2025年8月5日火曜日

BJアーカイブ第3回・指定管理制度のデメリット(2015年12月9日)

 

こんにちは、日向です。


本日は、先月末からはじめましたBJアーカイブの第三回目を掲載したいと思います。


すでにBJサイトでは消されていましたので、取り急ぎ、魚拓(https://web.archive.org/)されていた記事を以下に再録しておきます。


掲載日は、2015年12月9日です。2015年12月だけでも、これで3本めの記事。実は、この後さらに、2本掲載されていますので、この月だけでも合計5本、BJにはツタヤ図書館関連の記事が掲載されていたことになります。


当時、武雄市のクズ本問題から始まって、住民訴訟へ発展し、海老名市でも独自分類が大混乱を引き起こし、愛知県小牧市に至っては、住民投票によるツタヤ計画否決と、これでもかというほど、炎上案件がつづいていたため、ツタヤ図書館問題は世間の関心が高かったということなんだろうと思います。


今回紹介する記事は、前の2本からのつづきではありませんが、以前から、私が書きたかった、図書館における指定管理制度のデメリットについて解説しています。


公共施設運営における「委託」と「指定管理」の違いがあまりにも世間には理解されていないようでしたので、そこにスポットをあてています。


いま見返すと、加筆・修正したい箇所が結構ありますが、とりあえず当時の記録として、そのまんま再録しておきたいと思います。


よろしくお願いいたします。



 

ツタヤ図書館、契約ずさんとして住民が訴訟!市が住民の情報開示要求を拒否!深まる不信

「武雄市図書館 HP」より
 当サイト記事でも何度か取り上げたが、レンタルビデオチェーンTSUTAYA(ツタヤ)を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が公共図書館を運営するに当たって、数々の疑惑の声が上がっている。その一方で、「新しいことを始めると不具合はつきもの。恐れずにチャレンジして、そのつど改善していけばよい」と、CCCを擁護する声も根強い。

 また、10月からCCCに図書館の運営を任せている神奈川県海老名市の住民アンケートでも、CCCの図書館運営に「満足している」と回答した人が8割を超える【※3】など、地元住民から一定の評価を得ていることも、まぎれもない事実である。

 しかし、これまでCCCによる不可解な図書館運営を見せつけられてきた「反ツタヤ民」からすれば、まるでチャリティーイベントの主催者が人を集めておきながら、会場内で別の私的な商売をして儲けているのと同じように映るだろう。

 つまり、公共施設で私腹を肥やす背信行為に対して怒りの声が上がっているのに、「大勢の人が来て喜んでいるのだから、それで何が悪い」と開き直っているようにもみえ、元の地味な図書館のほうがよっぽどマシと思う人も多いのではないか。

 この問題が深刻なのは、いくら反対する市民がCCCの図書館運営を糾弾し続けても「ツタヤ図書館」は簡単にはなくならず、また今後も同じスタイルの図書館が全国各地に続々とできていくのが確実であるという点だ。

 なぜならば、ツタヤ図書館で見られるような民間企業に公共施設の運営を任せる方式は、通常の民間委託とは根本的に性質が異なる「指定管理者制度」だからである。

 そもそも、CCCの公共図書館運営が度を超した公私混同になっている原因は、現行の指定管理者制度が、公務を利用して野放図なカネ儲けを企む企業にとっては抜け道だらけだからだ。行政が公務の受託企業を監視監督するガバナンス制度も正しく機能していないことが、市民たちの追及によって次第にわかってきた。

「問題が生じても、役所が指導さえすれば改善されるはず」と考えるのは、指定管理者制度の実態をまったく知らない、おめでたい話と言わざるを得ない。

指定管理者制度の問題点

 では、どこが問題なのか、具体的にみていこう。

 指定管理者制度とは、2003年の地方自治法改正によって、自治体が指定した民間の企業や団体に公の施設の管理を代行させることができるとした制度である。

 従来の管理委託制度が、民間事業者との契約によって具体的な業務の一部を委託するものであったのに対して、指定管理者制度は、指定を受けた業者に管理権限そのものを委任する行政処分の一種で、請負契約とは本質的に異なる。つまり、公共施設の運営全般に必要なことについて、指定した民間企業にほぼ全権を委任してしまうのが大きな特徴で、「丸投げ」に近い。

 指定管理者制度の問題点は、以下の5点である。

(1)公募は必須でなく、トップダウンで決めやすい

 指定管理者の選定は、原則として公募によって行われるが、場合によっては非公募でも構わない。つまり競争入札にしなくてもよいのだ。合理的理由さえあれば、随意契約としても問題はない。【※1】

 ただし、事業者の指定にあたっては、運営委託費の額にかかわらず、必ず議会の議決を経なければならない。そのため、指定管理者の選定が、市長をはじめとした議会の与党議員たちの強い影響を受けた「政治家案件」になりやすい。

 ツタヤ図書館の場合、佐賀県武雄市海老名市ともに、街の活性化に役立てたい市長サイドからCCCにアプローチしたとされていることからもわかるように、オープンな場で市民に説明しなくても、政治家がトップダウンで業者を決めやすい仕組みになっているといえる。

(2)情報開示請求が困難になる

 日本では「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)によって、行政が作成した書類については原則としてすべて開示することが義務づけられており、誰でも開示請求できる。そのため、図書館運営のような公務に関しては、仮に不正行為が行われていても発覚する可能性が高い。ところが、民間企業がからむ指定管理者においては事情が変わってくる。

 武雄市では、市民がCCCとの契約内容を開示するよう開示請求を行ったものの、市側は請求から1年以上たってから「契約内容はCCCの営業ノウハウに当たるため、開示できない」との決定を発表した。

 それを受けて市民側が異義申立を行った結果、情報公開審査会は「開示すべき」と判断し、武雄市がようやく開示に応じたが、請求から開示までになんと2年もかかっているのだ。

 それでも武雄市図書館のケースは、市当局が保持している情報だったために最終的には開示されたが、指定管理者しか保持していない情報についてはどうか。指定管理者の情報公開は努力規定にすぎないため、経理財務状況など指定管理者内部の情報については指定管理者が拒否した場合には、それ以上情報をたどるのはほぼ絶望的になる。

 うがった見方をすれば、指定管理者は都合の悪い情報をいくらでも隠蔽できるのだ。


(3)住民監査請求もできない(※2)

 市政運営などで不正行為の疑いがある場合、住民が不正を正す「伝家の宝刀」として設けられているのが、住民監査請求である。

 武雄市図書館のケースでは、市が開示したCCCとの契約内容を精査した市民が「あまりにもずさんな手続きによって結ばれた契約だ」として、今年6月に監査請求を行ったところ、市は法定期間(その事実が発生、または知ってから1年)が経過していることを理由として、2週間後に請求を却下している。監査請求の基になった契約内容に関する情報を2年も開示しなかったうえに、「1年経過したら監査請求できない」とは、あまりにも手前勝手すぎる。

 そのため市民たちは、当時の市長に対して1億8000万円の損害賠償を求める住民訴訟を提起した。

 このケースでは、指定管理が始まる前に武雄市がCCCと交わした契約そのものが監査請求の対象だが、指定管理が始まってから指定管理者が不正行為を行った場合、監査請求を行うことはできるのだろうか。

 その場合、住民監査請求を定めた地方自治法242条1項が規定する財務会計上の行為に当たらないため、対象外となっている。請求したとしてもすぐに却下され、それ以上追及できないのが実情だ。この点も、制度に穴があるとしかいいようがない。

(4)利益が出ないため周辺事業で儲けようとする

 指定管理者による公共施設の管理運営においては、毎年各事業者について業務の評価を行うのが一般的だが、業務の評価が低かったとしてもペナルティーが課せられるわけではない。

 逆に、指定管理者サイドからみれば、いくらがんばっても委託管理料が増えるわけではないため、できるだけ費用を抑えて利益を確保しようとする。

 特に図書館のように利用者から料金を徴収できない施設の運営においては、その傾向が顕著だ。ちなみに、武雄市図書館を例に取ると、13年の開業時に募集した「書籍コンシェルジュ」のアルバイト(蔦屋書店との共通募集)の時給は730円。海老名市立中央図書館の求人を見ると、フルタイムの司書スタッフは「月給19万3000円以上」だ。

 また、普通にやっていたのでは儲からないため、ツタヤ図書館のように併設した店舗で儲けるビジネスモデルが出てくるのは、ある意味必然といえるだろう。

(5)行政のガバナンスが正常に機能しない

 指定管理者は、コンプライアンス上問題のある行為(または不作為)をなすケースもあるが、不祥事を起こしても指定を取り消されるケースはかなり稀である。

 法律上、取消に当たって議会の議決は不要とされているものの、指定管理者の選定を主導した首長や与党の有力議員の意向は無視できないだろう。

 指定管理者の不祥事は、選定した役所の失態として市民にとらえられかねないため、できるだけ表沙汰にせずに穏便に済ませようとするだろう。逆に、市民からすれば、役所が不正行為をした民間事業者とグルになって不祥事を隠蔽しているようにしか見えない。

 また、指定を取り消すとなれば代わりに施設を管理運営できる体制を整えなければならないが、一度指定管理に移行してしまうと直営に戻して運営するだけのノウハウがもはや自治体にはなくなっている。かといって、後釜となる管理者を見つけるのも容易ではない。つまり、「不正行為が発覚したら、即指定を取り消す」ということは、現実的に相当困難だ。その結果、行政のガバナンスが正常に機能しないことが常態化してしまう。

指定管理者制度は沈みゆく旅客船?

 公共施設の民間委託を、大型の旅客船の運営にたとえてみよう。

 経営を効率化する際、船会社が最初に手をつけるのは、船内のレストランや劇場、遊技施設、客室清掃などの部分だ。それぞれ特定の業務を専門の業者に任せれば、効率よく業務をこなせるようになるばかりか、スタッフを直接雇用しなくて済むため、その労務管理の手間も省ける。

 次の段階が、船を動かす機関室の部分の外部委託だ。自前の機関士を雇用して、イチから一人前に育てなくても、そのつど外部から派遣してもらえば、自社では大して苦労もせずに、船を運行させていくことが可能となる。

 それでも、船の運行に関してすべての責任を負っている船長だけは船会社が直接雇用している正規社員を使い、決して外部委託はしないものだが、さらに費用を削ろうとしたときには、この船長の権限までも外部に委譲して、旅客船運行そのものを別の会社に任せる方式が浮かび上がってくる。この「船の運行を丸ごと代行させる」方式が指定管理者制度の本質である。


 この場合、一部委託とは違って、船長が船会社とは異なる会社に雇用されているという点が大きい。雇用形態も正規社員とは限らない。そうすると船長は、乗船客や船会社の安全や利益に忠実ではなくなる可能性がある。

 昨年韓国で、修学旅行中の高校生ら476名を乗せたまま沈没するという大惨事を起こしたセウォル号のことは記憶に新しいだろう。この事故で、乗客を救助せずに真っ先に逃げ出した船長は非正規雇用だったと伝えられているように、船会社が現場責任者の待遇をないがしろにすると、大きな代償を払うことになる。

 公共施設の一部業務委託は、財政難に苦しむ地方自治体にとって、ある意味仕方ない施策といえるが、丸ごと民間に任せる指定管理者制度は問題が多い。特に図書館のような文化施設にはなじまない。ましてや、海老名市のように本来、地域館を統括して司令塔の役割を果たす中央図書館の機能まで指定管理にしてしまうのは、いきすぎである。ちなみに、武雄市は市内に図書館が1館しかなく、その図書館を指定管理にしている。

 日本図書館協会によれば、全国に約3200ある公共図書館のうち、指定管理にしているのは470館で、年々増え続けてはいるものの、それでもまだ14%程度である。

 たとえば、市内に18の図書館を抱えている横浜市の場合、そのうち指定管理者に運営を任せているのは1館だけで、試験的に導入しているにすぎない。

 全国で最も民間委託を熱心に進めている東京・足立区ですら、14ある地域館はすべて指定管理となっているものの、中央図書館だけは区の直営である。

 今後も、「民間委託は素晴らしい成果を上げる」という先入観に騙され、小規模都市の中央図書館が次々と“ツタヤ図書館化”していきそうな勢いである。

 どのように街を活性化させるか頭を悩ませている自治体にとって、CCCは丸投げしておけば、難題の「人が集まる街づくり」まで代わりに企画、実行してくれるありがたい存在なのかもしれない。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト



【※1】2025年8月5日 特命随意契約は、緊急を要する事業や、他社がマネのできない特殊なノウハウを持っている企業と契約する場合にのみ特例的に許されるものであり、当時のCCCは、そのようなノウハウはもっておらず、すでに書店・物販やカフェを併設した図書館を運営していた企業はほかにもあった。よって、「非公募でも構わない」「公募は必須でなく、トップダウンで決めやすい」という記述は誤解をまねく恐れがある。

(※2)2025年8月5日 指定管理者制度上では「住民監査請求もできない」というのはあきらかな事実誤認です。運営者が損害を与えるなど、会計上の不正行為疑惑があれば、ごく普通に監査請求ばできます。


【※3】2025年8月5日 “神奈川県海老名市の住民アンケートでも、CCCの図書館運営に「満足している」と回答した人が8割を超える”とあるが、このアンケートは、全市民を対象とした調査ではない。あくまでも来館した人に対する調査にすぎない。CCCの運営に不満を抱き、来館しなくなった市民の意見はそこには入っていない。また、書面による自由回答形式ではなく、CCC職員による対面調査であるため「不満」と回答しにくい(圧迫面接のよう)との指摘がなされている。よって恣意的な手法によって導き出された調査結果と言える。その後もCCCは「市民の8割が満足」を自社運営の優れた点としてアピールしているが、これらの理由から、そのアピールを、同社の評価として採用すべきではないとの指摘が絶えない。






0 件のコメント:

コメントを投稿