2018年12月20日木曜日

●図書館で起きた時給180円事件(1)

 こんにちは、日向です。

 昨日、東京・練馬区立図書館の非常勤司書で構成される労働組合が「直接雇用の継続を求めてストライキ突入か」というニュースが飛び込んできました。

 12月19日現在、区教委と「一定の合意が得られた」として、直近のストライキは延期になりましたが、このニュースをきっかけにして、公共図書館の民間委託の是非についての関心が急速に高まっているようです。

 そこで、今回は、私が図書館の問題に関心を持つきっかけになった個人的な体験を披露したいと思います。

 以下は、2017年7月9日、「東京の図書館をもっとよくする会」の招きで、講演させていただいたときの記録です。そのダイジェスト版を、何回かに分けて、転載させていただきます。

 これを読めば、図書館の運営を丸ごと民間企業に任せると、どういうことが起きるのか、ツタヤ図書館だけの問題ではないことがおわかりいただけるかと思います。

 また、四面楚歌に立たされた労働者が、各地の労働組合の皆さんの支援の輪によって支えられていることも実感していただけるのではないかと思います。

よろしく御願いいたします。


1.区立図書館・時給180円事件

 私が図書館の問題を書くきっかけになったのは、個人的な事情です。都内の公共図書館を運営していたある民間事業者が、時給180 円でパートの人を働かせてしまったという事件がありまして、これが起きたのがうちの妻が勤めていた図書館でした。少し長いですが読み上げます。



  2011年夏、区立図書館の指定管理者である㈱TK(仮名)は、図書館蔵書2万冊に、盗難防止BDS 装置を装着する業務をパート従業員の時間外労働によって実施した。その際、割高となる時間外手当を支払うことを避けるため、パート従業員が余暇に内職として取り組んだかのように偽装して、完全出来高払いの給与(1枚7円)を支払った。(1日の仕事を終え、タイムカードを押してから図書館内で作業開始)


 その結果、作業開始当初、この作業にあたったパート従業員の賃金は、時給にすると180円にも満たない額となった。パート従業員を監督する立場にあった職員のA さんは「これは、不正な脱法行為ではないか」と、再三、館長及び地域学習センター長に中止するよう進言したが、まったく受け入れられらなかった。正しいことを主張したはずのAさんは会社から「トラブルを起こす人間」とみなされたのか、翌年3月末で契約更新を拒絶され、実質解雇された。
事件を報じるAERAの記事


 概略はこういう事件です。これがそのときの作業の出来高表(図表20「BDS タトルテープ装着作業表」枚数のみ掲載)です。赤で囲んだところは、30~50 枚で時給に換算すると200円以下のところ。青で囲んだところは100枚を少し超えていますが、大体300円とか400円のところです。

 当時の最低賃金・時給821 円を上回るためには、2時間の作業で1 日235 枚以上が必要なのですが、最後まで誰一人1 日235 枚達成できた人はいませんでした。中にはアフター5ではなく、非番の日にわざわざ出てきてやってらした方もいましたが、3 時間・4 時間やってもその枚数にならなかったということです。


2.どんな作業だったのか

 現場を知っている方は“1 枚7 円だったら、そんなに安くならないだろう”という疑問を持たれるかもしれませんので、作業マニュアル(図表21「BDS タトルテープ装着作業の基本的な流れ」)を出してみました。1 番から11 番までありますが、7 番までは付帯作業で、実際にテープを貼るのは8 番だけです。これから作業する本を出してきたり、リストを作ったり、それに団体カードで貸出作業をしたりとかして、やっとテープを貼れるんです。その後、後作業もあります。


3.A さんの中止進言と会社の報復

“1人1時間程度”とありますが、実際はみなさん2時間程度やっていらした――というのがこの事件の真相です。その中止を進言したのが、ここで「A さん」と書いたうちの妻です。すると、翌年1月、雇用主の運営会社は、妻に対して、4月以降、契約を更新しないと通告してきました。

 雇止めの理由書には、こう書かれていました。


“ルールを守らない。協調性がない。誠意がない。業務を遂行する能力、勤務態度が十分でないと認められるため”

 そのように虚偽の内容を出してきたものですから、ここからが納得がいかない、うちの妻がとった行動です。

4.納得いかないA さんがとった行動

①区へ公益通報

 まず区に公益通報しました。先に私の方から区長に“こういう事件に対処しないのですか”という手紙を書いたところ、区長部局から公益通報制度の利用を勧められましたので、妻がそれに応じました。で、所管するのがコンプライアンス推進課というところで、第三者機関としての外部の弁護士さん(公益監察員)に事件の調査を委嘱し、その人が関係者に事情聴取をして報告書を出すということでした。

 ところがこの公益監察員という第三者機関は、区に不正があったかどうかを調査するためのものであって、労働者個人を救済するための制度ではないのです。

“調査はするが、雇止めについては区には権限がないため何もできない。あなたが自分の権利を守るためには、自ら裁判を起こすか、権限を持っている労働基準監督署 (労基署)に行きなさい”と、妻は弁護士に言われたそうです。また“一緒に労基署に行きましょうか”とコンプライアンス推進課の職員に言われたそうですが、“区自らが不正行為を糾弾するつもりもないなら、意味ないじゃないか”と本人はたいへん憤慨しておりました。


②地域労組に加入・団体交渉を通じで解雇撤回を求める

 次に、地元の労働組合に入って、団体交渉という流れになりました。これは、他の会社でもよくあるパターンだと思いますが、雇用主の会社は、組合が申し入れた団交には、一応形だけは応じるふりをするがノラリクラリ対処する。“有期雇用なので更新拒否に理由は必要ない。内職の件は、区に説明して理解してもらった”と、うそぶき、組合が要求したことへの回答とか文書提出はすべて拒否するという対応を取りました。


③労働基準監督署(労基署)へ不当解雇と最低賃金法違反を通報

 もう一つは労基署です。労基署にも不法行為の中止の進言をしたら解雇されたと告発に出向きましたところ、対応した係官は、労働契約法の範囲内でしか指導できないとのこと。(1年ごとの契約なので、雇用主である会社は、単に契約を更新しなかっただけで、解雇ではないと主張すれば、労基署は、違法認定するのは困難)

 館長はじめほぼ全員が非正規で働いている指定管理の図書館で、労基署がこういう対応をすると、中でどんな不法行為があっても指定管理者のやりたい放題になってしまいます。

 時給180円で働かされたパート従業員に対する労基法違反についても、被害者本人からの申告がないと動けないというのです。しかし、本人からの申告は無理です。なぜなら会社が非常に強いプレッシャーをかけていて、うちの妻が告発しようとした次の週にミーティングをやって、全員に内職の実態について内申書みたいなものを出しなさいというパワハラをしていました。するとみなさん“私は最低賃金未満で働かされました”という事実を言えなくなって、申告も出来ない。もし、申告したら、妻と同様に契約更新を拒絶されかねません。

 ここは非常に難しいところでした。労基署は、妻からの申告を第三者からの通報として“一応受理はするけれども、結果はどうなるかは分からない”というような対応でした。
 その結果、“下手に正義感を発揮して、告発はしたけれども、告発者は一切守られない。権利回復は、ほぼ絶望的”というよう最悪の事態になりつつありました。

(「図書館で起きた時給180円事件(2)」につづく)


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