自治体が定期的に、図書館のありかたを見直すにあたって、その基本思想といいますか、市民とも対話を重ねた結果、こういう図書館をつくろうとなりました、というような報告をするのが基本計画です。
ところが、多賀城市のそれは、そのような構成にはなっていませんでした。
簡単に、これまでの歴史をふりかえったうえで、ツタヤ図書館誘致自治体にありがちな「旧来型」図書館は、こういうところがダメ、ああいうところもダメ、あんまり利用もされていないダサイ図書館だってことを浮き彫りにしたうえで、これからは、こういう新しい図書館を作っていきましょうという内容です。
その「新しい図書館」とはなんぞや、というところの答えをパクってるんではないかというのが今回の疑惑です。
酷似しているのは、世界的に有名な図書館の専門家であるイタリアのアントネッラ・アンニョリ氏の『知の広場』という本です。以下のその酷似部分のダイジェストを掲載しておきます。
似てますよね。
で、まぁ、似てるのはいいんです。巻末に「参考文献」として、この書名をあげたうえで、公文書ではありえないスペシャルサンクス文まで掲載しているのですから。
ただ、ちゃんとするのであれば、
引用箇所はカギカッコで囲まないと、まるで自分たちのオリジナルの意見みたいに思われてしまいます。
なので、その時点でルール違反は明白です。公文書としては、完全にアウトと言ってもいいと思います。
4ヶ月後に「計画(案)」
さて、前回は、この文書がツタヤ図書館誘致のためのスケジュールに無理やりあわせて、誰かが急ごしらえで作成したものではないかということを、いくつかの証拠をあげて述べました。
で、その点は、いくら詰めても証明はできないのですが、追加の証拠がもう一つ出て来ました。
文書名で検索をかけたら、keikumaさんの
「たけお問題文書館」に保管されていた関連文書がひとつヒットしました。
第2次多賀城市立図書館基本計画(案) |
「第2次多賀城市立基本計画」と、同じタイトルなんですが末尾に「(案)」がついています。作成日はありませんが、表紙には「平成26年3月」となっています。
「案」なのに、なぜか問題の完成文書が作成されてから4か月後の文書ということになっているんです。
訳わかんないですよね。ずうっと前に作成されたものの当初から「平成26年3月」発表の予定だったということでしょうか。
まぁ、武雄市でもCCC提出の見積書の日付がデタラメだったとか、自治体も含めて、いろいろと辻褄があわないことがあるのが「ツタヤ図書館クオリティ」なのでしょうから、その点は、あまり突っ込んでも仕方ないのかもしれませんが。
不可解な参考文献リスト
さて、この奇怪な基本計画の核心は、末尾に記載されている「参考文献」です。全文を引用しておきます。
■参考文献■ 本計画書策定に当たって参照した主要な文献を以下に記します。特にアンニョリ氏の著作『知の広場――図書館と自由』にあっては、私達が目指す理想の公共図書館を創り出す戦略書として「図書館をめぐる時代環境への示唆に富む考察」、「現代の公共図書館の存在意義への言及」及び「屋根のある広場のような図書館を表現するための具体的な方策」に関わる記述について、また「知の広場」「屋根のある広場」などの重要な概念について、多賀城市立図書館の新しい姿を形創る上で参照したことを申し添えます。
・アントネッラ・アンニョリ 著、萱野有美 訳 『知の広場――図書館と自由』 みすず書房
・清水玲奈 著 『世界で最も美しい書店』 株式会社エクスナレッジ
ついでに、ビジネスジャーナルに掲載しました、“コピペ疑惑”に対する多賀城市教委の釈明コメントも引用しておきましょう。
「第二次多賀城市図書館計画は、教育委員会事務局で作成して図書館協議会のメンバーの方たちにご承認いただいたものです。出版社の担当者に計画案文を確認いただき、問題ない旨の回答がありました」
これ、おかしくないですか?
自治体が作成する公文書に、著名な専門家の意見をカギカッコもつけずに引用しておいて、後から
「出版社の担当者に計画案文を確認いただき、問題ない旨の回答」
をもらっているんですよ。
そんなこと、ありえないですよ。
もしあったとしたら、
誰かが作成した文書を市が確認したら、ほかの本からのコピペした箇所が数多くみつかった。いまさら書き直す時間的な余裕もないし、書いた本人も改める意志もないようなので
仕方なく「無断引用した本の版元と著者に断って、許可をもらいますから」というCCCの提案をそのまんま受け入れたのではないか。
--というのが私の個人的な感想です。
参考にしていない「参考文献」
もうひとつ不可解なのが参考文献として挙げられている
『世界で最も美しい書店』
という本です。誤解のないように言っておきますと、『世界で最も美しい図書館』ではないですよ。『~書店』ですよ。
入手して読んでみましたが、この本のどこを探しても、基本計画の内容とかぶるところはありませんでした。そりゃあ、そうでしょう。図書館の本ではなく、世界中の書店を紹介した写真集なんですから。
どうして、関係ない本を「参考文献」として、自治体がわざわざ列挙しているのでしょうか。『知の広場』の版元ともまったく無縁の建築関係の専門出版社が出した本ですよ。
CCC広報部員の正体
『世界で最も美しい書店』について、関係者に聞いたところ、どうやら「タイアップ本」のようです。
「タイアップ本」とは、企業などが宣伝のために出版する本のことで、通常は初版分すべて買い取りの条件で出された本のこと。要するに宣伝本ですね。
2010年に代官山蔦屋書店を華々しくデビューさせたCCCが自社の宣伝のために作った本といってもいいでしょう。
そんな本をなにゆえ、多賀城市が図書館基本計画の参考文献としてあげたのかが大きな謎なんですが、その謎を解く鍵となるのが、ビジネスジャーナルに、私が書いた以下の一文です。
ちなみに、同書には後半部分で代官山蔦屋書店の写真と紹介文が掲載されており、巻末の奥書には現役CCC広報部員の名前がクレジットされている。
こここからは、また私の「個人的な感想」なんですが、
このCCC広報部員の方が、基本計画を執筆したのではないかと思います。だからついでに、自分が編集に参画した別の書籍を参考文献に入れておいたと。
ネットの世界というのは、恐ろしいもので、この広報部員の方のお名前だけで検索すると、その方が広告業界のご出身であり、なおかつ雑誌の編集長まで務められた方であることがわかります。ああ、なるほど、そういうことかって、みなさん思いますよね。
代官山蔦屋書店のブランディングを手がけて成功に導いた彼女が、今度は、社長直々の命を受けて、図書館のブランディングも担当したのではないか。
武雄市の元祖ツタヤ図書館のメディア戦略は、なかなか見事なものでしたが、しかし、広告業界の論理をそのまんま行政の世界に持ち込んだのですから、ある意味「事実」などどうでもいい無茶苦茶な世界になってしまいますよね。
もしご本人がこの記述をご覧になっていたら、ぜひご反論していただきたいと思います。お待ちしています。
で、一方の多賀城市は、悲しいかな、一切参考になんかしていない、この「幻の参考文献」についてまで、ご丁寧にフォローしているんです。
この本を参考図書とした理由について市教委は、「本を通じて市民文化が成り立っている事例などが紹介されており、図書館を地域コミュニティ創出の場に位置付ける着想を得たため、参考文献として明記しました」と説明している。
ホント涙ぐましいほど、けなげにCCCをかばっています。
すべては、ツタヤ図書館オープンというゴールに向かって辻褄をあわせる八百長なのかって、疑ってしまいます。
今日はこのへんで、やめておきます。
以下の記事で最初に発表しました。
ツタヤ図書館、市の基本計画に盗用疑惑浮上…市長、突然のツタヤ委託宣言の不可解
2019.1.17追記 基本計画の末尾に記載された参考文献の刊行日は、以下の通り。
・『世界で最も美しい書店』 2013/2/26
・『知の広場――図書館と自由』2011/5/11
(武雄市図書館・歴史資料館が、ツタヤ図書館として新装開館したのは、2013年4月1日)
ちなみに『世界で最も美しい書店』 と同じ版元・エスクナレッジから『日本の最も美しい図書館』(立野井 一恵 著)が2015/5/30に刊行されているが、こちらは“タイアップ本”ではない一般の市販本だった。同書には、武雄市図書館・歴史資料館が収録されている。
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