面である。

 坂出市が図書館の管轄を市長部局に移管していない以上、図書館という教育委員会が管掌する教育文化施設については、教育委員会独自の検討プロセスがなければならず、教育委員会が市長部局から独立して、駅前への図書館移転についての是非や、移転するのであればどのような図書館にすべきかを、市民や教育委員会傘下の図書館審議会での有識者の意見を詳細に聞いたうえで検討し、具体的な計画を決定していなければならない。

 しかるに、坂出市教委は、各自治体への視察に関する記録のほか、図書館協議会等、教育委員会内でふだん行なわれている定例会等の文書のみを開示しただけで、新図書館移転に関して内部で議論したことがわかる書面は一枚もみあたらない。

 その決定プロセスが何もないのに、突然決定した、駅前移転する新図書館に関するパンフレットのような書面が添付されているのみである。



 審査請求人は、市教委委がどのような文書を作成保管しているのかわからないため、決定プロセスに関して、他市への視察記録等、いくつか例示するなど、とりあえず保管しているものをすべて出してほしいとお願いしたものである。

 それによって開示された文書の中には、審査請求人が求めている市教委独自に検討・決定したことがわかる文書を仮に「A」とするならば、市教委の開示は「BC」「A」「D」といったふうに、当然「A」が含まれているものと期待していた。

 しかるに、市教委が今回開示した文書は、「BCD」と、最も核心部分にあたる「A」がひとつも含まれていなかった。

 「A」を出してくださいとお願いしているのに、「BCD」を出してきて「適法かつ適正である」と開き直られては、返す言葉がない。

 「A」については作成保管していないのならば、その点を明確にすべきである。審査請求人が求めている「市教委が、新図書館移転を決裁した文書は不存在」と明確に回答すべきである。雑多な関連情報のみ開示して、目くらましをするような行為は、市長から独立して教育行政をつかさどるという教育委員会に課せられた責任と役割を意図的に放棄しているに等しい。

 

 何度も繰り返すが、坂出市が図書館の管轄を市長部局に移管していない以上、図書館という教育委員会が所管する教育文化施設については、教育委員会独自の検討プロセスがなければならず、教育委員会が市長部局から独立して、駅前への図書館移転についての是非や、移転するのであればどのような図書館にすべきかを、市民や教育委員会傘下の図書館審議会での有識者の意見を詳細に聞いたうえで検討し、具体的な計画を決定していなければならない。

 教育委員会決裁のプロセスを経ていないということならば、坂出市の新図書館建設は、適正な手続きを経ていない行為といわざるをえず、もし今後、それに関して住民訴訟が提起された場合には、最悪、新図書館建設は違法との判決を下される可能性すらある。

 それほど重要なことだけに、審査会の先生方には、市教委の情報公開について、審査請求人が求めている情報を開示していないことを正しく認定していただきたい。

 このようなめくらまし行為が許されるのであれば、市民の情報公開制度に対する信頼は地に落ちるといわざるをえない。



 なお、CCCを公共施設の運営者に選定した自治体においては、本件と同様の行政が出した黒塗り公文書について審査請求人をはじめとした市民から度重なる審査請求が行なわれており、それらの自治体においては、情報公開審査会が詳細に検討した結果「開示すべき」との答申が出されていることも付記しておく。

 たとえば、審査請求人が20216月に熊本県宇城市に行なった審査請求では、審査請求の手続きを行なったとたん実施機関は、審査会の答申を待たずして、CCCと競合した企業名の黒塗りを一部外した文書を開示し、また審査会の答申後には、黒塗りされていた選定委員に関する情報の大半が開示された。

 2017年にCCCを図書館の指定管理者に選定した和歌山市では、地元市民が翌年3月、黒塗りだらけの開示に対して審査請求を行ない、それまでほぼ全面黒塗り状態で開示されたCCC及び同社と競合したTRC図書館流通センターによる提案書について、その約8割の黒塗りがはずされた文書が開示されている。

 さらには、坂出市のお隣りにある丸亀市でも、20228月、CCCが運営するマルタスの運営費の内訳が「企業の競争上の利益を損なう」ことを理由にすべて黒塗りだったのが、情報公開審査会で審議された結果「すべて開示すべき」との答申が出され、運営費の詳細な内訳が市民に対して開示されることとなった。

 坂出市でも、情報公開審査会の委員の先生方には、必ずや、公正公平で賢明なご審議をしていただけるものと期待しております。









2025年10月16日木曜日

坂出市の弁明書に反論しました

 

こんにちは、日向です。


本日は、坂出市の情報開示請求についての続報です。


JR坂出駅前にツタヤ図書館を核とした複合施設を建設する件で1月に開示された情報に、一部不開示となっている部分についてもすべて開示してほしいという主旨で、不服を申し立てる審査請求を6月に行いました。


 
 それについて、担当課から「弁明書」というのが7月に送られてきておりまして、この内容に反論があるのなら、9月末日までに「反論書」を提出せよということでしたので、なんとか反論書を期日までに作成して総務部の情報公開担当課に送りました。

 本日は、その反論書を公開しておきたいと思います。

 詳しくは、この文末をお読みいただくとして、簡単に坂出市の弁明書についての感想を述べておきたいと思います。


 坂出市の市長部局が「非開示」とした理由としては、

・個人情報
・企業秘密
・「審議、検討等情報

―――の三点が主なもので、黒塗り公文書を出してくるときの定番理由といってもいいものばかりでした。
 
 個人情報だから出せない、企業秘密にあたるから出せない、率直な意見交換をしにくくなるから出せない――は、毎度毎度、その理由をコピベするだけで「不開示理由」にもなるし、審査請求された際の「弁明」にもなるというわけです。

 こう言ったら失礼かもしれませんが、この手の書面作成には、エーアイは必要ありません。この三つの文面をコピペするだけで必要事項がかけてしまう、誰でもできるお仕事です。

 開示決定に書かれた「不開示理由」には、具体的にどの部分がどの理由にあたるかの説明すらありませんでした。

 なので、反論するほうも、個別箇所を指定せず、弁明書にざっくりと反論できますので、わりとラクです。

 あとは、ざっとみていただければわかるように、そもそも担当課には、市民に新しい図書館を建設する事業を決めたプロセスを詳しく説明して、自分たちが決めた計画に対して理解を求めるつもりなど、微塵もないようです。

 なにを聞いても、ただ「今後も適切に進めて参ります」を延々と繰り返す、壊れたロボットを相手にしているような、いつものツタヤ自治体の“ディスコミュニケーション”を味わわせてくれます。

 では、反論文をどうぞ。




反論

2025930

  

                                     

   坂出市長殿

審査請求人 

      日向咲嗣    



               (連絡先 hina39@gmail.com





令和7813日付の弁明書に対して、次のとおり反論します。









 処分庁が今回開示した文書は、全面黒塗ページが多数あるため、上記の「個人情報」がどの部分を指し示しているのか判然としないが、公文書に、ただ個人の氏名が記載されているというだけでは、そのすべてが当該条例における「個人情報」として「非公開情報」にあたるわけではない。

 審査請求人は「市が開催したワークショップ等の参加者名」の開示など求めていないが、当該事業にかかわる行政サイドの人物の肩書・氏名は当然開示されるべき(公務員等の職及び職務の遂行に関する情報は不開示情報から除外されている)で「非開示情報」にはあたらないのは、自治体の情報公開に関係している者にとっては、「イロハのイ」である。また、当該事業の公募に参加した民間企業サイドに関しても、提案書等に記載されている業務を統括する(予定)の責任者については、秘匿されるべき「個人情報」にはあたらないのも、これまでの判例であきらかになっている。ゆえに、それらは、黒塗りせずに開示されるべきである。






 処分庁は、開示した公文書のなかから、いわゆる「企業秘密」にあたる部分を抜き出して「非開示情報」としたと解されるが、具体的にどの部分が、どのような理由で「企業秘密にあたる」かは、一言も説明しておらず、理由は依然として不明なままである。

 改めていうまでもないことだが、単に、法人の事業に関する情報が記載されているだけでは、それが無条件に「企業秘密にあたる」わけではない。判例では、「ただ漠然と競走上の利益が損なわれる恐れがある」というだけでは「企業秘密」とはいえず、個別の記載事項について、詳細に検討した結果、その情報を公開することによって、あきらかに当該企業の利益が損なわれると判定される箇所のみ「非開示情報」と認められている。


 長年、総務省で公共経営にかかわった後、東京都中野区や神奈川県平塚市等で情報公開審査会の委員を務めている神奈川大学法学部の幸田雅治教授は、「企業秘密」について以下のような見解を示している。



「競争上の利益というのは、本来、その企業が持つ独自のノウハウであり、ほかの企業にはマネのできない特殊なもののはず。それと認められる部分は、もちろん黒塗りするのはやむをえない。しかし、多くの場合、そういう独自の技術・ノウハウとはいえないものを、ただ漠然と『競争上の地位に影響がある』としていたりしますで、私が出ている審査会では、本当に企業秘密と言えるものなのかどうかをひとつひとつよく検討したうえで、そうでない場合は、全面開示すべきとの答申を出すことになります」 (日向咲嗣著『黒塗り公文書の闇を暴く』朝日新聞出版93ページ)


 坂出市情報公開審査会には、坂出市の公民連携課が非開示とした部分の法人情報について「企業秘密にあたる」とした理由を聴取し、場合によっては、その情報の当事者である企業にも聴取したうえで、どれが「法人の事業活動の自由や競争上の地位の保護を目的として、ノウハウに関する 情報や法人の事業活動が損なわれると認められる情報」にあたるかを精査していただきたい。

 法人の担当者の氏名については前述した通りである。




 上記で指摘されている、いわゆる「審議、検討等情報」が非公開となるかどうかは、以下の要素を考慮して個別具体的に判断されるものである。

(1)単に自由な意見交換が損なわれる可能性があるだけでなく、それが公共の利益と比較して看過できないほど不当であるかどうか


(2)単なる客観的な調査データなどは非開示に該当しない


(3)時間が経過して最終的な意思決定がなされた後については、「自由かつ率直な意見交換を確保するために必要」とは認められない


 坂出駅前に新しい図書館を建設する当該事業の計画はすでに決定されており、いまさら担当事業者の選定プロセスの情報が公開されたからといって、自由かつ率直な意見交換を確保しにくくなることは考えにくい。逆に、プロセス情報を秘匿することで、市民にいらぬ誤解を与えかねない。





 「加点の内訳や計算方法」が、何を意味するものか、いまひとつ判然としないが、もしこれらが当該事業者の選定にかかわる評価だとしたら、その採点方法についての情報がなにゆえ「非開示情報」にあたるのかが不明である。むしろ公正な審査が行なわれたことを示すためには、その採点方針に関する情報こそ包み隠さず開示されるべきである。

 また「他の地方公共団体の費用に関する情報が(非開示情報に?)該当し」というのも、意味不明である。

 坂出市の実務者たちがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)運営の公共施設を視察した際に説明された指定管理料等の運営費に関する情報は、メディアでも報道されているのはもちろん、各地の視察団が作成した復命書等においてCCCから説明された内容として、多数ネット上に公開されている。

 それらの情報はすでに「公開情報」として扱われるべきものであり、条例に定められた例外的な非開示情報にはあたらないのは、改めて指摘するまでもないことである。







 各応募者に対する評価や企画提案概要が市のホームページで公開されているのだとしたら、「こちらを参照されたし」として、そのページのリンクを示すか、または、そのコピーを開示文書にも含めるべき(開示しているとしたら、開示文書名とページ番号を記載するべき)と思うが、なにゆえ、そうされないで、ここに「申し添える」とされているのか理解に苦しむ。坂出市の公民連係課は、市民に行政の施策に対する理解を求めようとする意識が極めて希薄か、その努力を著しく怠っているのではないのかと思わざるをえない。


 また、落選した各事業者名が開示されていないことことも、審査請求人にとっては、大きな不満である。もし、落選したことが世間に知られることでその企業が不利益を被る可能性があるという理由(これも企業の競走上の利益を損なうから?)によって非開示にされたのであれば、それも間違いである。前出の幸田教授は、以下のように述べている。


「不採用になったことが知られると、否定的な評価があったと噂されてデメリット生じるという理由で、落選企業の提案書が非開示になることが多いですが、ちゃんと検討すれば、ほとんどの場合、そういう論理は成り立ちません。なぜかというと、応募があった複数の事業者をどのように比較して選んだかを判断するためには、選定された事業者の提案だけでなく、落選した事業者の提案も公開しなければ判断できないというのがまずひとつ。もうひとつは、落選したという事実が公表されたからといって、そのことが具体的な損害に結び付くという証明は、そう簡単にはできないからです。

 具体的にどのような不利益が生じるのかということが示されないといけないのですが、ほとんどのケースではそれは証明できないのです。審査会まで行けば、こんな理由は成り立たない。少なくとも、私が手がけた自治体の審査会では、そのような非開示理由を認めたことはありません」(日向咲嗣著『黒塗り公文書の闇を暴く』朝日新聞出版9293ページ)








 当該事業は、「図書館建設に限定したものではない」とはいえ、地元メディアで「レンタル大手「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する図書館を核とする」(202496日付 朝日新聞デジタル) と派手に報じられことからもわかるように、ツタヤ図書館がコアになっている事業である。

 そして、CCCによる図書館建物の設計や運営についての提案が評価された以上(選定されたコンソーシアムのなかで図書館の実績があるのはCCCのみ)、そのことについて同社がこれまで各地で起こした不祥事等の悪評をまったくなかったこととして、坂出市の選定委員会が評価したことは、2013年の武雄市以来これまでの経緯を知るものにとっては、強い違和感を覚えるのは当然のことである。

 そのような審査請求人の疑念を公民連係課の職員が「妥当性を欠いている」ととらえているとしたら、それはおそらくCCCが自ら発信している広告宣伝要素の強い一方的な情報のみに偏った情報受信をしているためと思われる。そこで、2021年に熊本県宇城市に提出した審査請求書中のCCC運営に関する記載を本文末尾に追記しておく。


 なお、CCCを公共施設の運営者に選定した自治体においては、本件と同様の行政が出した黒塗り公文書について審査請求人をはじめとした市民から度重なる審査請求が行なわれており、それらの自治体においては、情報公開審査会が詳細に検討した結果「開示すべき」との答申が出されていることも付記しておく。

 たとえば、審査請求人が20216月に熊本県宇城市に行なった審査請求では、審査請求の手続きを行なったとたん実施機関は、審査会の答申を待たずして、CCCと競合した企業名の黒塗りを一部外した文書を開示し、また審査会の答申後には、黒塗りされていた選定委員に関する情報の大半が開示された。

 2017年にCCCを図書館の指定管理者に選定した和歌山市では、地元市民が翌年3月、黒塗りだらけの開示に対して審査請求を行ない、それまでほぼ全面黒塗り状態で開示されたCCC及び同社と競合したTRC図書館流通センターによる提案書について、その約8割の黒塗りがはずされた文書が開示されている。

 さらには、坂出市のお隣りにある丸亀市でも、20228月、CCCが運営するマルタスの運営費の内訳が「企業の競争上の利益を損なう」ことを理由にすべて黒塗りだったのが、情報公開審査会で審議された結果「すべて開示すべき」との答申が出され、運営費の詳細な内訳が市民に対して開示されることとなった。

 坂出市でも、情報公開審査会の委員の先生方には、必ずや、公正公平で賢明なご審議をしていただけるものと期待しております。




《参考情報》ツタヤ図書館誘致自治体における不祥事

(20216月に宇城市に提出した審査請求書より引用)


 本件の指定管理者に選定されたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、2013年に佐賀県武雄市で公共図書館の運営を受託して以来、その運営手法の是非が、図書館界のみならず、広く世間一般で関心事になっているのは周知の通りである。


2015910日には、同社が、武雄市図書館の運営するにあたって、市場価値が極端に安いと思われるような中古図書を大量に系列企業から仕入れて図書館に配架していたことが発覚。この件では、増田宗昭社長自らの名前で書かれた謝罪文を自社サイトに掲載した。【※1


 また、同時期に同社の指定管理がスタートした神奈川県海老名市では、共同事業体を構成する業界最大手のTRC図書館流通センターの谷一文子会長(当時)によって、同社が導入した独自分類やその独善的運営手法が厳しく批判されるなどの問題が表面化しており、


以来、同社の図書館運営能力に関して疑問を抱く市民が続出し、武雄市だけでも住民訴訟2件、神奈川県海老名市でも住民訴訟1件、宮城県多賀城市では住民監査請求2件が提起されている。


201510月には、愛知県小牧市で同社に運営を委ねることに反対する市民が続出し、同社が提案する新図書館建設計画について住民投票が実施された結果、計画中止に追い込まれた。


2016年には、同社が図書館の空間設計から手掛けた計画が進められていた山口県周南市でも反対運動が起こり、住民投票実施をめぐって8737名もの有効署名が提出されたが、議会はこれを否決して世間的な批判を浴びた。



 そうしたなか、同社が参加した公共施設の指定管理者選定に対しては、世間的な注目度は非常に高く、選定プロセスが公正公平に行われたことを示す必要があるため、201712月に同社を市民図書館の指定管理者に選定した和歌山県和歌山市では、同社選定プロセスを詳細に開示した。


ところが、和歌山市が開示した文書は、黒塗りばかりで不開示が多かったため、市民が審査請求を行った結果、審査会において、昨年10月に一部開示命令が出されている。


201910月には、和歌山市内の会社経営者が、同社指定管理に決まった市民図書館建設に関係した公文書のほとんどを市当局が黒塗りで不開示としたことに強く抗議して、和歌山市長を相手取った国家賠償請求を提起している。


最近では、20209月、山口県宇部市において同社を運営者とした複合施設の計画が一度は採用されたものの、余りにも費用対効果が良くないとして、施設条例が市議会で否決されている。


以上のような経緯を知る者としては、今回宇城市が行った図書館と美術館の指定管理者選定プロセスについての情報開示は、2013年以来、日本全国で起きた、いわゆる「ツタヤ図書館問題」などまるで何もなかったかのような杜撰な対応であり、情報開示による事業の透明化を求める世間の流れと逆行しているといわざるをえない。











【※1CCCサイトに掲載された増田宗昭氏の謝罪文。現在は削除されている。


2025年8月15日金曜日

経産省“コーヒースタンド”はCCCのみ応募だった

 

こんにちは、日向です。


先日、 CCC受託実績を読む~うるま市、高山市、紫波町、経産省~ で取り上げました経産省・コーヒースタンドの件、ひとつ追加情報がありましたので、追記しておきたいと思います。


8月1日、経済産業省別館の、誰でも利用できるオープンな共創空間「ベツイチ」にカフェ「霞が関珈琲」がオープン。この運営を担っているのがCCCで、3月に行われたコンペによって選定されたとされていました。

https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/koji/2025/20250220.html


で、経産省に問い合わせて教えてもらった募集要項をみてみたら、なんとツタヤ図書館ばりのおかしなことがゾクゾクと出てきたんです。


募集開始が2/20、応募締め切りが3/13と、3週間しかない。土日を除けば、10日もないかも。この募集情報を知ってすぐ準備して応募できた事業者は、いったい何社あったのでしょうか?


また、ツタヤ誘致自治体でもいつも問題になる賃料ですか、



これがなんと


1平米あたり1,830円!


そこで、経産省に問い合わせのメールを出しておいたら、昨日、以下のような主旨の回答がきました。


お尋ねいただいた件についてですが、本件公募では複数社より事前質問があり、計1社より応募がありました。経済産業省において公募資料6 企画提案事項を評価基準として審査を行い、採択事業者を決定しております。

公募資料6 企画提案事項:https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/koji/2025/downloadfiles/20250220_06.pdf



なるほど、やっぱりそうですか。事前に、公募条件についての質問は複数社からあった(木更津市と酷似)ものの、応募はCCC一社のみだったとのこと。ということは、これは実質、特命随意契約ですね。


●街の書店を潰した“元凶”を救済?


 経産省といえば、最近、中小企業庁、文部科学省、文化庁など関係省庁と連携して、次々と閉店していく街の書店を支援する施策に力を入れていることが話題になつていますが、


まさか、TSUTAYAの大量閉店で青息吐息の大手・CCCまでをも救済するつもりなのでしょうか。


かつて資本の力にモノ言わせて、全国で街の書店を次々と潰していった“元凶”ともいえる大手資本が、政府機関の庁舎内に相場の数十分の一の賃料で、確実にもうかるカフェを出店させてもらったりすることは、あからさまな官民癒着といえるのではないでしょうか。


ちなみに、経産省別館には、一階の“ベツイチ”とは別に、七階に関係者のみ入れる会員制の“ベツナナ”という共創空間も設置されていて、こちらもCCCが運営を受託しています。


もし、国が本気で町の書店の経営支援を行うつもりなら、真っ先に、全国の駅前にあるCCC運営のツタバ(スタバ+蔦屋書店)店舗の賃料を世間相場にするよう、自治体に指導すべきではないでしょうか。

世間相場よりはるかに激安の賃料で借りて、しかも図書館など公共施設の運営費付きの大手事業者に、街の小さな書店やカフェは到底太刀打ちできません。


CCCが公共施設運営している街には、もう、ぺんぺん草も生えないくらい書店文化が廃れていくのではないかと危惧しているのは、果たして私だけなのでしょうか。




カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長兼CEO:髙橋 誉則、以下「CCC」)は、経済産業省内に創設された新たな共創空間およびカフェの運営を開始いたします。本取り組みは、経済産業省の掲げるミッション「未来に誇れる日本をつくる。」の実現に向けたオフィス整備事業の一環として実施されるものです。



 

2025年8月8日金曜日

BJアーカイブ第4回・武雄市が小学生にTカード勧誘の衝撃(2015年12月18日)

 

こんにちは、日向です。


先月末からはじめましたBJアーカイブですが、その第4回は、ツタヤ図書館の3大デメリットのひとつであるTカードについです。


CCCが自社の商売で展開しているTポトントカードを、同社運営の図書館では借り出しをする際の利用カードとして使えるようにしていました。それだけでなく、武雄市や高梁市では、Tポトントカード(T機能付き利用カード含む)を使って、自動貸し出し機で貸し出し処理を行うと、Tポトントがつくというトンデモないことまで行っていました。


Tポトントがつくということは、当然、誰がいつ何を借りたかというデータをCCCが保有することになります。図書館にとって、利用者の貸し出しデータは、このうえもなくセンシティブな扱いを受けるはずなのに、平気でその規制を破ってしまっていたのです。


2013年に武雄市で第一号がオープンした当初から、図書館利用者の貸出しデータを館外に持ち出してしまう不適切な行為(図書館の自由に関する宣言にある「利用者の秘密を守る」に抵触)として、かなり強い批判を浴びていたのですが、いくら批判されても、CCCは図書館でのTカード機能付加を一向にあらためることはありませんでした。


それもそのはず。Tポトントカードを使えるようにすれば、受託した自治体で、新たにTカードを作成する市民が激増し、図図書館利用カードとのダブルカードにしてしまえば、市民がつくるTカードの作成費用も丸々自治体が負担してくれるから、こんなにおいしい話はありません。


その批判のひとつとして、このとき私が取り上げたのが武雄市が小学生に学校の中、それも教室でTカードを勧誘しているかのような常態になっていた事件についでした。


すでにBJでは消されていますので、今回、2015年12月18日の記事を以下に再録しておきます。


なお、和歌山市民図書館では、Tポトントカードは、昨年4月以降、すでに使えなくなっています。



 

ツタヤ図書館、市が全小学生にTカード加入の勧誘疑惑?教育委員会「問題ない」

武雄市図書館の利用カード(「武雄市図書館 HP」より)
 ごく普通の人による、ごく普通の日常を綴ったブログ。

 2年半前にリニューアルされて全国的に話題になった図書館のある佐賀県武雄市に住んでいるが、件の図書館についての記述はほとんどなかった。ツイッターでも、あの事件が起きるまで、図書館に関して積極的につぶやいてはいなかった。なぜなら、不用意なツイートをしてしまうと、人口5万人の小さな町ゆえ、個人が特定されてリアルの生活に支障をきたすおそれがあるためだと、ブログには書かれている。現に、そうなった人を何人も見てきているらしい。

 事件が起きたのは2月末のことだった。そんな人物がツイッターで瞬間的に沸騰した声を上げたのだ。

「なんだぁぁぁこりゃぁぁぁ!!! 」

 このツイートには、「武雄市内の小学生 保護者各位」と題された1枚のプリントの写真が添付されている。

「このたび、武雄市内児童の読書推進を目的として 武雄市図書館の利用カードの一斉作成をすることになりました」

 あたかも強制であるかのように書かれたプリントでは、「すでにお子様が図書館カードを作成されている方はお申し込みの必要はありません」と、作成していない人は申し込みが必須のように前置きしたうえで、こんな指示が書かれていた。

「作成いただくカードは2種類のタイプからお選びいただけます。A.図書利用カード B.図書利用カード(ポイント付き)」

 どちらを選択した場合でも、登録申込書と父兄の同意書の提出が必要で、さらにBの「ポイント付き」を選択した場合には、登録申込書の上段の「右規約に同意します」にチェックを入れるよう指示されている。2月末に配布され、提出期限は3月6日となっていた。

「ポイント付き」とは、武雄市図書館が公式採用しているTポイント機能がついた図書貸し出しカードのことだ。

「まさか、学校を通して市内の全児童にTカードをつくらせようとしているのか」と疑問に思われる人も多いだろう。その「まさか」が本当に起きたのである。

公立小学校全体で私企業の利益を後押しする異常さ

 Tカードは、レンタルショップのTSUTAYA(ツタヤ)を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が展開するTポイントサービスを利用するためのカードだ。提携する店で買い物や飲食するとTポイントがたまり、それを加盟店でも使える。CCCが運営する武雄市図書館の場合、無料で本を借りてもポイントがつく。

 Tカードは、CCCの主力事業のひとつだ。会員は、提携店を利用してポイントをもらえる代わりに、日々の行動履歴データは、CCCにすべて補足されることになる。CCCは、そのデータを自社のありとあらゆる部門の経営に生かすと同時に、提携企業にも個人情報を除いたデータを提供することで収益を上げる。

 そんな完全に私的な事業を、市内の学校をあげてサポートしているかのような出来事に少なからぬ父兄が強い違和感を覚え、同時に子供の個人情報までも根こそぎ一民間企業に補足されることに対して底知れぬ恐怖を抱いただろう。

 実際、この事実をツイートした人は、この後、それまで抑制していた武雄市図書館の指定管理者であるCCCに対する反感をあらわにすることになる。

 インターネット上では、このプリントについて、当初「いくらなんでも市の教育委員会がそんな公私混同なことするわけない。おそらく怪文書だろう」との見方も出ていた。しかし、やがてそれが本当に小学校で配布されたプリントであることが判明すると、そのあまりの配慮のなさに批判が殺到することとなったのは、ごく自然のなりゆきだろう。

 武雄市教育委員会に事実関係を確認したところ、「確かにそのような文書を配布したが、事前に各学校の校長には任意である旨を説明していたので、問題があったという認識はない」とのこと。

 そもそも「武雄市では、図書館が指定管理になる前から、児童・生徒の利便性のために、定期的に学校で一括してカード作成する機会を設けていて、今年だけのことではない」という。そこで「では、毎年の恒例行事なのか」と質問したところ、「いや、ここ数年は行っていなかった」と説得力がない回答をする。

 教育委員会は「この件について、直接、教育委員会への保護者【※1】からのクレームは特になかった」と説明しており、ネットでの反応とはあまりにも落差が大きい。

 しかし、東京都内の学校関係者にも取材したところ、「調べ学習のため、クラスごとに団体カードをつくることはありますが、読書推進活動の一貫として、教育委員会が全児童個人に図書館のカードを作成させるようなことは、まずあり得ない」と断言し、「まして、一民間企業の利益になると疑われるようなことをするとは信じられない」と驚く。


カード作成の何が問題なのか

 問題なのは、まず「ポイント付きカード」を希望するかどうかを市内の各世帯に選択させた大量のデータを、市が一時的にせよ保持することになった点である。

 なぜならば、「ポイント付きカードを希望した」人は、前市長が役所をあげて推進した新図書館事業を支持する「賛成派」とみることができ、「ポイント付きを希望しない」人やカードの作成を申し込まなかった人は「反対派」であるとの“踏み絵”をさせられるように感じた人もいただろう。

 門外漢にとっては、まったく荒唐無稽な話だが、一連の騒動によって、それくらい市民はナーバスになっている。場合によっては、「ポイント付き」を選ぶ生徒が多いクラスでは、同調圧力がかかるかもしれない。

 そして何より、ポイントの付くカードを作成することで、2013年にCCCが図書館の指定管理者と決まってから指摘され続けてきた問題があらためて浮かび上がってくる。それは、公共図書館において、これまで不可侵とされてきた個人の貸出(読書)履歴情報保護だ。

 どんな本を借りたかというのは、人に知られたくない個人情報として厳密に管理されるからこそ、我々は安心して公共図書館を利用できるのだか、その情報が第三者によって密かに収集されているとしたら、こんなに気味の悪いことはない。

 CCCは、借りた本の書名はもちろん、個人を特定される情報はCCC側に一切保存されないと説明しているが、カード発行時に個人情報を登録している以上、利用者はマイナンバー制度同様、個人情報について漠然とした不安を拭いきれない。

 また、未成年の場合、保護者が一度規約に同意してしまえば、将来成人してからも、自分で削除要請を出さない限り、行動履歴を延々と収集・蓄積され続ける懸念を指摘する声もある。

 子供の個人情報に関しては、昨年、最大2070万件もの顧客情報が流出して大問題となったベネッセの事件を持ち出すまでもなく、ありとあらゆる事業者にとってのどから手が出るほど欲しい「宝の山」である。その取り扱いは相当に慎重を期させないといけないなかで、教育現場で一民間企業のポイントカード会員獲得を代行するなど前代未聞である。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト


【※1】当初「父兄」としていたが、記事掲載直後から「いまはそのような表現は使わない」との指摘があり「保護者」とした。