2018年12月19日水曜日

「大家さんと闘うボク」(2)

家賃は今すぐ下げられる
(発行:三五館シンンャ/発売:フォレスト出版)より



 こんにちは、日向です。

 先日の 「大家さんと闘うボク」(1) に続いて、本日も、拙著の告知をさせていただきます。

 先月刊行された『家賃は今すぐ下げられる』(発行:三五館シンンャ/発売:フォレスト出版)では、担当編集者N氏の実体験を事細かにレポートしています。






 顧問弁護士が何人もゾロゾロと出てくる大手サブリース会社と家賃値下げ交渉をしたN氏は、ある一言によって、それまで劣勢だった交渉の局面を一気に打開しました。

 そのときの交渉材料のひとつが更新料でした。

 その顛末は、本書をお読みいただくとして、今回は、この更新料の法的効力について解説した本書から一部、ダイジェスト(というより、こちらのほうが長い)にしてご紹介したします。






●更新料を払わないで訴えられたらどうなる?

 平成23年7月の最高裁判決によって「更新料は有効」との判断が示された。それまで「法的根拠がない更新料を請求するのは違法行為で無効である」との判決が何件か相次いでいた流れを根底から覆したもので、これにより「更新料は必ず払わないもの」との論調が勢いを増した。
 しかし、知っておきたいのは、このとき最高裁は、単に「更新料は有効」と認めただけで、「更新料の支払い義務」を無条件で肯定しているわけではないということ。

 まず第一に、「更新料が有効」とされるのは、1.高額すぎない(1年更新で3か月未満)、2.法定更新の場合にも更新料は払うと契約書に予め記載されていた--の2条件を満たしている場合に限ると言う基準が示された。
 ということは、契約書に明記されている1カ月分程度の更新料は、払わないと大変なことになると思いがちだが、現実には、そうとは言えない。

 大家側は、「更新料を払え」と店子を訴えることはできる。また、店子の更新料不払いを理由に契約解除を求めて提訴することもできる。しかし、そのことと、裁判所が「家賃高いと文句ばかり言ってないで、店子は、いますぐ更新料を払え」とか「更新料を払わないような店子は契約解除して叩き出しても良い」と言う判決が出ることとの間には、まだ大きな乖離があると言わざるを得ない。

 裁判所は、双方の事情を詳しく聞いたうえで慎重に判断することになる。その過程において「家賃高すぎる」との主張も店子側はおおいに展開できる。途中で裁判官から、更新料を払うかわりに家賃を世間相場まで下げる和解案が示される可能性も高い。そうなったら大家側にとっては、提訴は、完全に薮蛇だ。なので大家側は、まず提訴してこない。

 もし、敗訴となったとしても、その時点で更新料を払えば済むだけの話である。(請求時からの金利が加算されるが、元の額が数万円なので、加算額は、せいぜい数千円程度)
 立場の弱い店子保護の借地借家法の精神から鑑みて、単に家賃減額交渉がまとまるまで更新料支払い猶予しているだけの店子との「契約解除」を裁判所が安易に認めるとは考えにくい。

 それにもかかわらずネットの記事などで、「更新料を支払わないと、裁判に訴えられたら必ず負ける」とか「契約で定められた更新料の支払を店子が拒否したら、契約解除される」などといった大家寄りの発言をする弁護士(不動産業界の利害関係者)も少なくないので、そのような言辞に騙されないよう、くれぐれも注意したい。

●更新料請求は違法!

 「更新料は有効」として平成23年7月の最高裁判決の至った背景を解説しておこう。
大前提として、忘れてはいけないのは、この判決が、店子は大家に更新料を払えというものではなく、すでに店子が払った更新料を大家は返還しなくていいよというものであった点である。

 その数年前から「更新料を請求するのは違法行為で無効である」との判決が各地で相次いでいた流れからすれば、このとき、いよいよ最高裁でも同じ判断が下されるのではないかと、世の不動産事業者たちは、戦々恐々として見守っていた。

 ところがふたをあけてみれば、「常識的な範囲内で、契約にも定められていれば有効」という肩透かしを食らわすような結果になったのだが、この判断は、更新料の積極的な肯定ではなく、すでに払った分を返還しなくていいよという消極的な更新料の肯定だったのだ。

●サラ金を壊滅させた“鬼平判決”

 同じような話をみなさんもどこかで聞いたことがあるはず。そう、サラ金の過払い請求である。
 本来、法律で定められた利息制限法(改正前10万円以上100万円未満は18%)を超えた違法な金利を取っていると、法的には超えた分は返還せよという判決が出るはず。ところが、利息制限法超であっても、違反すると刑罰が課せられる出資法(改正前29.2%・最高40%)未満であれば、たとえ違法無効であっても、債務者が返済した分は返還しなくてもいいよという「みなし弁済」を認めていた。

 この利息制限法超・出資法未満の「グレーゾーン金利」で、サラ金は大儲けしていたのだ。契約書面・領収書面を交付していて、その契約のもとに債務者が任意に超過利息を支払っているのであれば、合法であると裁判所がお墨付きを与えていたからだ。

 ところが、2006年1月に突然、最高裁が法解釈を厳密に行って、この「みなし弁済」を認めない判決を出した。それまで法律が求める要件をすべて満たした貸し付けを行っていて、裁判をすれば連戦連勝だった貸金業者が敗訴したことで、業界は大混乱に陥った。

 以後、過払い請求が激増。訴訟になると貸金業者はことごとく敗訴。武富士をはじめとしたサラ金事業者は、壊滅的な打撃を受け、まるで氷河期に突入したときの恐竜のように、たった数年で次々と倒れていった。(逆に、弁護士激増で瀕死寸前だったはずの法曹業界は、おおいに潤った)

●ネット記事で洗脳する「お抱え弁護士」

 さて、賃貸住宅における更新料も、そうした文脈でみると、賃貸にかかわる不動産事業者にとって、更新料の有効性を問う裁判は、サラ金のグレーゾーン金利の再来のようにみえていたはず。件の最高裁判決が出るまでは、戦々恐々だったわけだ。

 来島氏がコメントしている通り、もし、最高裁が「更新料は無効」などと判断したら、過払い金請求と同じく、過去にさかのぼって、日本列島のありとあらゆる賃借人たちから、すでに払った更新料を返せと一斉に請求されかねず、サラ金業者のように殲滅まではいかないにしても、賃貸業界は、かなり大きな打撃を受けたはずだ。

 ところが、結果は「消極的な肯定」だった。最高裁も、更新料が無効との判決を出したときの不動産事業者への影響の甚大さも考慮したはずで、ドラスチックな変更は避けたというのが大方の法律家の見方だろう。

 「消極的な肯定」ではあっても、最高裁が更新料を「有効」であるとの判断を示したのも紛れもない事実。当然、賃貸事業にかかわる不動産事業者の利害関係者たちは、これを機に「更新料は支払い義務のあるもの」というキャンペーンを張りだした。ネット記事の多くは、不動産会社のスポンサードのため、あっというまに世間では「法定更新しても、更新料の支払い義務はある」という論調が定着した。

 しかし、積極的な肯定、つまり、大家側が更新料を請求して、それを店子側はあらかじめ契約で合意していたんだから、無条件で払いなさいという判決が出ているわけではない。
 なので、家賃減額交渉を行っていて、その交渉が決裂したために、やむなく更新料の支払いを猶予しているケースでも、裁判所が払えという判決を出すか、さらには更新料不払いを理由に契約解除を認めるかどうかは、かなり怪しいと言える。

 もし、そのような店子敗訴の判決が出たとしたら、実質的に、弱い立場の賃借人を保護する借地借家法の精神を大きく逸脱してしまうからだ。これでは、法律との整合性がつかない。

 サラ金の「みなし弁済」のときのように、事業者側が調子に乗って、債務者を次々と提訴すると、それまで「消極的な肯定」をしていたにすぎない裁判所が、弱い立場の賃借人を保護するために、突然、事業者側の契約手続きに、より厳格化を求める可能性も捨て切れない。

 だから、サブリース大手も含めた大家サイドは、「更新料を払え」という「積極的肯定」を求めた訴訟は、まずしてこないのではないかと筆者はみている。

 業界の賢い弁護士は、サラ金の二の舞いにだけはならないように静かにしているべきと考えているはず。一方で、「更新料は支払い義務あり」と言い続けるのがいちばん効果的だと認識していて、いまのところその戦略は、見事に成功していると言える。世間はそれをなんとなく受容してしまうからだ。。

 以上のようなことから、店子サイドは、闇雲に更新料を不払いにするのではなく、家賃減額交渉を行ったうえで、その交渉が決裂したためにやむなく更新料の支払いを猶予しているというスタンスをとり続けることが重要であると言えるだろう。


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