こんにちは、日向です。
本日は、坂出市の情報開示請求についての続報です。
JR坂出駅前にツタヤ図書館を核とした複合施設を建設する件で1月に開示された情報に、一部不開示となっている部分についてもすべて開示してほしいという主旨で、不服を申し立てる審査請求を6月に行いました。
反論書
2025年9月30日
坂出市長殿
審査請求人
日向咲嗣
(連絡先 hina39@gmail.com)
令和7年8月13日付の弁明書に対して、次のとおり反論します。
処分庁が今回開示した文書は、全面黒塗ページが多数あるため、上記の「個人情報」がどの部分を指し示しているのか判然としないが、公文書に、ただ個人の氏名が記載されているというだけでは、そのすべてが当該条例における「個人情報」として「非公開情報」にあたるわけではない。
審査請求人は「市が開催したワークショップ等の参加者名」の開示など求めていないが、当該事業にかかわる行政サイドの人物の肩書・氏名は当然開示されるべき(公務員等の職及び職務の遂行に関する情報は不開示情報から除外されている)で「非開示情報」にはあたらないのは、自治体の情報公開に関係している者にとっては、「イロハのイ」である。また、当該事業の公募に参加した民間企業サイドに関しても、提案書等に記載されている業務を統括する(予定)の責任者については、秘匿されるべき「個人情報」にはあたらないのも、これまでの判例であきらかになっている。ゆえに、それらは、黒塗りせずに開示されるべきである。
処分庁は、開示した公文書のなかから、いわゆる「企業秘密」にあたる部分を抜き出して「非開示情報」としたと解されるが、具体的にどの部分が、どのような理由で「企業秘密にあたる」かは、一言も説明しておらず、理由は依然として不明なままである。
改めていうまでもないことだが、単に、法人の事業に関する情報が記載されているだけでは、それが無条件に「企業秘密にあたる」わけではない。判例では、「ただ漠然と競走上の利益が損なわれる恐れがある」というだけでは「企業秘密」とはいえず、個別の記載事項について、詳細に検討した結果、その情報を公開することによって、あきらかに当該企業の利益が損なわれると判定される箇所のみ「非開示情報」と認められている。
長年、総務省で公共経営にかかわった後、東京都中野区や神奈川県平塚市等で情報公開審査会の委員を務めている神奈川大学法学部の幸田雅治教授は、「企業秘密」について以下のような見解を示している。
「競争上の利益というのは、本来、その企業が持つ独自のノウハウであり、ほかの企業にはマネのできない特殊なもののはず。それと認められる部分は、もちろん黒塗りするのはやむをえない。しかし、多くの場合、そういう独自の技術・ノウハウとはいえないものを、ただ漠然と『競争上の地位に影響がある』としていたりしますで、私が出ている審査会では、本当に企業秘密と言えるものなのかどうかをひとつひとつよく検討したうえで、そうでない場合は、全面開示すべきとの答申を出すことになります」 (日向咲嗣著『黒塗り公文書の闇を暴く』朝日新聞出版93ページ)
坂出市情報公開審査会には、坂出市の公民連携課が非開示とした部分の法人情報について「企業秘密にあたる」とした理由を聴取し、場合によっては、その情報の当事者である企業にも聴取したうえで、どれが「法人の事業活動の自由や競争上の地位の保護を目的として、ノウハウに関する 情報や法人の事業活動が損なわれると認められる情報」にあたるかを精査していただきたい。
法人の担当者の氏名については前述した通りである。
上記で指摘されている、いわゆる「審議、検討等情報」が非公開となるかどうかは、以下の要素を考慮して個別具体的に判断されるものである。
(1)単に自由な意見交換が損なわれる可能性があるだけでなく、それが公共の利益と比較して看過できないほど不当であるかどうか
(2)単なる客観的な調査データなどは非開示に該当しない
(3)時間が経過して最終的な意思決定がなされた後については、「自由かつ率直な意見交換を確保するために必要」とは認められない
坂出駅前に新しい図書館を建設する当該事業の計画はすでに決定されており、いまさら担当事業者の選定プロセスの情報が公開されたからといって、自由かつ率直な意見交換を確保しにくくなることは考えにくい。逆に、プロセス情報を秘匿することで、市民にいらぬ誤解を与えかねない。
「加点の内訳や計算方法」が、何を意味するものか、いまひとつ判然としないが、もしこれらが当該事業者の選定にかかわる評価だとしたら、その採点方法についての情報がなにゆえ「非開示情報」にあたるのかが不明である。むしろ公正な審査が行なわれたことを示すためには、その採点方針に関する情報こそ包み隠さず開示されるべきである。
また「他の地方公共団体の費用に関する情報が(非開示情報に?)該当し」というのも、意味不明である。
坂出市の実務者たちがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)運営の公共施設を視察した際に説明された指定管理料等の運営費に関する情報は、メディアでも報道されているのはもちろん、各地の視察団が作成した復命書等においてCCCから説明された内容として、多数ネット上に公開されている。
それらの情報はすでに「公開情報」として扱われるべきものであり、条例に定められた例外的な非開示情報にはあたらないのは、改めて指摘するまでもないことである。
また、落選した各事業者名が開示されていないことことも、審査請求人にとっては、大きな不満である。もし、落選したことが世間に知られることでその企業が不利益を被る可能性があるという理由(これも企業の競走上の利益を損なうから?)によって非開示にされたのであれば、それも間違いである。前出の幸田教授は、以下のように述べている。
「不採用になったことが知られると、否定的な評価があったと噂されてデメリット生じるという理由で、落選企業の提案書が非開示になることが多いですが、ちゃんと検討すれば、ほとんどの場合、そういう論理は成り立ちません。なぜかというと、応募があった複数の事業者をどのように比較して選んだかを判断するためには、選定された事業者の提案だけでなく、落選した事業者の提案も公開しなければ判断できないというのがまずひとつ。もうひとつは、落選したという事実が公表されたからといって、そのことが具体的な損害に結び付くという証明は、そう簡単にはできないからです。
具体的にどのような不利益が生じるのかということが示されないといけないのですが、ほとんどのケースではそれは証明できないのです。審査会まで行けば、こんな理由は成り立たない。少なくとも、私が手がけた自治体の審査会では、そのような非開示理由を認めたことはありません」(日向咲嗣著『黒塗り公文書の闇を暴く』朝日新聞出版92~93ページ)
当該事業は、「図書館建設に限定したものではない」とはいえ、地元メディアで「レンタル大手「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する図書館を核とする」(2024年9月6日付 朝日新聞デジタル) と派手に報じられことからもわかるように、ツタヤ図書館がコアになっている事業である。
そして、CCCによる図書館建物の設計や運営についての提案が評価された以上(選定されたコンソーシアムのなかで図書館の実績があるのはCCCのみ)、そのことについて同社がこれまで各地で起こした不祥事等の悪評をまったくなかったこととして、坂出市の選定委員会が評価したことは、2013年の武雄市以来これまでの経緯を知るものにとっては、強い違和感を覚えるのは当然のことである。
そのような審査請求人の疑念を公民連係課の職員が「妥当性を欠いている」ととらえているとしたら、それはおそらくCCCが自ら発信している広告宣伝要素の強い一方的な情報のみに偏った情報受信をしているためと思われる。そこで、2021年に熊本県宇城市に提出した審査請求書中のCCC運営に関する記載を本文末尾に追記しておく。
なお、CCCを公共施設の運営者に選定した自治体においては、本件と同様の行政が出した黒塗り公文書について審査請求人をはじめとした市民から度重なる審査請求が行なわれており、それらの自治体においては、情報公開審査会が詳細に検討した結果「開示すべき」との答申が出されていることも付記しておく。
たとえば、審査請求人が2021年6月に熊本県宇城市に行なった審査請求では、審査請求の手続きを行なったとたん実施機関は、審査会の答申を待たずして、CCCと競合した企業名の黒塗りを一部外した文書を開示し、また審査会の答申後には、黒塗りされていた選定委員に関する情報の大半が開示された。
2017年にCCCを図書館の指定管理者に選定した和歌山市では、地元市民が翌年3月、黒塗りだらけの開示に対して審査請求を行ない、それまでほぼ全面黒塗り状態で開示されたCCC及び同社と競合したTRC図書館流通センターによる提案書について、その約8割の黒塗りがはずされた文書が開示されている。
さらには、坂出市のお隣りにある丸亀市でも、2022年8月、CCCが運営するマルタスの運営費の内訳が「企業の競争上の利益を損なう」ことを理由にすべて黒塗りだったのが、情報公開審査会で審議された結果「すべて開示すべき」との答申が出され、運営費の詳細な内訳が市民に対して開示されることとなった。
坂出市でも、情報公開審査会の委員の先生方には、必ずや、公正公平で賢明なご審議をしていただけるものと期待しております。
《参考情報》ツタヤ図書館誘致自治体における不祥事
(2021年6月に宇城市に提出した審査請求書より引用)
本件の指定管理者に選定されたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、2013年に佐賀県武雄市で公共図書館の運営を受託して以来、その運営手法の是非が、図書館界のみならず、広く世間一般で関心事になっているのは周知の通りである。
2015年9月10日には、同社が、武雄市図書館の運営するにあたって、市場価値が極端に安いと思われるような中古図書を大量に系列企業から仕入れて図書館に配架していたことが発覚。この件では、増田宗昭社長自らの名前で書かれた謝罪文を自社サイトに掲載した。【※1】
また、同時期に同社の指定管理がスタートした神奈川県海老名市では、共同事業体を構成する業界最大手のTRC図書館流通センターの谷一文子会長(当時)によって、同社が導入した独自分類やその独善的運営手法が厳しく批判されるなどの問題が表面化しており、
以来、同社の図書館運営能力に関して疑問を抱く市民が続出し、武雄市だけでも住民訴訟2件、神奈川県海老名市でも住民訴訟1件、宮城県多賀城市では住民監査請求2件が提起されている。
2015年10月には、愛知県小牧市で同社に運営を委ねることに反対する市民が続出し、同社が提案する新図書館建設計画について住民投票が実施された結果、計画中止に追い込まれた。
2016年には、同社が図書館の空間設計から手掛けた計画が進められていた山口県周南市でも反対運動が起こり、住民投票実施をめぐって8737名もの有効署名が提出されたが、議会はこれを否決して世間的な批判を浴びた。
そうしたなか、同社が参加した公共施設の指定管理者選定に対しては、世間的な注目度は非常に高く、選定プロセスが公正公平に行われたことを示す必要があるため、2017年12月に同社を市民図書館の指定管理者に選定した和歌山県和歌山市では、同社選定プロセスを詳細に開示した。
ところが、和歌山市が開示した文書は、黒塗りばかりで不開示が多かったため、市民が審査請求を行った結果、審査会において、昨年10月に一部開示命令が出されている。
2019年10月には、和歌山市内の会社経営者が、同社指定管理に決まった市民図書館建設に関係した公文書のほとんどを市当局が黒塗りで不開示としたことに強く抗議して、和歌山市長を相手取った国家賠償請求を提起している。
最近では、2020年9月、山口県宇部市において同社を運営者とした複合施設の計画が一度は採用されたものの、余りにも費用対効果が良くないとして、施設条例が市議会で否決されている。
以上のような経緯を知る者としては、今回宇城市が行った図書館と美術館の指定管理者選定プロセスについての情報開示は、2013年以来、日本全国で起きた、いわゆる「ツタヤ図書館問題」などまるで何もなかったかのような杜撰な対応であり、情報開示による事業の透明化を求める世間の流れと逆行しているといわざるをえない。
【※1】CCCサイトに掲載された増田宗昭氏の謝罪文。現在は削除されている。