こんにちは、日向です。
先日来、しつこくお知らせしております新刊『「黒塗り公文書」の闇を暴く』が、いよいよ明日10月11日金曜日に発売になります。
それに先立ちまして、いつものようにビジネスジャーナルへ関連記事を寄稿するつもりでしたが、諸般の事情により、記事掲載が明日の発売日に間に合わない状況になってきました。
そこで、その記事全文を、急遽当サイトに掲載することにしました。
内容は、公文書の黒塗りではなく「不存在」についてです。新刊に書いた内容のダイジェスト版と言いたいところですが、
実は、新刊から一部抜粋した内容に、大幅に肉付けしまして、こちらのほうが詳しい読み応えのある記事になってしまいました。
これまで当ブログにも発表していない、CCCが犯した不始末についてのスクープです。
2020年6月のオープンからほぼ2年間、一度も除籍をしなかったCCCの図書館運営を追いかけているうちに遭遇した不可解な事件。
お時間のあるときにでも、じっくり読んでみてください。
よろしくお願いいたします。
■1200枚の図書原簿に埋もれていた
不正処理の痕跡■
~カルチュア・コンビニエンス・クラブ
の顛末書~
役所の情報公開において、“黒塗り”だらけの、いわゆる「のり弁」よりも、場合によっては、はるかにタチが悪いのが「不存在」である。“黒塗り“は、たとえ一部でも、何かが書かれた「紙」があるだけマシで、黒塗りされていない箇所から、ほんのわずかでもなにかを読み取ることはできるが、「不存在」は、最初から「紙」がないので、どうしようもない。
なかでも究極の「不存在」が、「作成したけど、出すとヤバイので『ない』と言い続けてきたけど、あった」パターンである。
国政で言えば、自衛隊の日報隠蔽問題。2016年にジャーナリストの布施祐仁氏が自衛隊がPKO部隊を南スーダンに派遣していた際の日報を開示請求したところ、既に廃棄したとされていたのに、再調査の結果、統合幕僚監部に電子データとして残っていることが判明。さらにその後の特別防衛監察の結果、陸上自衛隊が保管していたこともあきらかになった。
2017年の加計学園の獣医学部新設問題も、同じパターンだ。内閣府から「総理の御意向だと聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」と言われた文科省の文書が一度は怪文書扱いされたが、その後、文科省の複数の部署で共有されていたことが判明した。そのほかにも、森友学園の国有地払下げに関する交渉記録など、2016年~2020年にかけて、立て続けに起きた公文書問題は、いずれもこのパターンだった。ほとんどは、いくらジタバタしても「ないものはない」とされてしまうが、たまに「ない」とされたものが「ありました」となると、役所はいつもそういう隠蔽工作をしているのかと不信感を募らせてしまう。
この「不存在」は「市民への情報開示を頑なに拒絶している」という意味では、“黒塗り”とまったく同じである。文書の存在そのものが消されてしてしまう「不存在」は、いったい何を物語っているのか、筆者が体験したツタヤ図書館(民間企業が公共図書館を運営)を誘致した和歌山市のケースをみていこう。
●「不存在」のはずが、なぜか出てきた重要資料
まず、下をみてほしい。これは、2023年7月7日付で筆者が和歌山市に行った情報開示申出についての回答である。
「2020年4月1日~2021年3月30日に蔵書の除籍に関連して作成された一切の書面」とした件について、和歌山市教育委員会は、「不開示」(不存在のため)の決定を出している。
実は、この開示申出書を送った当日に、担当課長から電話で同じ内容の回答をされていたのだが、そのことを正式な文書にするため、わざわざ情報開示申出に切り替えて「不存在」の回答を証拠に残すことにしたのだった。
というのも、筆者は、さまざまな観点から、この2年間に、CCCが運営する和歌山市民図書館において、除籍関連の資料が、ただの1枚も作成されていないことなど、ありえないと思っていたからだ。
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(キャプ)「2020年4月1日~2021年3月30日に蔵書の除籍に関連して作成された一切の書面については、作成していない」と和歌山市教委名で回答していたが、それはウソだった。 |
そんな筆者のカンは的中した。それから半年後の今年1月、筆者は、別件で開示された公文書の内容に疑義があったため、追加で開示申出を行ったところ、3月下旬になって4枚の文書が開示された。
この文書のなかには、2020年4月、和歌山市民図書館・西分館で起きた図書館の除籍に関する顛末書が含まれていた。つまり、昨年7月に「不存在」とされた期間中の除籍関連文書が、なぜか出てきたのである。
●カルチュア・コンビニエンス・クラブ社員の顛末書
改めて開示文書をみてみると、吃驚仰天するような内容が含まれていた。「顛末書」と題された文書には、2020年3月に同館が新刊で受入した児童書『かえるの天神さん』について、版元から「編集上の瑕疵があった」として返本要請を受けた同館の職員が無許可でその要請に応じてしまったことの経緯が書かれていた。
受け入れた資料の提供を中止する場合、必ず教育委員会の決裁を経る手続きをとらないといけないが、CCCが運営する和歌山市民図書館・西分館では、そうした手続が取られていなかったのだ。
なんらかの瑕疵があって版元の回収要請に応じるのは当然と思われるかもしれないが、図書館には、一度提供すると決めた資料は、めったなことでは停止・中止してはいけないという不文律がある。どこかから本の内容にクレームがつくたぴに資料の提供をやめてしまうと、『図書館の自由に関する宣言』でうたわれている「資料提供の自由」を、たちまち侵害してしまうことになるからだ。図書館は、国民の知る権利にこたえることが求められている“民主主義の砦”のひとつなのである。
事実、周辺自治体を調べてみると、海南市、御坊市、田辺市の図書館では、このとき、いずれも当該図書は所蔵されていて、和歌山市のように返本に応じていない。
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(キャプ)2020年5月15日付で市教委の許可を得ずに、CCCが返本してたことの経緯を書いた顛末書と、それに付随した除籍選定リストが作成されていた。 |
当該書籍をCCCが返本していたことがわかった後、版元があきらかにしていなかった回収理由が図書館関係者の話から、わかってきた。
「菅原道真をかえるにたとえたことを理由として、北野天満宮の代表者から(回収の)申し入れがあったようです。作者の息子さんの当時のフェィスブックによると、作者としては納得がいってない、とのことです」
タブーにふれたのだろうか。第三者から本の内容についてなされたクレームに対して、ここまで版元が敏感に反応するのは異例中の異例だが、さらににその版元からの返品要請に図書館サイドが、ホイホイ応じたのだとしたら、由々しき問題ではないか。
このことが課内で発覚した際には、大騒ぎになったはず。やらかしてしまったものはしょうがない。CCCが市教委にこの経緯を報告した顛末書を提出して、一件落着としたようだ。もちろん、そのようなことがあった事実は一切公表されず、顛末書の存在すらも隠されていた。何もなければ、CCCの不始末は、永遠に市民には知れることはなかっただろう。
CCCでは、日常的に市教委に許可を経ないで蔵書を除籍する行為が横行していたのだろうか。市教委が指定管理者のガバナンスを完全に失ってしまっていることを、はからずも示した事件となったのである。
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(キャプ)和歌山市民図書館西分館の図書原簿。版元から返本要請のあった図書の欄に手書きで「返本」と書かれていて、その処理をした日付スタンプ(令和2年4月21日)が押されていた。この情報をもとに「返本の経緯が分かる文書及び根拠を示す文書」を開示申出したところ、CCC提出の顛末書が開示された。 |
●担当課長自らが「大ウソ」をついていた?
この顛末書は、筆者がたまたま関連した事件を追いかけるうちに出てきたものだった。
2023年6月、筆者は、和歌市民図書館が移転したときの引っ越し作業等で、大量の本がなくなっているのではとの情報をキャッチした。残念ながら、除籍関連の資料をいくら調べてみても、そのような事実を示す文書は確認できなかったのだが、そのプロセスにおいて、西分館の全蔵書データが入っている図書原簿約1200枚(2019-2020年度)を開示申出して調べていたところ、『かえるの天神さん』という児童書が「返本」扱いになっていたことをみつけた筆者は、「返本の経緯が分かる文書及び根拠を示す文書」を開示申出した。(この件については、昨年12月にビジネスジャーナル掲載記事『和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で』)で詳しくレポートした)その回答として、2024年3月に開示されたのがこの顛末書だったのだ。
担当の読書活動推進課では、それまで筆者が要求し続けていた特定期間中の除籍関連資料の存在を頑なに否定していた。筆者の開示申出に「不存在決定」の文書を出していたばかりか、担当課長が「その期間の該当文書はありません」と大見得を切っていたのだ。
ところが、「返本」と手書きで記載された西分館の図書原簿のデータを突きつけられたら、辻褄の合う説明をしないといけなくなり、CCCの顛末書と関連の除籍資料を出ささざるをえなくなったのだ。
つまり「その期間中の除籍関連文書はない」と担当課長自らが大ウソをついていた事実が確定したわけだ。
●除籍手続せず、不正処理をしたのは誰なのか
開示された図書館原簿と顛末書の内容を詳しくみていくと、さらなる疑問が出てきた。
「版元に返本した」とされる当該書籍が、正式に除籍された記録がないのである。開示されたのは、該当箇所に「返本」と手書きのうえ日付スタンプが押された図書原簿、除籍候補に関する「選定資料リスト」、「除籍予定リスト」の3点。その前にあるはずの「除籍してもよろしいでしょうか」とした伺い文書はもちろん、肝心の除籍が決裁された文書がどこにもないのである。
また、版元に返本した後、版元から書籍の代金2200円が現金書留で返金されたと顛末書に記載されていたが、そのお金をどのように処理したのかも不明なままだ。
顛末書には「出版社より届いた現金は、全額本年度の図書購入費とします」と書かれているが、本当にそのような処理がされたのか、もしされたとしたら経理上はかなりややこしいことになるはず。ある図書館関係者は、この開示文書をみてこう訝る。
「図書館が購入にあたって支払った額は2200円ではありません。本体にブックコートを施し(分類)ラベルを貼付した加工品として書店から納品されますので、定価では支払っていないはず。しかもその2200円はどういった会計処理になるのかの説明がありません。また、当該書籍はシステム上は除籍されているのに、誰がなぜ原簿に『返本』と記載したのかもあきらかになっていません。もしそれをCCCが行っていたとしたら、(返本した行為とは別に)、これまた指定管理仕様書に違反した行為になります。それらの説明資料は必ずあるはずです」
そこで筆者は、3月末に開示されてすぐ、(1)版元からの返金はどのように経理処理したか(2)除籍決裁がなぜないのか(3)顛末書等を開示しなかった理由を説明した文書--などについて追加の開示申出を行ったところ、5月27日付けで回答がきた。
開示されたのは、令和2年度の決算報告書のみ。回答の備考欄には、収支報告書の図書購入費の決算額がが48,027,069円と、予算額48,000,000円よりも返本代金2200円を大きく上回る金額となっていることから、顛末書の記載通り「令和2年度の図書購入費に充当されている」と報告を受けている旨が書かれていた。
要するに「どのような経理処理を行ったのかは詳しくは把握していないが、返金分以上を追加で図書購入費にあてているようだから、それでいいんじゃない?」と言っているのである。
肝心の除籍決裁の書面が不存在であることの理由やその経緯を説明した文書はすべて「不存在」だった。
●国民共有の知的財産を隠蔽するツタヤ図書館
不開示の理由の欄には、こう書かれていた。
「~指定管理者から顛末書を受け付けた後、本来は除籍の決裁を経て図書原簿に『除籍』と記載すべきでしたが、図書原簿に『返本』と記載した処理としていました。したがって、除籍に関する公文書は不存在になりますが、システム上は除籍の処理をしていました」
「図書原簿に『返本』と記載した処理」をしたのはいったい誰なのか、CCCの社員なのか、それとも担当課の職員なのかすら不明のままである。
結局、和歌山市教委は、CCCから提出された書面のみ開示し、自らことの経緯を説明した文書はただの一枚も開示することはなかった。
当然、この件に関して、CCCとやりとりをした記録や会議録、報告書などは逐一作成しているはずだが、それらはすべて「不存在」だという。
前出の図書館関係者は、和歌山市教委の一連の対応こう批判する。
「公文書管理法では、公文書を『健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的財産」と位置付けており、これが守られないと行政としては失格ということになりますし、その責任は重大です。今回、市民の開示請求に対してCCCの顛末書等を不存在とした件については一定のけじめが必要でしょう」
言い逃れができなくなって渋々出してきた文書についての説明すら、頑なに拒否し続ける和歌山市教委のふるまいは、果たして、社会教育をつかさどる行政機関の名に恥じないものと言えるのだろうか。
【筆者からお知らせ】以下のタイトルの新刊が10月11日に朝日新聞出版から発売されます。ビジネスジャーナルに2018年以降、足掛け6年間にわたって寄稿させていただいたツタヤ図書館問題に関する記事の内容を公文書開示の視点からまとめたものです。ご関心のある方はぜひ、一度書店で手にとってみてください。
「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)
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