2019年1月6日日曜日

ISBNの謎・番外編

こんにちは、日向です。

先日書きました「ISBNの謎」について、追記を書こうとしたら、どこに書いていいのかわからなくなりましたので、新しいエントリーに書いておきます。

ネットオフが使用している、アタマ「978」だけを省略したの10ケタのISBN(便宜上「新10」と名づけました)について、他社はどこも使っていないと書きましたが、

では、「新10」のISBNから、目的の本検索できないのかというと、できなくはありません。

2016年10月に作成したメモには、以下のようになっています。


・新10で検索可能 hont 紀伊国屋 honyaclub netoff
・新10では検索不可 tsuyaya 7net 楽天books amazon 書協 bookoff

なあんだ、他社でも「新10」って、通用してるじゃあない?

そう思われたかもしれませんが、検索はできても、検索結果の書誌情報をみてみると、どこにも「新10」はみあたりません。

どういうことかといういますと、「978」を入れるのを忘れるか、間違って10ケタで検索した人でも、「もしかして、この本じゃあないですか?」と示してはくれるけれど、それを他社と共通の識別コードとしては使っていないということだと思うんです。

では、なぜネットオフは、「新10」なんていう亜流のISBNを使っているのでしょうか?

正直言って、まったくわかりません。

ただ、「新10」を採用するメリットとしては、新刊書店に古本を置いたときに、その区別ができるってことです。

ネットオフの業者用の導入事例(新刊書店に古本コーナー設置!)には、以下のような記述があります。


「古書」を導入する際に一番悩んだのがスタッフのオペレーションでした。現在の店舗運営にはPOSが必要不可欠ですが新刊書籍との区別や在庫管理をするうえでPOS登録が絶対条件になります。初期商材の登録が一番頭の痛いところでしたが、ネットオフさんの場合、JANによるデータ管理が徹底されているため初期商材の登録などもすべてお願いができました。

http://www.netoff.co.jp/corporation/intro.html#introCase02

これって、TSUTAYA書店の在庫と図書館の蔵書を区別するときにも、使えないですかね。

真相は、藪の中なのですが、いろいろと推理することはできますよね。

では、また。


追記 「JAN」は、本の裏表紙のバーコードで読み取る部分に印刷された13桁のISBN。古い本でも、チェックデジットはいまと同じ。これに「新10」を併記したのがネットオフの標準と思われる。(詳しくは「謎のISBNその(5)」を参照)

2019年1月3日木曜日

謎のISBN(6)市民への背信行為


こんにちは、日向です。

昨日は、駆け足で多賀城市のツタヤ図書館でみつかったISBNについての謎を5回にわたって振り返ってみました。

結論部分は、最後にさわりだけ書いておきましたが、もちろん、このあとが本論です。

すでに、ビジネスジャーナルに発表しているのですが、ネットニュースはあまり長すぎると読まれない等の制約があるため、該当記事では、結論部分も、できるだけ短くまとめられています。

そこで、今回は、かなり文体がしつこいのですが、短くする前の記事を以下に全文を掲載しておきます。

なお、誤解のないように、あらかじめお断りしておきますが、以下の内容は、図書館に古本を入れることの是非を論じたものではありません。

あくまで「新刊リスト」と称した中に存在した古本ではないかと疑われるISBNについて調べたものであることを付け加えておきます。(記事内容は、すべて2017年当時のデータに基づくもの)

よろしく御願いいたします。




CCCからの回答


 ここまで信憑性が高まれば、あとは、当事者を直撃するのみである。
 そこで、まずCCCに対しては、「多賀城市立図書館の新刊選書リストに中古が混入している疑惑がある」ことを伝えて、「新刊に中古が混入していないか確認してほしい」と問い合わせてみた。

また、今回の多賀城市立図書館の開館準備において、どこから何冊購入したのか、その詳細をすべて開示するよう求めた。

 しかし、同社からは、「そのような事実は、ございません」、購入先の詳細についても「お出しすることはできません」と、にべもない回答がきたのである。


 違法行為の疑いをかけられている当事者だから、そのような回答になるのは、ある意味、仕方ないのかもしれない。これは、予測通りである。

 むしろ事実解明のカギを握っているキーマンとして期待していたのは、市教委が新刊の購入先として明確に認めていた専門企業のTRC(図書館流通センター)である。


第三者には開示しない

 同社には、新刊に中古が混入している疑惑があり、その証拠となるデータを確保したことを伝えたうえで、「CCCは、多賀城市立図書館の新装開館用に、新刊を約2万冊購入したとしているが、それは事実か? また、それについて最終的な購入冊数を開示してほしい」と問い合わせてみた。

 もし、同社が「いえ、うちは1万冊しか売ってません」と答えれば、「新刊」と称して「中古本」を1万冊購入したことになる。さらには「一冊も売ってません」となったら、「疑惑」ではなく、犯罪行為が完全に立証されたことになるのだが…。

 TRCからの回答は、驚くほどアッサリしていた。
「確かに、CCCから発注を受けて、多賀城市には2万冊以上入れています。昨年11月くらいから発注を受けて、今年2月末までに、装備も終えてすべて納本を完了しています」(広報部)

 具体的に、何冊納本したのかなど、それ以上詳しい取引内容については「注文内容を第三者に伝えることは、信用問題になる」とのことで、開示を完全拒否した。しかし、多賀城市では、平成27年度に、閉館前の旧図書館でも蔵書購入していたため、「2万冊以上」というだけでは、CCCが潔白である証明にはならない。また、詳細データが開示されなければ検証もできない。


 東京の図書館をもっとよくする会の池沢昇氏は、この結果を次のようにみる。

「TRCが真実を述べていることの蓋然性は、高いと思います。11月というのは、教委選書の第1回目の新刊発注(第4回選書リスト)の時期と符合します。納入冊数も符合します。ただ、古い本が多いため、絶版・品切れで新刊書の入手ができないものも多く出ています。納品された本のすべてが新刊書なのか全く分かりません」

 では、あれだけネットオフのデータと酷似していた選書リストは、どうとらえればよいのだろうか。池沢氏は、ここから、とんでもなく非・常識なストーリーを述べ始めた。

「ネットオフは、リストが整備され、チェックするだけでリストを作りだすことができますので、そこにチェックを入れて選書リストを作らせ、TRCに発注したんだろうと思います」


中古リストで新刊購入



 耳を疑うような発言である。なんとCCCは、中古書店の在庫データを元にしたリストを市教委に承認させたうえで、こともあろうに、それで図書館のプロであるTRCに投げて、新刊を発注した可能性があるというのだから。


もし、それが事実だとしたら、中古リストで新刊を買うなんて、いまだかつてどんな図書館でも手を染めたことのない、「市民への最大級の裏切り行為」ではないか。

 前後の状況を考えれば、あながち荒唐無稽な話とは言えず、むしろ、それによって、これまで不思議に思ってきたさまざまなことが、腑に落ちるようになってきた。


 2015年1月にCCCが見積書を提出した時点では、追加蔵書購入数は3万5000冊で、新刊と中古は、それぞれ1万7500冊ずつ。新刊・中古の割合は半々だった。

 その後、なぜか方向転換され、第一回めの選書リストが市教委に提出された6月時点では、

「新しい本6割程度(2万1000冊)、中古本4割(1万4000冊)」

と、新刊部分が3500冊も大幅に増えていたのである。(市教委が、あえて「新刊」とは言わず「新しい本」としているところに、何か別の意図があることも見え隠れする)

 市教委とCCCとの間で、いったいどんなやりとりがあったのかはわからないが、ただでさえ、短い期間に新刊を大量に手配してしていかねばならないときに、突然何千冊も新刊を増やすことになったのだから、CCCとしては、たまったものではなかっただろう。

すでに選書リストは、ほぼ準備されていたはず。いまさら、新刊の選書リストをゼロから作成していたのでは大変な作業だ。それより何より、図書館に入れる新刊を大幅に増やすとなると、併設の蔦屋書店の売上に大きな影響を与えかねない。

 そうしたなかで行われたのが、一度宙に浮いてしまった中古本の選書リストを捨て去るのではなく、後半の新刊編の選書に、無理やり突っ込む方法ではなかったのか。

 そう考えると、「新刊なのに、なぜこんなに刊行年が古い本が多くあるのか」「なぜこんなに魅力のない売れ残り本が多いのか」など、それまで疑問に感じていたいくつかのことの説明がすべてつく。

高い金を使って安物を買う


 もし、CCCは、中古書店の在庫リストを元に選書しただけで、実際に購入したのはすべて新刊だったとしても、それをもってして、偽装はなかったのだから、コンプライアンス上は「まったく問題なし」という意見を池沢氏は、厳しく批判する。

「CCCの新刊選書のほとんどを、新古書を対象に行ったのではないかと思います。高い金を使って安物をかったことになります」

 鮮度の高い新刊を大量に入れる絶好のチャンスだったにもかかわらず、それをいとも簡単にフイにし、わざわざ古本屋の在庫リストから選んだようなばかりを、新刊で注文していたとしたら、市民に対する背信行為ではないだろうか。


 リストでは、100円未満の価格がついていたものも、片っ端から2000円で買ったケースも数多くあったのかもしれない。

 いずれにしろ、市民にとって残念だったのは、新図書館に、書店に並んでいるのと同じような新鮮な新刊が大量に配架される情景が、きれいに消え去ったということである。

 逆の立場からみれば、中古リストで新刊を買うことで、図書館の蔵書と書店の陳列商品との差別化がしっかりとでき、併設の蔦屋書店への影響を最小限抑えることにCCCは、見事に成功したとも言えるのだろう。


 もし、図書館側に、住民ニーズのより高い最新刊が2万冊も入っていれば、新刊書店の魅力は、相当に色あせていたはず。図書館は、カフェの借景としてお洒落な空間を演出してくれれば、それでいいのだから。

新刊なのにまるで中古本


 そこで、筆者は、再度CCCに対して「ネットオフ中古データを元に選書したリストによってTRC等に新刊の注文を出したのではないか」という内容の質問をしたところ、「いただきました件ですが、事実ではございません」とだけ返答があった。

 また、ネットオフを運営する(株)リネットジャパンに対しては、CCCから発注を受けて多賀城市立図書館へ納本した事実や、詳細な納本冊数のほか、選書リストの元となるデータを作成したのかどうかなどを問い合わせたが

「取引相手方であるCCC様や関係各所への確認がが必要のため、もうしばらく時間を頂戴したい」という主旨の返答があったきり、その後、音沙汰なしだった。

 CCCがネットオフの中古データをもとに新刊を選書したのは、まったくの事実無根だったとしても、新刊なのにまるで中古本のような選書になっているのは、まぎれもない事実である。


 下の表をみてほしい。第8回選書リスト中にある「ビジネス」の一部を抜き出したものである。刊行年後5~10年以上経過したものがズラリと並んでいる。かつて話題になった本が多数含まれているが、数年では古さを感じない「文学」などと違って、「鮮度が命」の「ビジネス」にとって、刊行年の古さは致命的だ。




 おそらくこれだけ古いビジネス書を新刊で新たに大量購入する図書館は、日本全国どこを探してもほかにはないだろう。古くなった本を廃棄する「除籍リスト」と言っても通るというのは、さすがに言いすぎすかもしれないが、「古本屋の店頭在庫」に酷似しているのは確かである。


 新刊書籍を販売している蔦屋書店の在庫とできるだけかぶらないよう、図書館の蔵書に書店にはない新刊を大量に選書しようとしたら、自動的にこうなるのだろうか。もし、図書館に入れる追加蔵書の新刊2万1000冊すべてを最新刊にしていたら、蔦屋書店との違いがまったくわからなくなり、同じ施設内での書店経営は成り立たないのかもしれない。


 追加蔵書購入の原資は、市民が納めた税金である以上、CCCは、これらの疑念を晴らすべく、図書の詳細な納本状況について積極的に情報開示すべきである。




 CCCが運営するツタヤ図書館については、13年の武雄市図書館、15年の海老名市立中央図書館と続いた2例ともに、さまざまな不祥事や疑惑が次々と報道されているが、個々の案件について市当局、指定管理者ともに、市民に対しての説明は不十分で、結局すべてのことがうやむやのまま今日まできてしまったと感じている人は少なくないだろう。

 それにもかかわらず、同社は、岡山県高梁市を皮切りに、山口県周南市、宮崎県延岡市と、新たに公共施設の指定管理者としての運営を開始することが決まっている(延岡市は、図書館ではなく、ブックカフェ)。今後も、ツタヤ図書館は、全国各地で増殖することが予想され、いずれあなたの街の図書館も、突然「ツタヤ化」される日が来るかもしれない。決して、ひとごとではないのだ。

 あなたは、地元に作られた新しい図書館が、見た目がいくら素晴らしくても、市民に対して説明責任を十分に果たさない事業者に運営を任せることを是とするだろうか。(了)

追記 その後CCC指定管理の図書館において、中古本が選書された事実は確認できていない。










謎のISBNその(5)

謎のISBNその(4)からのつづきです。


 現在一般的に流通しているのは、13ケタのISBNです

 201512CCCが多賀城市教委に提出した新刊の選書リスト中には、どういうわけか、その標準ISBNの冒頭3ケタ「978」(出版物を意味する)を省略しただけの10ケタISBN(以下「新10」)が大量に記載されていました。

 それらを、ネットオフで検索してみたところ、商品ページには、
同じく「新10」が表示されていたのでした。

 一方、選書リストで13ケタや古い10ケタのコードが記載されている箇所を一部抜き出して、検索してみたところ、それらの表記も、ネットオフでもほぼ同じでした

 さて、ここからは、いよいよ核心部分に入ります。

 その前に、ここに書いた多賀城選書に関する内容は、私が2016年秋から2017年にかけて取材した内容をもとにしていますので、ネットオフ等、書店の販売状況は、現在とは異なるかもしれないことを、あらかじめおことわりしておきます。


 ネットオフの販売ページをみると、書籍データは、13ケタと10ケタのISBN併記が標準です。

個々の書籍データ販売ページには、ほとんどが「TSUTAYAで新品を購入」ボタンがあり、それをクリックすると、TSUTAYAの新刊販売サイトにジャンプするようになっていました。



2016年10月頃のデータ


このとき、両社は、資本関係にはないようでしたが、データだけは、そのときまでは、緊密に連携していることがわかりました。

これらの結果を総合すると、多賀城市立図書館における選書リストの一部がネットオフの在庫情報をもとにしているのか、あるいは、ネットオフ自身がCCCから依頼されて図書館の選書リストを作成したのではないかという可能性が俄然高まったのです。

さて、ここからは、ビジネスジャーナルにも書かなかった、ネットオフについて調べた内容を記しておきます。




武雄市の元祖ツタヤ図書館の古本騒動のときには、とんでもなく古い実用書が多数含まれていたことから、その仕入先として注目を集めたネットオフの在庫も、それと同等ではないかとみられました。

ところが、実際に同サイトの在庫を詳しくみてると、そんな先入観がたちまち吹っ飛びました。


 本のほかにCD、DVD、ゲームソフト、ブランド品も扱い、在庫点数は、常時100万点。(2016年)10月末現在、同店がamazon.co.jpに出品している商品は、およそ42万タイトル。うち33万タイトルが「本」である。多賀城市立図書館の蔵書数23万冊よりも多いのです。

 それだけの在庫をサッカー場と同規模の広さを誇る専用倉庫に保持し、注文された商品は、48時間以内に全国発送可能としています。(「購入時に倉庫見学できるか?」と問い合わせてみたところ、「それは対応できない」との回答でしたが)

 自社サイトのほかに、楽天、ヤフーにも出店。42万点を出品するアマゾンでは「マケプレアワード最優秀賞」を受賞するほどのプレゼンスを確保しています。

 「宅配買取」等で毎日、6000冊もの本がダイレクトに届くだけあって、その価格の安さや新鮮さも目を見張りるものがありました。

「毎日が激安108円から」の「料理・趣味・児童」分野をみてみると、2014年~2015年刊行のものだけでも、ざっと200冊近くもの商品がゾロゾロ出てくるから驚きます。

「新刊」と言われても気づかないでしょう。武雄市図書館で問題になった、極端に市場価値の低い本の供給元とは、とても信じられないほどです。


 同店の大口顧客(古本屋、漫画喫茶)向けの法人営業部門に、リストまで作成してくれるかを問い合わせてみると、なんと、こんな答えが返ってきました。

「小説がほしいとか、ビジネスがほしい、単価は200円以内でなど、お客さまのニーズをお聞きして、それに合ったご提案をさせていただくことはできます。もちろん、ご購入いただいたものについてはタイトル、作者、JAN(バーコードの規格)、ISBNが記されたリストをエクセルデータでご提供することも可能です」

さて、ここまで調べて私が出したのは、以下のような結論でした。

ネットオフのような大量在庫を抱えた店舗を利用して、趣味・実用書を多数取り揃えるとしたら、決して、武雄市で発覚したときのように、極端に市場価値の低いものばかりにはならない。

そうなったのは、新刊書店の売り場の棚のラインナップにできるだけ影響を与えないよう、価値の低いものだけを図書館に入れるという明確な意思を誰かが持っていて、それを実行したのではないか。

いよいよ、CCCに証拠をつきつけた
謎のISBN(6)市民への背信行為」につづく






謎のISBNその(4)

 謎のISBNその(3)からのつづきです。

これまでの、あらすじをおさらいしておきましょう。

 
 選書リストの、ISBN欄は、すべて新刊であれば一律13ケタになるはず。なのに、第8回リストには、多数の10ケタが混在していた。そのなかには、2006年までの旧ISBNで使用されていた「x」(テン)がチェックデジット(検算のための数字)として末尾についているものがあることが判明した。そのことで、中古混入疑惑はますます強まった。

 ところが、その「x」 があるISBNの本は、5683冊のリスト中10冊しかない。10ケタのISBNは、5683冊中トータルで1705冊もある。もし、その1705冊がすべて旧ISBN(末尾のチェックデジットを、それまでの9ケタで計算したもの)だったとしたら、「10」を意味する「x」がついているものは、理論上は150冊程度なければいけない。なのに10冊しかないということは、旧ISBNは110冊程度で、残り1600冊は、単に「978」を省略しただけのものではないかとの結論に達した。


 下の図を見てください。

 新品商品と同時に中古も販売するアマゾンでは、一般的な13ケタのISBNと、かつて2006年まで使われていた10ケタの旧ISBNの両方が併記されています。




 しかし、CCCの選書リストは、この方式とも違っていました。

13ケタのISBNのアタマの部分は、どれも共通の「978」となっています。それを省略しただけの10ケタのISBNをところどころで使用しているのです。

 ややこしいので、私は、便宜上、記事中では、以下のようにISBNを定義して分類することにしました。

「新13」2007年以降に刊行された13ケタのISBN


「旧10」2006年までに刊行された10ケタのISBN


「新10」2007年以降に刊行された13ケタのISBNのアタマの部分「978」を省略して10ケタになっているISBN


 で、問題は、「新10」という奇妙な形式のISBNです。

 出版関係者・書店関係者に聞いてみても、誰もが

978を省略しただけのISBNなんて、そんなものは知らないし、使ったこともない」

--と言うのです。

 TSUTAYAが独自に使用しているものかと思って、TSUTAYAの販売ページをみてみても、それを標準としている形跡はみられませんでした。

 しかし、こころあたりのあるところが、ひとつだけありました。

それが古本ネット販売の大手「ネットオフ」です。

下の表をみてください。あるとき、思い立って試しに検証してみたら、飛び上がるほど驚く結果が出たのです。




「新10」が多数混入していた第8回選書リスト10ケタ表記の部分を、ネットオフのISBN表記を比較してみたのがこれです。ドンピシャと言っていいほど同じですね。

たまたまかもしれませんので、「新13」も比較してみたのが、下の表です。





さらにし、しつこく「旧10」も比べてみました。





 ネットオフといえば、ツタヤ図書館問題について関心のある人なら、「ああ、あそこね」とすぐにわかるはず。

20134月に新装開館した、武雄市の元祖ツタヤ図書館で、CCCが大量の古本を仕入れていた先が当時、CCCの系列下にあった、ネットオフでした。

 完全に一致しないのは、このリストが、ネットオフからのリストだけでなく、本当に新刊で購入したものや、別の業者に発注したものも合体して作成されているためと推察できます

 というわけで、ここに抽出した限りでは、

選書リストで「新10」なところは、ネットオフでも「新10」、

選書リストで「新13」のところは、ネットオフでもほぼ「新13」

選書リストで「旧10」なところは、ネットオフでもほぼ「旧10」


--なので


 標準コードの「新13」は、どこでも同じ表記なので、「たまたま」かもしれません。発行年が古い本には古いコードがついているのも普通のことなので、「旧10」も「たまたまたそうなった」のかもしれません

 しかし、ネットオフには、他書店の商品ページでは、まずみたことのない「新10」表記の箇所が見事に一致するうえ、「新13」や「旧10」までも、同時に、同じ箇所で採用しているのも「たまたま」だとしたら、宝くじ当選まではいかなくても、交通事故に逢う確率くらい低いといえます


 CCCが、ネットオフのデータをもとに選書した、あるいは、選書リストそのものをネットオフが作成代行してCCCに提出したのではないかと推察することができるわけです。


 さて、いよいよ重大局面に突入しました。次回、この事実が意味するのは何かについて、詳しく解説してみたいと思います。


謎のISBNその(5) につづく

謎のISBNその(3)

 2016年にツタヤ図書館として新装開館した多賀城市立図書館の選書リストに、通常はありえないISBNが多数混入していることを二度にわたってレポートしてきました。

 本稿は、その三回目です。

 約2万冊の選書リストのなかに、通常の13ケタのISBNと、2006年までに流通していた10ケタのISBNの両方が混在していたことに加え、さらにもうひとつ奇妙な特徴があることがわかりました。


東京の図書館をもっとよくする会の池沢昇氏が、自ら第8回リストを詳細に分析した結果、次のような新事実を指摘してくれたのです。

「第8回選書リスト5683冊中、ISBN10桁は1705冊ありました。チェックデジット『X』は10冊(内4冊が出版年2010年代)です。チェックデジットが『X』になる確率は1/11ですので、1705冊が旧ISBNであれば、チェックデジット『X』は150~160冊となるはず。ところが10冊しかないと言うのは、10桁1705冊の90%が旧ISBNではない可能性が高いからでは。大半は新ISBNの978を落としただけではないでしょうか」


 ややこしくて、もう、なにがどうなっているのか、さっぱり、わからなくなりますよね。

 そこで、少しくどいのですが、順を追って、丁寧に説明してみましょう。

 まず、CCCが新装開館前の201512月に多賀城市に提出した第8回選書リストは、5683冊ありました。これ、すべて新刊です。

 なので、本来ならば、すべて現在一般的に使われてる13ケタのISBNでないとおかしいのですが、どういうわけか、このリストには、2006年までに使われていた10ケタのISBNが混在していました。




 旧ISBNには、10ケタの末尾にあるチェックデジット(コードが正しいかどうか確認するための検算数字)に『x』(テン)が使われていました。(2007年以降は廃止)


 この『x』は、検算数字が「10」となったときに使われるものです。

したがいまして、池沢氏が指摘するとおり、チェックデジットは、01011通りあります。

なので、5683冊中1705冊ある10桁ISBNx』は、1/11の確率で出現するはがですから、150~160冊くらいは『x』表記のISBNが存在するはずです。


 ところが、実際に末尾が「x」の本を数えてみると、第8回選書リストには、たったの10冊しかありませんでした。


残り140~150冊は、なにかというと、10ケタISBNだけど、末尾のチェックデジットには、x』が入っていない、13ケタISBNと同じ末尾の数字になっていたのです。

 もうホントにこれは、わけわからん状態ですね。

 そんなわけで、今度こそ完全にお手上げです。

選書リストの束をゴミ箱に入れて捨てるか、すべて燃やしてしまいたくなりました。

何ヶ月もかかってここまできたものの、ついに白旗をあげてキブアップ宣言しようとしました。

さんざん、調べ尽くしてきた多賀城市ツタヤ図書館の選書リスト問題は、2015年9月の武雄市と同じく、古本が大量に含まれていたということだけがわかり、新刊については、結局たいした発見もなく終わるところでした。

 そんなある日、ちょっと試しにやってみようと思いたって、初めてみたことで、俄かにトンルネの先にほのかな光明がみえてきたのです。



ようやく、つかんだ真相解明の糸口
「新10」と呼ばれる独自コードの正体とは?
謎のISBNその(4) につづく





謎のISBNその(2)

 先日取り上げました、ISBNの話題を続けます。

 2016年にツタヤ図書館として、新装開館した多賀城市立図書館の新刊選書リストのなかに、

とっくの昔に廃止されたはずの10ケタISBNが、多数混入していることを発見したのです。

このことから、ツタヤ図書館の運営者であるCCCが 「新刊」と称して、古本あるいは新古書を入れているのではないかとの疑いをもって調べ始めたのですが、

いくら調べても、それを裏付けるものがなにもみつかりません。

 時間ばかりが経過していき、途方に暮れていたところ、ひょんなことから、手掛かりとなる情報にめぐりあうことができたのです。

 その端緒となっのが、まず、アマゾンのISBNでした。

書店関係者がこう解説してくれます。


「多くの中古本を扱う事業者の場合、販売サイトには、すべての在庫に13ケタと10ケタの両方を併記しているんです。

そうしないと、古い本は探せなくなりますから。

一般の新刊書店の流通と異なるのは、2007年以降の本でも、本体には印刷されていない10ケタのチェックデジットも計算して末尾に表示してある点です」

 新刊と中古を同じページで販売しているamazon.co.jpで検索してみると、なるほど、どの本にも13ケタと10ケタの両方が併記されています。書店関係者は、こう続けます

「アマゾンの場合は、自社販売商品すべてのジャンルにふられている独自コードASINが10ケタなんですよ。

なのでそれと統一するために、書籍の場合は、新しい商品にも、わざと10ケタの古いISBNをつけて、それを自社の独自コードASINとして使い、より商品を探しやすくしているんです」


 これはまさに「灯台元暗し」でした。

選書リストにある古本の価格をさんざん調べたり、不明な書籍についてキーワードを入れて検索したときも、

真っ先にアマゾンでの販売ページが出てきて、何を調べるにしても、常時、このサイトでの情報は欠かせなくなりつつあります。

 そこで、改めてアマゾンのISBN表記を詳しくみていくと、まったくその通りで、

13ケタのISBNと10ケタのISBN

--の両方が商品情報に記されていました。





 書店関係者の見解は、こうでした。

「『新番地に変更になっても旧番地で探す人のために、両方を併記してアクセスしやすくしているうちに、アマゾンが旧番地を自社の標準コードとして採用した。


中古事業者のなかに、その方式を取り入れるところが出てきていてもおかしくないでしょう」


 多賀城市教委に提出する選書リストを作成したのは、TSUTAYAの本部CCCです。

ということは、CCCは、なんらかの意図があって、選書リストのなかに、中古在庫のリストを混入させてしまった可能性があるといえるのです。

 しかし、このことを証明するのも、依然として至難の業でした。

選書リストは、あくまで購入予定のリストにすぎませんから、当事者が認めない限り、なんとでも言い訳はできるからです。

そうしたなか、また別の角度から、このリストの奇妙さが浮き彫りになったのです。

業界では、誰も知らない「亜流ISBN」だったことが判明する 
謎のISBNその(3) につづく


謎のISBNその(1)

 こんにちは、日向です。

 今日は、本のISBNについての話題を取り上げたいと思います。

 以前、宮城県多賀城市が2016年にツタヤ図書館として新装開館したときの選書リストについて、出版ニュースに寄稿した記事(「ツタヤ図書館は死んだに等しい」)をダイジェストでご紹介しました。

 実は、そのなかの重要なトピックスのひとつがISBNでした。

 ISBNとは、流通する書籍すべてにふられた13ケタの固体識別番号のようなものです。


 まずは、下の表を見て下さい。多賀城市が2016年の新装開館にあたって追加購入しようとした3万5000冊の図書のうち、約2万冊の新刊については、第5回から第11回まで6回に分けて選書リストが市教委に提出されています。



 この選書リストを刊行年代別に分類していったところ、第8回と第9回の一部だけは、なぜか極端に刊年が古い本が大量に含まれていました。

このことから、もしかして、新刊と称したリストのなかには、大量の中古あるいは新古書が混入しているのではないかという疑惑が浮上してきたのです。


 2015年9月佐賀県武雄市の元祖ツタヤ図書館で、市民が開示請求して公開された選書リストのなかには、大量の古本が混入していた事件があっただけに、新刊リストのなかにも古本が含まれているのではとの疑念は、当時、CCC指定管理なら、当然ありえるのではないかと誰もが思ったはずです。

 選書リストを詳しくみていきましたところ、とりわけ第8回には、確かに刊行年が極端に古い本が大量にリストアップされていました。







 それと同時に、この第8回のリストの、なぜか10ケタのISBNが大量に混入していたこともわかったのです。

 これを 発見したのは、リストの分析をお願いしたある古書店店主の方でした。店主曰く

10ケタで末尾に『x』(テン)となっているものがあるのでこれらは、古本ではないのか」

--とのご指摘でした。

 指摘していただいたのは、以下内容でした。

・ISBNが現在の13ケタになったのは、2007年のこと。2006年までに刊行された書籍は、10ケタのISBNが使用されていた

・ISBNの末尾には、チェックデジットと呼ばれるコードが正しいかどうかを確認するために1桁数字が入れられている

10ケタのISBNには、「10」を意味する『x』
(テン)という記号が含まれていたが、2007年に13ケタISBNに改定されてからは、そのような表記は廃止された

 ということは、選書リストのなかに、10ケタでなおかつ末尾が『x』(テン)となっているISBNがあれば、その本は、2006年までに刊行された本であり、それらは古本か新古書である可能性が高いとおっしゃる

 そこで、早速、第8回選書リストを詳しくみてみましたところ、

10ケタISBNは多数混入しているばかりか、2007年以降に刊行された本なのに、ISBNが10ケタで、すでに廃止されたはずの、末尾『x』の本も結構あることがわかりました。
 

一瞬だけ、「これはスゴイ発見!」と小躍りしたものの、苦難の始まりはここからでした。

その裏付けとなる証拠集めに奔走したのですが、なんとなく怪しいというだけで決定的な証拠がなにもみつかりません。

 20年前に刊行した本もまだ倉庫に残っていて、ときどき出荷するよという中小の版元も結構あり、ただISBNが10ケタで、末尾『x』が含まれているというだけでは、なんの証明にもならないことがわかったからです。

 わざわざ新しい本に、古いISBNをふるなんて、どうなっているのか。

 ここからは、もう完全にお手上げ状態でした。新刊の選書リストは、2万冊もありますから、これらをつぶさにみていくだけでも、気が遠くなりそうな作業です。

 何カ月かかかってみていき、わからないことは出版関係者にあたってみましたが、結局なにもわからずに、また、振り出しに戻ったのでした。

とっくの昔に廃止されたはずの10ケタのISBNが、いったいなぜ、新刊の選書リストに混入しているのか。
その謎を解くヒントは、amazon.co.jp にありました。