2024年10月9日水曜日

新刊に書けなかった“黒塗り率”の秘密

 

こんにちは、日向です。


新刊を出すときは、いつも「あれがああなったのは、実は、こういう事情があったからなんですよ」というエクスキューズ(要するに言い訳)を書きたかったのに


結局はどこにも書けなかったなぁと、心残りに思うことがあります。今回も、そういうのが、いくつかありました。


そこで、本日は、新刊についての言い訳をひとつだけ書いておきたいと思います。



今度の新刊のオビには、こう書かれています。


黒塗り率92%!


いったい、何を、


そんなに隠したいのか?





拙ブログの読者の方は、すでにおわかりのように、


これ、2018年に和歌山市がツタヤ図書館になる新市民図書館について私に開示した公文書のことです。


これまで、ブログやビジネスジャーナルの記事でも、さんざん書いてきたように、開示した文書のほとんどが黒塗りされていて、その公文書の黒塗りされた率が9割を超えていたということなんです。


これみて、あれっ? 和歌山市の黒塗り率って、もっと酷かったんじゃあなかったっけ?


そう思った人は、ピンポンです。



2018年9月に、ビジネスジャーナルへ寄稿した記事では、こう書いてました。


下の写真は、総額64億円の補助金が投入される、ある自治体のプロジェクトにおける関係者会議の議事録である。筆者が4月20日に開示請求を行い、45日の延長の末、事務手続きを経て7月4日にようやく入手した。


 開示された1400枚超のうち、全面黒塗りが1000枚超。黒塗りとなっている割合(黒塗頁数/全頁数)を計算してみると、97.91%に達する。

https://biz-journal.jp/journalism/post_24752.html

和歌山市、ツタヤ図書館に64億円税金投入…関連文書の情報開示請求に全面黒塗りで回答) 


いつのまにか、97%が92%と、5%も減ってしまったのは、どうしてなの?


そう思いますよね。


事情を説明しておきますと、本に書くにあたって、改めて黒塗りされた文書のページ数・行数を数え直し、黒塗り率をより正確に計算し直したら、こうなったんです。


原因は、図書館設計会議に出されていた図面が黒塗りなしで出ていて(同時期に開催された調整会議の添付図面は全面黒塗りでした)、それを換算し忘れていたことや、


一部黒塗りされたページにおける黒塗り率を計算するにあたって、分母となる1ページあたりの行数を40行としていたのを、より実態に即して30行に変えたことなどです。(会議録本体は1ページあたり40行の書式で作成されていたが、冒頭のヘディング部分や見出し、スカスカの議事次第などを考慮して1ページ30行とした)


後者については、1ページのうち10行読める部分があった場合、分母を40行とすると0.25ページとして換算するところを、分母を30行とすると0.33ページとなり、


全体のページ数が多いだけに、黒塗りされていないページ数が少し増える結果となったというわけなんです。



でも、実際に本に掲載して、こうしてカバーやオビでも、大きくこの数字を取り上げてしまうと、この膨大な黒塗り文書と格闘してきた著者としては、なんとはなしに違和感を覚えるんですね。


私の実感としては、あのとき和歌山市が開示した文書の黒塗り率は「92%」よりも「97%」のほうが、しっくりくるといいますか、事実に近いんじゃあないかと、いまも思っています。



そこで、校了直前になって、改めていくつか黒塗り率を換算するルールを変えて、換算し直しました。


結果は、黒塗り率約95%となりました。当初の97%よりもやや低い数値にはなりましたが、それでも少し私の実感に近づいた感じです。


改めて換算するときに、どういうふうにルールに変えたかといいますと、たとえば、見出しだけあって本文がすべて黒塗りされている箇所でも、従来はその見出しの行数のみ、開示行数に換算していましたが、実質の開示率は0パーセントですので、換算し直す際には、開示行数ゼロとしました。(見出しと本文の両方がそろっている場合のみ、その両方を足した行数を一部開示と換算)


見出しと発言者のみ開示され、肝心の本文はすべて黒塗りされた会議録。当初、見出し部分のみ開示行数に換算していたが、実質的にはゼロ開示なので、こういう部分はすべて開示行数に換算しないようにした。


また、1ページの紙のなかで、黒塗りされている箇所はまったくないものの、数行のみ内容が書かれている文書については、従来は全面開示されたページと扱っていましたが、これも実態に即して、書かれた文の行数のみ「一部開示」として換算することにしました。


黒塗りがなければ、無条件で全面開示されたページとして換算していたが、余白が多い場合は、その文書の行数を「一部開示」ページとして換算した。



当初、1400枚のほとんどが黒塗りされているのは「図面が多いからでは?」と、和歌山市の担当部署に言われたことがありますが、肝心の会議録を詳しくみてみると、見出しだけは黒塗りなしでも、ほとんど全てのページの本文が「そこまでやるか!」と驚くほど、細かく丁寧に黒く塗りつぶされているんですね。

日時、開催場所、役所サイドの出席者のみわかるが、あとの会議の内容は、ほぼすべてが黒塗りされている会議録も多い。




ほんの一部、黒塗りされずに開示されている発言もあるが、意味不明。次回会議の日時と場所は、さすがに黒塗りされていない。



詳しくはぜひ、新刊を読んでいただければと思います。


ところで、改めて言うまでもないことですが、自治体の情報公開制度は、どこも原則は、「全部開示」です。


一部、個人情報や企業秘密など例外的に開示できない部分については、そこだけマスキングして開示しますよ


という建付けに情報公開条例はなっているはずなのに、和歌山市がこのときに開示した1400枚は、ほぼ黒塗りで、


ほんの一部例外的にちょろっとだけ、みせてあげるよ


というふうな真逆のスタンスだったわけです。


これはもう完全に情報公開制度の運用が間違っているといますか、ほぼ違法といってもいいような状態だったわけです。



さて、話を元に戻しますと、校了間近に、再度黒塗り率を精査し直して、実態としては92%よりも高い95%であることが判明したものの、それを盛り込むことは、時間的にはすでに不可能でした。


また、そもそも95%という黒塗り率についても、まだ確定的な数字とは言えません。といいますのも、A3版の図面なども1ページとして換算したものですが、その情報量の多さからすると、A3版は、2ページに換算すべきではないか、


黒塗りされていてわからないが、A3版に横書きで2ページ分の文書になっているものもありそうですから、それらをより正確に換算していけば、さらに黒塗り率は高くなるのではないのか(当初明示していた97%以上)とも感じました。


なので、今回の新刊で「黒塗り率92%」としたところは、意味としては


黒塗り率は「少なくとも9割超」で、ほとんどの箇所が内容を解読できないようにされていた


という意味で受け取っていただければと思います。



今後も引き続き、法令にのっとって、適切に情報を開示して、説明責任を果たしていきたいと思います


という役所サイドのテンプレ回答(定型的な言い訳)が嘘八百であることを、だれもが一目でわかる画像として、行政に突きつけているのが


黒塗り公文書


であるということが、本書をお読みいただければ、おわかりいただけるのではないかと自負しております。


よろしくお願いいたします。




「黒塗り公文書」の闇を暴く (朝日新書) 新書 – 2024/10/11 日向 咲嗣 (著)




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