2018年12月2日日曜日

ツタヤ図書館は死んだに等しい

 NewsPicsなるウェブメディアが「【実録】3年前に大炎上した「TSUTAYA図書館」のその後」と題した特集を12/1に配信(有料記事)しています。

 この記事には、早速、経営者や意識高い系の方々が「CCC(TSUTAYA運営本社・カルチュア・コンビニエンス・クラブ)素晴らしい」とコメントする一方、ツイッターなどでは、増田社長のインタビュー等、CCCサイドの情報を垂れ流しただけの内容だとの批判も上がっています。

 しかし、今頃なんのために、こんな「宣伝記事」が出るのでしょうか。近く、新たにツタヤ図書館を誘致した自治体の発表でもあるでしょうか?

 私も、2015年9月に武雄市で起きた同社の選書問題を検証すべく、昨年8月に「ツタヤ図書館は、死んだに等しい」と題した記事を発表しています。

 2016年3月に新装開館した宮城県多賀城市にCCCが提出した3万5000冊の選書リストを、専門家の協力を得て分析した結果をレポートしました。

できるだけ主観的な見方を排して客観的なデータをみることで、いったい、ツタヤ図書館では、いまなにが起きているのかを探ったものです。

 NewsPicsの記事を支持する方たちのコメントで気になったのは、

「『指定管理』というしくみは、事業者が行政の要求に応えて図書館の価値を高めれば高めるほど収益が下がってしまう」

とのご意見でした。本当でしょうか? 私がツタヤ図書館の事例検証から得たのは、それとはかけ離れた

「『指定管理』というしくみは、行政が事業者の要求に応えて(=やりたい放題を許す)図書館の価値を貶めれば貶めるほど収益が上るもの」

--という感想です。

 そこで、今日は、出版ニュース掲載記事をダイジェスト版で、ご紹介しておきます。

みなさんも、ご自身で考えてみていただければ幸いです。


暴かれたツタヤ図書館の選書リスト

ツタヤ図書館は死んだに等しい




出版ニュース2017年8月下旬号掲載


 全国にTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となって運営する通称・ツタヤ図書館。2013年に佐賀県・武雄市に登場したのを皮切りに、2015年神奈川県海老名市、2016年宮城県多賀城市、今年2月には岡山県高梁市と、現在、全国で4都市に開館している。

 いずれも、開放感溢れる吹き抜けと壁面一杯に広がる高層書架を配したスペースに、お洒落なカフェや新刊書店を併設。新しいスタイルの公共図書館として人気を博しているが、一方でCCCの運営方法については批判が絶えない。

 筆者は、昨年2月、3館めの多賀城市で新装開館前にCCCが市教委に提出した「追加購入蔵書」3万5000冊の選書リストを入手。これを「東京の図書館をもっとよくする会」の大澤正雄氏と池沢昇氏らの専門家の全面的な協力を得て、詳細に分析した結果を昨年5月以来、計15回にわたってニュースサイト『Business Journal』に連載してきた。

 抜群の集客力を誇り「官民一体の成功モデル」と賞賛されたツタヤ図書館だが、多賀城市の選書からは、それとはほど遠い“不都合な真実"がみえてきた。今回は、その内容をダイジェストでご紹介したい。

(中盤は、見出しのみ)

《中古選書編》

1. 3万5000冊のうち1万3000冊が中古

2.中古本の3分の1は、刊行後5年超

3.ジャンルは、大半が生活実用書

4.一冊300円を1000円で購入

5.市教委は、CCCの言い値で購入

6.「鮮度が命」を中古で購入

《新刊選書編》

1.人文、児童書、アートが中心

2.タイトな選書スケジュール

3.市教委が突然、中古選書の受入拒否

4.市教委自ら選書して購入命令

5.新刊なのに、古い本が異様に多い

6.新刊なのに、古い10ケタISBNが

7.新刊リストに大量の古本混入の疑い




書店経営は利益相反

 新刊リストに刊行後6年以上経過した古い本が大量に含まれていたことは、新図書館に、書店に並んでいるのと同じような新鮮な本が大量に配架される情景が、きれいに消え去ったことを意味する。

 逆の立場からみれば、鮮度の落ちた本を買うことで、図書館の蔵書と書店の陳列商品との差別化がしっかりとでき、併設の蔦屋書店への影響を最小限抑えることにCCCは、見事成功したともいえる。

 もし、図書館側に、住民ニーズのより高い最新刊が2万冊も入っていれば、新刊書店の魅力は、相当に色あせていたはず。図書館は、カフェの借景としてお洒落な空間を演出してくれる位置付けだ。
 指定管理者が経営する書店の営業を考えれば、図書館は、できるだけ書店の売れ筋在庫とかぶらないようにならざるをえない。よってツタヤ図書館の選書が市民のニーズに応えられていないのは、書店併設のため「利益相反」という宿命的な課題を抱えているためといえる。

《総括》
 今回、選書プロセスを詳しく分析するうえで、キーとなったのは古本問題に対する多賀城市とCCCの対応である。
 ツタヤ図書館が最初に、激しい批判を浴びたのは、2015年8月のこと。

 市民の開示請求によって公開された武雄市図書館の選書リストに大量の古本が含まれていたことが発覚。埼玉ラーメンマップ、浦和レッズ本、ウインドウズ98入門書など、極端に市場価値の低い本が多数含まれた約1万冊を、総額2000万円で購入していたことが発覚した。

 この事件は、ネット上のみならず、新聞や雑誌、テレビのニュースやワイドショーなど一般のメディアでも繰り返し報道されて、世間の大きな注目を集めた。

 その批判にたえかねたのか、9月10日、CCCは、系列の古書店・ネットオフから760万円で購入したことや「より精度の高い選書を行うべき点があったと反省している」と自社サイトで謝罪文発表。翌日、武雄市も予算と実際購入額との差額は「書架の安全対策に使った」と釈明するまで追い込まれた。

謝罪の5日後に再犯

 今回の選書リスト分析で、非常に興味深かったのは、この前後の時期におけるCCCと市教委の動きだった。

 CCCが「より精度の高い選書を行うべき点があった」と謝罪した、その舌の根もかわかないうちに、大量の中古本を選書していた事実が浮かび上がってきた。

 謝罪文が発表された5日後の9月15日に第3回選書リストが提出されている。2049冊すべて「中古本」だ。刊行後10年超経過した本は一冊もなかったが、全体の約四分の一にあたる491冊は、2009年以前に刊行された本だった。

 世間を騒がせた中古本問題を気にしたのか、市教委は、この選書の受入を一部拒否してはいるものの、7割以上は受入を許可している。さらに空白の2か月半挟んだ12月1日にも、第5回・中古部分1700冊の選書リストが提出され、こちらについても市教委は、審査の結果、ほとんどを受入許可している。

 古本騒動の渦中にあった、このときのCCC図書館運営事業に対する世間の信頼は失墜し「ツタヤ図書館は、死んだに等しい」と言っても決して過言ではない状況だったはずだ。

 信頼を取り戻すためには、行動で示すしかない。よりによって、そんなときに、中古本の大量選書を継続し、市当局も、それをやすやすと許可したのは、市民に対する裏切り行為だったのではないか、という疑念がいまだ消えない。



公金使途すら開示を拒否

 筆者は、選書リスト分析から浮かび上がってきた疑惑を解明するために、多賀城市と指定管理者であるCCCに対して、追加購入蔵書の納入企業一覧と価格等がわかる詳細な文書の情報を開示請求したが、多賀城市は「不存在」と回答し、CCCは理由も明示せずに開示を拒否した。

 公金使途の詳細すら開示されないのなら、民間に図書館という公益性の高い社会教育施設の運営を任せるのは、明らかに不当である。これが許されるなら、公共施設が一民間企業に私物化され、やりたい放題されていたとしても、その内情は市民には一切わからないではないか。

 CCCの図書館運営に関しては、選書問題に止まらず、館長の天下り問題やTカード導入による個人情報漏洩リスクなども市民から繰り返し指摘されているが、同社はそれらに関して、積極的に改善措置を実施して、その結果を広く市民に開示したというような話を、寡聞にして筆者は知らない。

 筆者にとっては、2015年9月10日のCCC謝罪文発表のときで時計は、完全に止まったままだ。
 いまなお「ツタヤ図書館は、死んだに等しい」と言わざるを得ない。



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