2024年10月25日金曜日

“黒塗り”をください♪

 

こんにちは、日向です。


本日も、新刊のテーマである「黒塗り公文書」についての話題をひとつ取り上げたいと思います。



「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)




行政について知りたいことを自治体に開示請求(申出)すると、ふつうは、担当課が該当する文書を探してくれて「こういうのがありましたよ」と、公文書が開示されるわけですが、


個人情報だったり、民間の企業秘密だったりする箇所については、例外的に非開示にしてもいいとされている条例の規定にのっとって(現実には、この例外規定を拡大解釈して片っ端から)黒塗りされて開示されるようになっています。


ところが、まったくもって本末転倒なのですが、この手続を真逆にして、いきなり自治体に「黒塗りした文書を出してください」という、おかしな開示請求をしたことがあります。


下をみてください。


これがその開示請求に対する回答です。





公開を拒否する


となっていて、その理由として


「保存期間を過ぎたことで廃棄しており、不存在のため」


と書かれています。


ほかの自治体でしたら、単に「非開示」と回答するところを、わざわざ「公開を拒否する」という強い調子のフォーマットになっているのは、神奈川県平塚市です。



ちなみに、私が開示請求をしたのは、すでに平塚市が市民へ黒塗りで開示した文書と、その市民が審査請求をした結果、黒塗りが一部外された文書をセットにしたもの。


要するに、開示された黒塗り文書に不服の申立がされ、審査会による「黒塗りは一部外して開示しなさい」という答申を受けて、実施機関(自治体の担当課)が渋々開示した案件について、


その開示までのブロセスが一通りわかる文書を全部出してください、と請求したわけなんです。


結果は、すでに捨てちゃったので、開示できません、というものでした。



市民から不服を申し立てる審査請求を受けて、専門家が開示の是非を検討した情報公開審査会による答申は、情報公開の担当課のページに、キチンと公開はされていましたが、そこには、当初黒塗りされた文書はもちろん、審査会の答申を経て、一部黒塗りが外された文書も掲載されていませんでした。


大半の市町村では、役所は情報公開制度運用のために専任の職員を配置して、市民の要請にも丁寧に答えているかのような体裁をとってはいるものの、その世界に一歩足を踏み入れてみると、とんでもなく内実を伴わない酷い運用実態だということがわかってきました。


いったいなにを黒塗りして、その後、なにが開示されたのかという事件の全容がほとんどなにもわからないようになっているんです。担当課としたら、批判を受けそうなヤバイ文書は、一刻も早く廃棄したいでしょうから、結論が出たあとから、ノコノコと第三者が開示請求なんかしたって無駄だったんです。



なんでこんなことをしたのかといいますと、新刊を書くにあたって、自分が日常的にやりとりをしているツタヤ誘致自治体に限らず、全国で起きている黒塗り公文書が出た事件をなるべく多く集めて分析してみたいと思ったからです。


全国各地で出された黒塗り公文書を調べているうちに、神奈川県平塚市で、黒塗りが外れたケースがあったことを2017年11月の毎日新聞が報じていたことを知ったのがきっかけでした。


平塚市の情報公開について報じた2017年11月の毎日新聞の記事。有料会員になって該当記事を探したがみつからなかったため、毎日新聞に問い合わせたところ、地方版の記事であることが判明。






東京都の葛西臨海水族園のように、改修計画に関して大量の黒塗り公文書が開示されたことが、すでに大きなニュースになっている場合は、その事業プロセスがわかるものとして開示請求をかければ、黒塗り文書だけは入手できます。


ところが、平塚市のように、すでに審査会をへて黒塗り部分が一部開示になった文書というのは、どこにも公開されていないうえ、すでに文書そのものも廃棄されているなど、当事者でないと、なかなか入手できないんですね、


世の中には、役所が黒塗り文書を出してくる事案は無数にありそうだから、いろんなケースの黒塗り文書を入手して類型別に分析・研究することができるはずと思っていた私の考えが浅はかだったということを痛感する結果となりました。



そこで、平塚市でこの公文書を請求した問題に関与している市民団体を探して、その関係者の方にお願いしてみることにしました。


黒塗りされた公文書の事案について、snsなどで情報発信をされている市民団体の関係者の方に、「開示された文書をみたいのですが、どなたか、それをお持ちの方をご存じないでしょうか?」という旨を依頼したメールを出してみところ、


幸運にも、すぐに「わかりました。探してみます」とのご返事をいただきました。それから一週間ほどした頃に、当初黒塗りされた文書と、審査請求を経て、黒塗りが一部外れた文書のコピーをセットでお送りいただいたという経緯でした。


下をみてください。まず、これが当初黒塗りで出てきた文書の一覧です。




企業の提案書の一部らしく、肝心の箇所は、ことごとく黒塗りされていました。


そして、審査会にかけられた結果「こんなに黒塗りするのは不適切、ココとココはちゃんと開示しなさい」と言われた結果、出てきたのが、以下の文書です。





ほんの一部だけ抜き出したものなんですが、黒塗りされているから、さぞや人に知られたら困る重要な内容が書いてあるのかと思ったら、なんのことはない、ほとんどが、ただの配置図でした。


えっ、こんなものが企業秘密?


そう目を疑うものばかりでした。



最近はツタヤ自治体でも、よく取り入れられる「マーケット・サウンディング調査」という名目で、企業側が気軽に自社のアイデアを提案できる手法。「対話」を通じて市場性等を把握するのが目的で、正式なプロポーザルではないとされているためか、多くの自治体では、幅広く、いろんな事業者から、施設活用などについてカジュアルにアイデアを募集している手前、それがすべて市民に開示されるのはマズイという気持ちになるのはわからないでもないです。


しかし、だからといって、企業秘密でもなんでもないものまで、ことごとく真っ黒に塗って出してくるというのは、いかがなものかと思いますね。


そういうふうに闇雲に黒塗りするのは、あきらかに条例の主旨に反するので、一部は開示しなさいと、平塚市情報公開審査会が答申を出してくるのは、当然と言えば当然のことなのでしょう。


このへんの詳細については新刊で、専門家の見解を詳しく解説していますので、興味のある方は、ぜひ平塚市情報公開審査会の答申内容とともに、そちらをご参照ください。



 さて、平塚市の市民の方が開示請求して黒塗りになったのは、どういう事案だったのかということも文末に簡単に説明しておきます。(新刊の草稿の一部。ページ数オーバーのためゲラで一部削除した文章です)


 一言で言えば、いま全国各地で行われている「稼げる公園」プロジェクトです。ちなみに、平塚市のこのプロジェクトは、市民団体の方々の運動のかいあって、いまだに市長の思う通りには進んでいません。


【平塚市で起きた黒塗り公文書事件】

 平塚市は、2017年に、国道134号線沿いの海岸林を含む公園整備計画を発表した。もともとは、市民から要望のあった、プール跡地を整備する計画だったが、Park-PFIの制度を利用するために、一定以上の面積が必要だったため、隣接する海岸林エリアを対象区域に加えることで開発面積の基準をクリアする計画案を作成した。これが不幸の始まり。

 海岸林は、大規模な地震による津波から住民を守り、また海岸の塩・砂・風を防ぐ防砂林としての機能を長年果たしており、またその景観も市民にとっては、貴重な財産である。それにもかかわらず、市長がロクに市民の意見も聞かずに、海岸林エリアの樹木を伐採して、なにもない無味乾燥な公園にしようとしている。そんな計画を市民は了承していない。そう思った市民団体が、署名活動などの反対運動を繰り広げるに至ったのである。

 この事業の経緯のなかで、とりわけ興味深いのが公文書の開示問題だった。ことの経緯に不審を抱いた市民が2018年10月12日「平成29年度実施 龍城ケ丘ゾーン公園整備に関るマーケットサウンディング結果に関する資料一式」を市に対して開示請求したところ出てきたのが下の画像の書面である。

 ざっくばらんに事業者の意見を聞くサウンディング市場調査という手法ではあるものの、中身は正式な提案書となんら変わらない。

 平塚市は、その提案書のなかの建築物及び駐車場の配置を示すイメージ図を丸ごと不開示とした。

開示しなくてもよい例外として条例に定められている「提案した法人の競争上の地位その他正当な利益を害する」(要するに企業秘密)を根拠にした不開示だった。

 請求者がすぐに「不開示はおかしい、すべて開示すべきだ」として、不服を申し立てる審査請求を行なったところ、平塚市の情報公開審査会にかけられた。弁護士など有識者によって構成される審査会が審議した結果、翌年2019年4月24日、市が丸ごと非開示とした「建築物及び駐車場の配置を示すイメージ図」を開示すべきとの答申を出したのだった。


「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)




※今回のタイトルは、「水割りをくださーい♪」で有名な“メモリーグラス 堀江淳 1976年 ”(https://www.youtube.com/watch?v=R3Hxw7SU4qk)から着想しました。

2024年10月15日火曜日

集英社オンラインで新刊が紹介されました


 こんにちは、日向です。


本日は、ちょっとしたお知らせですが、さきほど拙著新刊の内容をダイジェスト版にした集英社オンラインの記事がリリースされました。




東京都は「黒塗り」、神戸市は「白塗り」…行政が秘匿し続ける公文書“のり弁”問題の理不尽さ


いまのところ同サイトでは、3本の関連記事が予定されていて、今回のものは、その第一弾です。(スムースにいけば、明日以降つづけて、残り2本もリリースされるはずです)


第3者による、本の紹介・書評ではなく、あくまでも拙稿ををダイジェストにしたものですから、これを読めば本一冊読まなくても、だいたいの内容がわかるんじゃない?


そう思われる方も、きっと多いはず。しかし、拙ブログの読者の方からしたら、この記事だけでは、やはり物足りないのではないかと思います。


といいますと、ツタヤ自治体のややこしい部分は、あとからほんの少しだけ出てきますが、CCCおよびツタヤ自治体批判につながりそうな部分は、ダイジェストでは、なぜか避けられているんですね。(10/16追記 ダイジェスト第2弾の記事で、和歌山市の情報開示が取り上げられています)


おそらく、同サイト編集部の方がダイジェスト版にしていただく際に、公文書開示制度の実態が端的に書かれている部分だけを抜き出すと、結果的にそうなってしまったんだろうと思います。


この本の“裏テーマ”は、あらためていうまでもないことですが、「ツタヤ図書館問題」です。


そもそもこの本を企画したのは、ツタヤ図書館問題に深く切り込むためだった著者としては、ダイジェストは、なんか気の抜けたソーダといいますか、いまいち自治体と企業との癒着についての理不尽さが物足りないように思いました。


2013年にカルチュア・コンビニエンス・クラブという私企業が全国各地の自治体と一緒になって始めた公共図書館運営が、どれだけ市民無視で進められてきたのか、そこでメディアが「素晴らしい試み」と賞賛したことで、ほとんど顧みられることがなかった負の部分をすべて覆い隠したのが、大量の黒塗り公文書だったという核心部分については、やはり本書を読んでいただかないと、いまいち伝わらないのかなぁという感想です。


なんか宣伝ぽくなってしまって、すみません。


まあ、そうは言っても、ダイジェスト版は、自治体の情報開示について、これまであまり関心を持ってこなかった人にとっては、ひととおり、その実態を知っていただくには、またとない記事であることは間違いありません。


よろしくお願いいたします。


【10/16 13時追記】 ダイジェスト版の第2弾がリリースされました。

なぜ国や自治体の情報公開制度は“全面黒塗り”ができるのか…現場の裁量で開示拒否できるデタラメ行政の実態


【10/17 14時追記】 ダイジェスト版の第3弾がリリースされました。

全国の自治体への開示請求のうち約半分が「黒塗り・非開示」!? どれだけ隠されていても、その判定が覆る可能性はゼロになる場合も…




「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)




【関連記事】


2024年10月10日木曜日

1200枚の図書原簿に埋もれていた不正処理の痕跡~カルチュア・コンビニエンス・クラブの顛末書を公開~

 

こんにちは、日向です。


先日来、しつこくお知らせしております新刊『「黒塗り公文書」の闇を暴く』が、いよいよ明日10月11日金曜日に発売になります。




それに先立ちまして、いつものようにビジネスジャーナルへ関連記事を寄稿するつもりでしたが、諸般の事情により、記事掲載が明日の発売日に間に合わない状況になってきました。


そこで、その記事全文を、急遽当サイトに掲載することにしました。


内容は、公文書の黒塗りではなく「不存在」についてです。新刊に書いた内容のダイジェスト版と言いたいところですが、


実は、新刊から一部抜粋した内容に、大幅に肉付けしまして、こちらのほうが詳しい読み応えのある記事になってしまいました。


これまで当ブログにも発表していない、CCCが犯した不始末についてのスクープです。


2020年6月のオープンからほぼ2年間、一度も除籍をしなかったCCCの図書館運営を追いかけているうちに遭遇した不可解な事件。


お時間のあるときにでも、じっくり読んでみてください。


よろしくお願いいたします。



■1200枚の図書原簿に埋もれていた

不正処理の痕跡■


~カルチュア・コンビニエンス・クラブ

の顛末書~


 役所の情報公開において、“黒塗り”だらけの、いわゆる「のり弁」よりも、場合によっては、はるかにタチが悪いのが「不存在」である。“黒塗り“は、たとえ一部でも、何かが書かれた「紙」があるだけマシで、黒塗りされていない箇所から、ほんのわずかでもなにかを読み取ることはできるが、「不存在」は、最初から「紙」がないので、どうしようもない。

 なかでも究極の「不存在」が、「作成したけど、出すとヤバイので『ない』と言い続けてきたけど、あった」パターンである。


 国政で言えば、自衛隊の日報隠蔽問題。2016年にジャーナリストの布施祐仁氏が自衛隊がPKO部隊を南スーダンに派遣していた際の日報を開示請求したところ、既に廃棄したとされていたのに、再調査の結果、統合幕僚監部に電子データとして残っていることが判明。さらにその後の特別防衛監察の結果、陸上自衛隊が保管していたこともあきらかになった。


 2017年の加計学園の獣医学部新設問題も、同じパターンだ。内閣府から「総理の御意向だと聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」と言われた文科省の文書が一度は怪文書扱いされたが、その後、文科省の複数の部署で共有されていたことが判明した。そのほかにも、森友学園の国有地払下げに関する交渉記録など、2016年~2020年にかけて、立て続けに起きた公文書問題は、いずれもこのパターンだった。ほとんどは、いくらジタバタしても「ないものはない」とされてしまうが、たまに「ない」とされたものが「ありました」となると、役所はいつもそういう隠蔽工作をしているのかと不信感を募らせてしまう。


 この「不存在」は「市民への情報開示を頑なに拒絶している」という意味では、“黒塗り”とまったく同じである。文書の存在そのものが消されてしてしまう「不存在」は、いったい何を物語っているのか、筆者が体験したツタヤ図書館(民間企業が公共図書館を運営)を誘致した和歌山市のケースをみていこう。


「不存在」のはずが、なぜか出てきた重要資料


 まず、下をみてほしい。これは、2023年7月7日付で筆者が和歌山市に行った情報開示申出についての回答である。

「2020年4月1日~2021年3月30日に蔵書の除籍に関連して作成された一切の書面」とした件について、和歌山市教育委員会は、「不開示」(不存在のため)の決定を出している。

 実は、この開示申出書を送った当日に、担当課長から電話で同じ内容の回答をされていたのだが、そのことを正式な文書にするため、わざわざ情報開示申出に切り替えて「不存在」の回答を証拠に残すことにしたのだった。

 というのも、筆者は、さまざまな観点から、この2年間に、CCCが運営する和歌山市民図書館において、除籍関連の資料が、ただの1枚も作成されていないことなど、ありえないと思っていたからだ。


(キャプ)「202041日~2021330日に蔵書の除籍に関連して作成された一切の書面については、作成していない」と和歌山市教委名で回答していたが、それはウソだった。





 そんな筆者のカンは的中した。それから半年後の今年1月、筆者は、別件で開示された公文書の内容に疑義があったため、追加で開示申出を行ったところ、3月下旬になって4枚の文書が開示された。

 この文書のなかには、20204月、和歌山市民図書館・西分館で起きた図書館の除籍に関する顛末書が含まれていた。つまり、昨年7月に「不存在」とされた期間中の除籍関連文書が、なぜか出てきたのである。


カルチュア・コンビニエンス・クラブ社員の顛末書


 改めて開示文書をみてみると、吃驚仰天するような内容が含まれていた。「顛末書」と題された文書には、2020年3月に同館が新刊で受入した児童書『かえるの天神さん』について、版元から「編集上の瑕疵があった」として返本要請を受けた同館の職員が無許可でその要請に応じてしまったことの経緯が書かれていた。

 受け入れた資料の提供を中止する場合、必ず教育委員会の決裁を経る手続きをとらないといけないが、CCCが運営する和歌山市民図書館・西分館では、そうした手続が取られていなかったのだ。

 なんらかの瑕疵があって版元の回収要請に応じるのは当然と思われるかもしれないが、図書館には、一度提供すると決めた資料は、めったなことでは停止・中止してはいけないという不文律がある。どこかから本の内容にクレームがつくたぴに資料の提供をやめてしまうと、『図書館の自由に関する宣言』でうたわれている「資料提供の自由」を、たちまち侵害してしまうことになるからだ。図書館は、国民の知る権利にこたえることが求められている民主主義の砦のひとつなのである。


 事実、周辺自治体を調べてみると、海南市、御坊市、田辺市の図書館では、このとき、いずれも当該図書は所蔵されていて、和歌山市のように返本に応じていない。


(キャプ)2020515日付で市教委の許可を得ずに、CCCが返本してたことの経緯を書いた顛末書と、それに付随した除籍選定リストが作成されていた。





 当該書籍をCCCが返本していたことがわかった後、版元があきらかにしていなかった回収理由が図書館関係者の話から、わかってきた。

「菅原道真をかえるにたとえたことを理由として、北野天満宮の代表者から(回収の)申し入れがあったようです。作者の息子さんの当時のフェィスブックによると、作者としては納得がいってない、とのことです」 

 タブーにふれたのだろうか。第三者から本の内容についてなされたクレームに対して、ここまで版元が敏感に反応するのは異例中の異例だが、さらににその版元からの返品要請に図書館サイドが、ホイホイ応じたのだとしたら、由々しき問題ではないか。

 このことが課内で発覚した際には、大騒ぎになったはず。やらかしてしまったものはしょうがない。CCCが市教委にこの経緯を報告した顛末書を提出して、一件落着としたようだ。もちろん、そのようなことがあった事実は一切公表されず、顛末書の存在すらも隠されていた。何もなければ、CCCの不始末は、永遠に市民には知れることはなかっただろう。

 CCCでは、日常的に市教委に許可を経ないで蔵書を除籍する行為が横行していたのだろうか。市教委が指定管理者のガバナンスを完全に失ってしまっていることを、はからずも示した事件となったのである。


(キャプ)和歌山市民図書館西分館の図書原簿。版元から返本要請のあった図書の欄に手書きで「返本」と書かれていて、その処理をした日付スタンプ(令和2年4月21日)が押されていた。この情報をもとに「返本の経緯が分かる文書及び根拠を示す文書」を開示申出したところ、CCC提出の顛末書が開示された。



担当課長自らが「大ウソ」をついていた?


 この顛末書は、筆者がたまたま関連した事件を追いかけるうちに出てきたものだった。

 20236月、筆者は、和歌市民図書館が移転したときの引っ越し作業等で、大量の本がなくなっているのではとの情報をキャッチした。残念ながら、除籍関連の資料をいくら調べてみても、そのような事実を示す文書は確認できなかったのだが、そのプロセスにおいて、西分館の全蔵書データが入っている図書原簿約1200枚(2019-2020年度)を開示申出して調べていたところ、『かえるの天神さん』という児童書が「返本」扱いになっていたことをみつけた筆者は、「返本の経緯が分かる文書及び根拠を示す文書」を開示申出した。(この件については、昨年12月にビジネスジャーナル掲載記事和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で』)で詳しくレポートした)その回答として、20243月に開示されたのがこの顛末書だったのだ。


 担当の読書活動推進課では、それまで筆者が要求し続けていた特定期間中の除籍関連資料の存在を頑なに否定していた。筆者の開示申出に「不存在決定」の文書を出していたばかりか、担当課長が「その期間の該当文書はありません」と大見得を切っていたのだ。

 ところが、「返本」と手書きで記載された西分館の図書原簿のデータを突きつけられたら、辻褄の合う説明をしないといけなくなり、CCCの顛末書と関連の除籍資料を出ささざるをえなくなったのだ。

 つまり「その期間中の除籍関連文書はない」と担当課長自らが大ウソをついていた事実が確定したわけだ。


除籍手続せず、不正処理をしたのは誰なのか


 開示された図書館原簿と顛末書の内容を詳しくみていくと、さらなる疑問が出てきた。

 「版元に返本した」とされる当該書籍が、正式に除籍された記録がないのである。開示されたのは、該当箇所に「返本」と手書きのうえ日付スタンプが押された図書原簿、除籍候補に関する「選定資料リスト」、「除籍予定リスト」の3点。その前にあるはずの「除籍してもよろしいでしょうか」とした伺い文書はもちろん、肝心の除籍が決裁された文書がどこにもないのである。


 また、版元に返本した後、版元から書籍の代金2200円が現金書留で返金されたと顛末書に記載されていたが、そのお金をどのように処理したのかも不明なままだ。

 顛末書には「出版社より届いた現金は、全額本年度の図書購入費とします」と書かれているが、本当にそのような処理がされたのか、もしされたとしたら経理上はかなりややこしいことになるはず。ある図書館関係者は、この開示文書をみてこう訝る。


「図書館が購入にあたって支払った額は2200円ではありません。本体にブックコートを施し(分類)ラベルを貼付した加工品として書店から納品されますので、定価では支払っていないはず。しかもその2200円はどういった会計処理になるのかの説明がありません。また、当該書籍はシステム上は除籍されているのに、誰がなぜ原簿に『返本』と記載したのかもあきらかになっていません。もしそれをCCCが行っていたとしたら、(返本した行為とは別に)、これまた指定管理仕様書に違反した行為になります。それらの説明資料は必ずあるはずです」


 そこで筆者は、3月末に開示されてすぐ、(1)版元からの返金はどのように経理処理したか(2)除籍決裁がなぜないのか(3)顛末書等を開示しなかった理由を説明した文書--などについて追加の開示申出を行ったところ、527日付けで回答がきた。


 開示されたのは、令和2年度の決算報告書のみ。回答の備考欄には、収支報告書の図書購入費の決算額がが48,027,069円と、予算額48,000,000円よりも返本代金2200を大きく上回る金額となっていることから、顛末書の記載通り「令和2年度の図書購入費に充当されている」と報告を受けている旨が書かれていた。

 要するに「どのような経理処理を行ったのかは詳しくは把握していないが、返金分以上を追加で図書購入費にあてているようだから、それでいいんじゃない?」と言っているのである。

 肝心の除籍決裁の書面が不存在であることの理由やその経緯を説明した文書はすべて「不存在」だった。


国民共有の知的財産を隠蔽するツタヤ図書館


 不開示の理由の欄には、こう書かれていた。

「~指定管理者から顛末書を受け付けた後、本来は除籍の決裁を経て図書原簿に『除籍』と記載すべきでしたが、図書原簿に『返本』と記載した処理としていました。したがって、除籍に関する公文書は不存在になりますが、システム上は除籍の処理をしていました」


 「図書原簿に『返本』と記載した処理」をしたのはいったい誰なのか、CCCの社員なのか、それとも担当課の職員なのかすら不明のままである。

 結局、和歌山市教委は、CCCから提出された書面のみ開示し、自らことの経緯を説明した文書はただの一枚も開示することはなかった。

 当然、この件に関して、CCCとやりとりをした記録や会議録、報告書などは逐一作成しているはずだが、それらはすべて「不存在」だという。


 前出の図書館関係者は、和歌山市教委の一連の対応こう批判する。

「公文書管理法では、公文書を『健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的財産」と位置付けており、これが守られないと行政としては失格ということになりますし、その責任は重大です。今回、市民の開示請求に対してCCCの顛末書等を不存在とした件については一定のけじめが必要でしょう」

 言い逃れができなくなって渋々出してきた文書についての説明すら、頑なに拒否し続ける和歌山市教委のふるまいは、果たして、社会教育をつかさどる行政機関の名に恥じないものと言えるのだろうか。


【筆者からお知らせ】以下のタイトルの新刊が1011日に朝日新聞出版から発売されます。ビジネスジャーナルに2018年以降、足掛け6年間にわたって寄稿させていただいたツタヤ図書館問題に関する記事の内容を公文書開示の視点からまとめたものです。ご関心のある方はぜひ、一度書店で手にとってみてください。


「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)





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2024年10月9日水曜日

新刊に書けなかった“黒塗り率”の秘密

 

こんにちは、日向です。


新刊を出すときは、いつも「あれがああなったのは、実は、こういう事情があったからなんですよ」というエクスキューズ(要するに言い訳)を書きたかったのに


結局はどこにも書けなかったなぁと、心残りに思うことがあります。今回も、そういうのが、いくつかありました。


そこで、本日は、新刊についての言い訳をひとつだけ書いておきたいと思います。



今度の新刊のオビには、こう書かれています。


黒塗り率92%!


いったい、何を、


そんなに隠したいのか?





拙ブログの読者の方は、すでにおわかりのように、


これ、2018年に和歌山市がツタヤ図書館になる新市民図書館について私に開示した公文書のことです。


これまで、ブログやビジネスジャーナルの記事でも、さんざん書いてきたように、開示した文書のほとんどが黒塗りされていて、その公文書の黒塗りされた率が9割を超えていたということなんです。


これみて、あれっ? 和歌山市の黒塗り率って、もっと酷かったんじゃあなかったっけ?


そう思った人は、ピンポンです。



2018年9月に、ビジネスジャーナルへ寄稿した記事では、こう書いてました。


下の写真は、総額64億円の補助金が投入される、ある自治体のプロジェクトにおける関係者会議の議事録である。筆者が4月20日に開示請求を行い、45日の延長の末、事務手続きを経て7月4日にようやく入手した。


 開示された1400枚超のうち、全面黒塗りが1000枚超。黒塗りとなっている割合(黒塗頁数/全頁数)を計算してみると、97.91%に達する。

https://biz-journal.jp/journalism/post_24752.html

和歌山市、ツタヤ図書館に64億円税金投入…関連文書の情報開示請求に全面黒塗りで回答) 


いつのまにか、97%が92%と、5%も減ってしまったのは、どうしてなの?


そう思いますよね。


事情を説明しておきますと、本に書くにあたって、改めて黒塗りされた文書のページ数・行数を数え直し、黒塗り率をより正確に計算し直したら、こうなったんです。


原因は、図書館設計会議に出されていた図面が黒塗りなしで出ていて(同時期に開催された調整会議の添付図面は全面黒塗りでした)、それを換算し忘れていたことや、


一部黒塗りされたページにおける黒塗り率を計算するにあたって、分母となる1ページあたりの行数を40行としていたのを、より実態に即して30行に変えたことなどです。(会議録本体は1ページあたり40行の書式で作成されていたが、冒頭のヘディング部分や見出し、スカスカの議事次第などを考慮して1ページ30行とした)


後者については、1ページのうち10行読める部分があった場合、分母を40行とすると0.25ページとして換算するところを、分母を30行とすると0.33ページとなり、


全体のページ数が多いだけに、黒塗りされていないページ数が少し増える結果となったというわけなんです。



でも、実際に本に掲載して、こうしてカバーやオビでも、大きくこの数字を取り上げてしまうと、この膨大な黒塗り文書と格闘してきた著者としては、なんとはなしに違和感を覚えるんですね。


私の実感としては、あのとき和歌山市が開示した文書の黒塗り率は「92%」よりも「97%」のほうが、しっくりくるといいますか、事実に近いんじゃあないかと、いまも思っています。



そこで、校了直前になって、改めていくつか黒塗り率を換算するルールを変えて、換算し直しました。


結果は、黒塗り率約95%となりました。当初の97%よりもやや低い数値にはなりましたが、それでも少し私の実感に近づいた感じです。


改めて換算するときに、どういうふうにルールに変えたかといいますと、たとえば、見出しだけあって本文がすべて黒塗りされている箇所でも、従来はその見出しの行数のみ、開示行数に換算していましたが、実質の開示率は0パーセントですので、換算し直す際には、開示行数ゼロとしました。(見出しと本文の両方がそろっている場合のみ、その両方を足した行数を一部開示と換算)


見出しと発言者のみ開示され、肝心の本文はすべて黒塗りされた会議録。当初、見出し部分のみ開示行数に換算していたが、実質的にはゼロ開示なので、こういう部分はすべて開示行数に換算しないようにした。


また、1ページの紙のなかで、黒塗りされている箇所はまったくないものの、数行のみ内容が書かれている文書については、従来は全面開示されたページと扱っていましたが、これも実態に即して、書かれた文の行数のみ「一部開示」として換算することにしました。


黒塗りがなければ、無条件で全面開示されたページとして換算していたが、余白が多い場合は、その文書の行数を「一部開示」ページとして換算した。



当初、1400枚のほとんどが黒塗りされているのは「図面が多いからでは?」と、和歌山市の担当部署に言われたことがありますが、肝心の会議録を詳しくみてみると、見出しだけは黒塗りなしでも、ほとんど全てのページの本文が「そこまでやるか!」と驚くほど、細かく丁寧に黒く塗りつぶされているんですね。

日時、開催場所、役所サイドの出席者のみわかるが、あとの会議の内容は、ほぼすべてが黒塗りされている会議録も多い。




ほんの一部、黒塗りされずに開示されている発言もあるが、意味不明。次回会議の日時と場所は、さすがに黒塗りされていない。



詳しくはぜひ、新刊を読んでいただければと思います。


ところで、改めて言うまでもないことですが、自治体の情報公開制度は、どこも原則は、「全部開示」です。


一部、個人情報や企業秘密など例外的に開示できない部分については、そこだけマスキングして開示しますよ


という建付けに情報公開条例はなっているはずなのに、和歌山市がこのときに開示した1400枚は、ほぼ黒塗りで、


ほんの一部例外的にちょろっとだけ、みせてあげるよ


というふうな真逆のスタンスだったわけです。


これはもう完全に情報公開制度の運用が間違っているといますか、ほぼ違法といってもいいような状態だったわけです。



さて、話を元に戻しますと、校了間近に、再度黒塗り率を精査し直して、実態としては92%よりも高い95%であることが判明したものの、それを盛り込むことは、時間的にはすでに不可能でした。


また、そもそも95%という黒塗り率についても、まだ確定的な数字とは言えません。といいますのも、A3版の図面なども1ページとして換算したものですが、その情報量の多さからすると、A3版は、2ページに換算すべきではないか、


黒塗りされていてわからないが、A3版に横書きで2ページ分の文書になっているものもありそうですから、それらをより正確に換算していけば、さらに黒塗り率は高くなるのではないのか(当初明示していた97%以上)とも感じました。


なので、今回の新刊で「黒塗り率92%」としたところは、意味としては


黒塗り率は「少なくとも9割超」で、ほとんどの箇所が内容を解読できないようにされていた


という意味で受け取っていただければと思います。



今後も引き続き、法令にのっとって、適切に情報を開示して、説明責任を果たしていきたいと思います


という役所サイドのテンプレ回答(定型的な言い訳)が嘘八百であることを、だれもが一目でわかる画像として、行政に突きつけているのが


黒塗り公文書


であるということが、本書をお読みいただければ、おわかりいただけるのではないかと自負しております。


よろしくお願いいたします。




「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)




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2024年10月7日月曜日

カバーデザインに隠された絡繰り

 

こんにちは、日向です。


先日お知らせしました新刊は、いよいよ今週末(10/11金曜日)に書店発売です。


見本刷りを版元からいち早く送っていただきまして、先週、早速開封しましたところ、本の装丁でちょっとビックリするようなことがありましたので、本日は、その点をご紹介しておきたいと思います。


下をみてください。




本来は地味な新書版のはずなのに、カバーがギョッとするような黒塗りイメージのデザインでしたので、


これは、なかなかめだつなぁと感心しておりましたところが、さらに、そこには、現物を手にとってみないとわからないカラクリがひとつ隠されていました。


よくみると、カバーの天地に、縦じまの模様が少しだけ、はみ出てているのがわかりますでしょうか。







なんかヘンですよね?


そう思って、カバーをとってみると、カバーの下にもう一枚カバーがあり、その模様が見慣れた朝日新書の統一デザインでした。






二重カバーなの?


と思いますが、そういえば、編集部から


“オビのデザイン案です”


として、送られてきた画像がこの黒塗りイメージ画像でした。


そう、カバーだと思っていたのが、実は、これ、オビなんです。ふつーの本のオビは下のようになっています。


こちらがフツーのオビ。本の下部に、着物の帯のように本体をグルリと巻いている。ここにキャッチコピーなどが印刷されているのが一般的。




“拡大オビ”といいますか、“全面オビ”といいますか、私も長年本の出版にかかわってきましたが、こんなカラクリのカバーは初めてみました。


一枚目のカバー(オビ)を外したところ


二枚目のカバー(これが本物のカバー)を外したところ


「全面黒塗りで開示された公文書の闇」をイメージしたつくりになっていて、これ考案した編集者(デザイナーさん?)は、エスプリがきいているといいますか、なかなか、こころにくい仕掛けを考えたものだと感心しました。


というわけで、本日は、中身の紹介ではなく、取り急ぎ、新刊のカバーデザインのみお知らせしました。

電子書籍も便利ですが、ぜひ、書店で手に取ってみていただれば幸いです。


よろしくお願いいたします。





「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)