2018年12月20日木曜日

●図書館で起きた時給180円事件(3)

図書館で起きた時給180円事件(2)」からのつづき

●図書館で起きた時給180円事件(3)


 違法行為を犯した事業者は、指定管理を取り消されて当然。次回から図書館運営の仕事を失うはず。ところが、現実には、区がルールを急遽変更してまで、違法行為だらけの事業者に指定管理を続けさせようとした。


事件を報じるAERA


10.他の2施設も受託できない危機

 ところが㈱TK(仮名)が運営していた図書館と同じ施設内にあるセンターでも、もう1 件労基署から是正勧告を受けていまして、それが2012 年12 月なのです。ですから指定管理者の公募開始時点(2014 年7 月)では、2 年に満たないので応募資格はありません。受託施設のすべてを失うことになる㈱TKとしては、大打撃です。

11.区が応募資格要件を緩和

 一方で、区は、どうしても㈱TKに指定管理を継続させたい様子でしたので、もしかしたら、何か救済措置を設けるのではないかと悪い予感がしておりましたところ、それが的中しました。

 公募開始直前の2014 年6 月16 日に開催された区議会総務委員会で、指定管理者の応募資格のなかに、急遽こんな新しい但し書きを追加したんです。



「但し、法規違反の認定より3か月以内に改善されるなど改善意欲が確実に認められる場合は、選定委員会の意見を付して区長決定により、応募資格のない期間を「1年以上」まで短縮することができる」

 これ、完全に㈱TK救済です。あからさまだったので、野党議員が怒ったと聞いています。改正の理由は「悪意のないミスを犯した事業者を救済するため」ということだと説明されていましたが、異例なことに総務部長が直々に答弁しています。

「・・・選定委員会の意見を付して区長が決定するということなので、1年間まで短くすることはできると。やはり法律違反にはわれわれも厳しくのぞみたい」と述べていましたが、何の説得力もありません。

12.起死回生の「バズーカ砲」、㈱TK書類審査で不合格

 さて、区の応募資格の緩和措置によって、一度は、残り三館の契約更新がすべて絶望的になっていた㈱TKは不死鳥のように蘇りました。応募さえできれば、現職は圧倒的に有利です。ところが、最後の最後に、どんでん返しが待ってました。

 図書館併設の地域学習センター、公民館ですね、そこに勤めていた方が㈱TKの就業規則違反などを労基署に申し立てて雇止めにされ、15 以上の法律違反を指摘して公益通報されていました。

 とどめを刺したのは提訴です。この方もうちの妻と同じく、解雇撤回を求めて団交していたのですが、その交渉が決裂したため、2014 年8 月、㈱TKを提訴しました。1年前からのうちの妻の取組みを、まるで、そのままリフレインするかのように、東京地裁での会見の模様がNHK ニュース等で報道されました。ここに至っては、区も15 もの法律違反は庇いきれないと思ったのでしょう。

 第2次選考会のプレゼンテーションが開催される9月1 日のこと、私は、労組の幹部の方と一緒に、㈱TKを選定しないよう区側に求めに行ったところ、その場で、総務部長は、書類審査で不合格とし


“㈱TKさんは(プレゼンには)呼んでいない”

と明言しました。私にとっては、事件全体を通して、いちばん嬉しい瞬間でした。

 不正行為を犯した会社が仕事をすべて失い、公務からは締め出される、一罰百戒です。今後もこれが前例となって、区内では、こういう業者が出てこないような道筋ができたのではないかと思います。


13.地裁、高裁とも勝利判決

 一方、苦戦が予想されておりました裁判のほうは、翌年2015 年3 月12 日に、東京地裁で雇止め無効の勝利判決が出ました。

 担当弁護士からは、通常、何度も更新して、実質的には正社員と変わらないくらいの長期勤務の実態がないと、非正規労働者が解雇撤回裁判で勝つのは難しいと言われていました。それが図書館で5年の指定管理期間中は、労働者が契約更新を期待するのも当然という内容の画期的な判断が出たのです。

 こちらは、弁護団の先生方のご尽力と、地域労組や区労連及び共闘会議を結成していただいた公務公共一般労働組合 (公共一般)の関係者の皆様等、大勢の支援者の方のサポートおかげで勝ち取った勝利です。毎回、裁判所まで傍聴に足を運んでいただいた大勢の方の熱気が、裁判長をつき動かしたのではないかと思います。

 相手方は、地裁判決を不服として即時控訴しましたが5ヵ月後の8 月4 日、東京高裁も地裁判決を踏襲して全面勝利となり――夢のような結果が出ました。

 残念ながら、雇用主であった㈱TKは、すでに公務から実質追放処分となっていましたので、妻は、元の職場に戻るという希望を、ついにかなえることはできませんでした。
 それでも、自分が正しかったことを広く世間の方に認めてもらえたことで、これ以上ないほどの雪辱を果たせたのではないかと思います。時間をオーバーしました。発表を終わります。ありがとうございました。

裁判については、
「時給180円事件」裁判の結末
をご参照ください。

【注釈】 地方自治法第244 条の2 第10 項:普通地方公共団体の長又は委員会は、指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる。


詳細な説明図版が入った講演録は、以下の冊子に収録されています。また、この冊子では、メインの講演である
「ツタヤ図書館を追ってみえたこと」も収録されていますので、ご関心のある方は、以下でお買い求めください。
「時給180円事件」裁判の結末 につづく)






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