こんにちは、日向です。
本日も、新刊のテーマである「黒塗り公文書」についての話題をひとつ取り上げたいと思います。
「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)
行政について知りたいことを自治体に開示請求(申出)すると、ふつうは、担当課が該当する文書を探してくれて「こういうのがありましたよ」と、公文書が開示されるわけですが、
個人情報だったり、民間の企業秘密だったりする箇所については、例外的に非開示にしてもいいとされている条例の規定にのっとって(現実には、この例外規定を拡大解釈して片っ端から)黒塗りされて開示されるようになっています。
ところが、まったくもって本末転倒なのですが、この手続を真逆にして、いきなり自治体に「黒塗りした文書を出してください」という、おかしな開示請求をしたことがあります。
下をみてください。
これがその開示請求に対する回答です。
公開を拒否する
となっていて、その理由として
「保存期間を過ぎたことで廃棄しており、不存在のため」
と書かれています。
ほかの自治体でしたら、単に「非開示」と回答するところを、わざわざ「公開を拒否する」という強い調子のフォーマットになっているのは、神奈川県平塚市です。
ちなみに、私が開示請求をしたのは、すでに平塚市が市民へ黒塗りで開示した文書と、その市民が審査請求をした結果、黒塗りが一部外された文書をセットにしたもの。
要するに、開示された黒塗り文書に不服の申立がされ、審査会による「黒塗りは一部外して開示しなさい」という答申を受けて、実施機関(自治体の担当課)が渋々開示した案件について、
その開示までのブロセスが一通りわかる文書を全部出してください、と請求したわけなんです。
結果は、すでに捨てちゃったので、開示できません、というものでした。
市民から不服を申し立てる審査請求を受けて、専門家が開示の是非を検討した情報公開審査会による答申は、情報公開の担当課のページに、キチンと公開はされていましたが、そこには、当初黒塗りされた文書はもちろん、審査会の答申を経て、一部黒塗りが外された文書も掲載されていませんでした。
大半の市町村では、役所は情報公開制度運用のために専任の職員を配置して、市民の要請にも丁寧に答えているかのような体裁をとってはいるものの、その世界に一歩足を踏み入れてみると、とんでもなく内実を伴わない酷い運用実態だということがわかってきました。
いったいなにを黒塗りして、その後、なにが開示されたのかという事件の全容がほとんどなにもわからないようになっているんです。担当課としたら、批判を受けそうなヤバイ文書は、一刻も早く廃棄したいでしょうから、結論が出たあとから、ノコノコと第三者が開示請求なんかしたって無駄だったんです。
なんでこんなことをしたのかといいますと、新刊を書くにあたって、自分が日常的にやりとりをしているツタヤ誘致自治体に限らず、全国で起きている黒塗り公文書が出た事件をなるべく多く集めて分析してみたいと思ったからです。
全国各地で出された黒塗り公文書を調べているうちに、神奈川県平塚市で、黒塗りが外れたケースがあったことを2017年11月の毎日新聞が報じていたことを知ったのがきっかけでした。
平塚市の情報公開について報じた2017年11月の毎日新聞の記事。有料会員になって該当記事を探したがみつからなかったため、毎日新聞に問い合わせたところ、地方版の記事であることが判明。 |
東京都の葛西臨海水族園のように、改修計画に関して大量の黒塗り公文書が開示されたことが、すでに大きなニュースになっている場合は、その事業プロセスがわかるものとして開示請求をかければ、黒塗り文書だけは入手できます。
ところが、平塚市のように、すでに審査会をへて黒塗り部分が一部開示になった文書というのは、どこにも公開されていないうえ、すでに文書そのものも廃棄されているなど、当事者でないと、なかなか入手できないんですね、
世の中には、役所が黒塗り文書を出してくる事案は無数にありそうだから、いろんなケースの黒塗り文書を入手して類型別に分析・研究することができるはずと思っていた私の考えが浅はかだったということを痛感する結果となりました。
そこで、平塚市でこの公文書を請求した問題に関与している市民団体を探して、その関係者の方にお願いしてみることにしました。
黒塗りされた公文書の事案について、snsなどで情報発信をされている市民団体の関係者の方に、「開示された文書をみたいのですが、どなたか、それをお持ちの方をご存じないでしょうか?」という旨を依頼したメールを出してみところ、
幸運にも、すぐに「わかりました。探してみます」とのご返事をいただきました。それから一週間ほどした頃に、当初黒塗りされた文書と、審査請求を経て、黒塗りが一部外れた文書のコピーをセットでお送りいただいたという経緯でした。
下をみてください。まず、これが当初黒塗りで出てきた文書の一覧です。
企業の提案書の一部らしく、肝心の箇所は、ことごとく黒塗りされていました。
そして、審査会にかけられた結果「こんなに黒塗りするのは不適切、ココとココはちゃんと開示しなさい」と言われた結果、出てきたのが、以下の文書です。
ほんの一部だけ抜き出したものなんですが、黒塗りされているから、さぞや人に知られたら困る重要な内容が書いてあるのかと思ったら、なんのことはない、ほとんどが、ただの配置図でした。
えっ、こんなものが企業秘密?
そう目を疑うものばかりでした。
最近はツタヤ自治体でも、よく取り入れられる「マーケット・サウンディング調査」という名目で、企業側が気軽に自社のアイデアを提案できる手法。「対話」を通じて市場性等を把握するのが目的で、正式なプロポーザルではないとされているためか、多くの自治体では、幅広く、いろんな事業者から、施設活用などについてカジュアルにアイデアを募集している手前、それがすべて市民に開示されるのはマズイという気持ちになるのはわからないでもないです。
しかし、だからといって、企業秘密でもなんでもないものまで、ことごとく真っ黒に塗って出してくるというのは、いかがなものかと思いますね。
そういうふうに闇雲に黒塗りするのは、あきらかに条例の主旨に反するので、一部は開示しなさいと、平塚市情報公開審査会が答申を出してくるのは、当然と言えば当然のことなのでしょう。
このへんの詳細については新刊で、専門家の見解を詳しく解説していますので、興味のある方は、ぜひ平塚市情報公開審査会の答申内容とともに、そちらをご参照ください。
さて、平塚市の市民の方が開示請求して黒塗りになったのは、どういう事案だったのかということも文末に簡単に説明しておきます。(新刊の草稿の一部。ページ数オーバーのためゲラで一部削除した文章です)
一言で言えば、いま全国各地で行われている「稼げる公園」プロジェクトです。ちなみに、平塚市のこのプロジェクトは、市民団体の方々の運動のかいあって、いまだに市長の思う通りには進んでいません。
【平塚市で起きた黒塗り公文書事件】
平塚市は、2017年に、国道134号線沿いの海岸林を含む公園整備計画を発表した。もともとは、市民から要望のあった、プール跡地を整備する計画だったが、Park-PFIの制度を利用するために、一定以上の面積が必要だったため、隣接する海岸林エリアを対象区域に加えることで開発面積の基準をクリアする計画案を作成した。これが不幸の始まり。
海岸林は、大規模な地震による津波から住民を守り、また海岸の塩・砂・風を防ぐ防砂林としての機能を長年果たしており、またその景観も市民にとっては、貴重な財産である。それにもかかわらず、市長がロクに市民の意見も聞かずに、海岸林エリアの樹木を伐採して、なにもない無味乾燥な公園にしようとしている。そんな計画を市民は了承していない。そう思った市民団体が、署名活動などの反対運動を繰り広げるに至ったのである。
この事業の経緯のなかで、とりわけ興味深いのが公文書の開示問題だった。ことの経緯に不審を抱いた市民が2018年10月12日「平成29年度実施 龍城ケ丘ゾーン公園整備に関るマーケットサウンディング結果に関する資料一式」を市に対して開示請求したところ出てきたのが下の画像の書面である。
ざっくばらんに事業者の意見を聞くサウンディング市場調査という手法ではあるものの、中身は正式な提案書となんら変わらない。
平塚市は、その提案書のなかの建築物及び駐車場の配置を示すイメージ図を丸ごと不開示とした。
開示しなくてもよい例外として条例に定められている「提案した法人の競争上の地位その他正当な利益を害する」(要するに企業秘密)を根拠にした不開示だった。
請求者がすぐに「不開示はおかしい、すべて開示すべきだ」として、不服を申し立てる審査請求を行なったところ、平塚市の情報公開審査会にかけられた。弁護士など有識者によって構成される審査会が審議した結果、翌年2019年4月24日、市が丸ごと非開示とした「建築物及び駐車場の配置を示すイメージ図」を開示すべきとの答申を出したのだった。
「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)
※今回のタイトルは、「水割りをくださーい♪」で有名な“メモリーグラス 堀江淳 1976年 ”(https://www.youtube.com/watch?v=R3Hxw7SU4qk)から着想しました。